【宅建過去問】(平成10年問03)敷金返還請求権

建物の賃借人Aは、賃貸人Bに対して有している建物賃貸借契約上の敷金返還請求権につき、Cに対するAの金銭債務の担保として質権を設定することとし、Bの同意を得た。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

  1. Aは、建物賃貸借契約が終了し、AからBに対する建物の明渡しが完了した後でなければ、敷金返還請求権について質権を設定することはできない。
  2. Cが質権の設定を受けた場合、確定日付のある証書によるAからBへの通知又はBの承諾がないときでも、Cは、AB間の建物賃貸借契約証書及びAのBに対する敷金預託を証する書面の交付を受けている限り、その質権の設定をAの他の債権者に対抗することができる。
  3. Cが質権の設定を受けた後、質権の実行かつ敷金の返還請求ができることとなった場合、Cは、Aの承諾を得ることなく、敷金返還請求権に基づきBから直接取立てを行うことができる。
  4. Cが、質権設定を受けた後その実行ができることとなった場合で、Bに対し質権を実行する旨の通知をしたとき、Bは、その通知受領後Aの明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については敷金から充当することができなくなる。

正解:3

10-03-0

以下の基本知識を前提に解いていこう。

【敷金契約の性質】最判昭48.02.02

  1. 賃貸借契約に附随するものではあるが、それとは別個の契約である。
  2. 建物明渡義務を履行するまでの賃貸人の賃借人に対する全ての債権を担保する。
  3. 賃貸人は、賃貸借の終了後、明渡完了するまでに生じた被担保債権を控除してなお残額がある場合に、その残額につき返還義務を負担する。
    (賃借人の敷金返還請求権は停止条件付の債権である。)

1 誤り

敷金返還請求権は停止条件付の債権である。
しかし、だからといって、質権の対象とならないわけではない。条件付の債権であっても、通常の債権と同じように、質権の対象とすることができる(民法362条、129条)。

■参照項目&類似過去問
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敷金契約の性質(民法[26]8(1)②)
年-問-肢内容正誤
1R03-01-1賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はない。
2R03-01-2賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものといえる。×
3R03-01-3賃貸借における敷金は、賃貸借の終了時点までに生じた債権を担保するものであって、賃貸人は、賃貸借終了後賃借人の家屋の明渡しまでに生じた債権を敷金から控除することはできない。×
4R03-01-4賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定することは、家屋の明渡しまでに賃貸人が取得する一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質にも適合する。×
513-09-4貸主は、借主の、賃貸借契約終了時までの未払賃料と契約終了後明渡しまでの期間の賃料相当損害額の双方を、敷金から控除できる。
610-03-1賃借人は、建物賃貸借契約が終了し、建物の明渡しが完了した後でなければ、敷金返還請求権について質権を設定することはできない。×
710-03-4敷金返還請求権に質権を設定した者が、賃借人に対し質権実行通知をしたとき、賃借人は、通知受領後明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については敷金から充当することができなくなる。×
806-10-2借主の債権者が敷金返還請求権を差し押さえたときは、貸主は、その範囲で、未払賃料の弁済を敷金から受けることができなくなる。×
敷金返還請求権の担保提供(民法[26]8(1))
年-問-肢内容正誤
113-09-2敷金返還請求権は、賃貸借契約と不可分であり、借主は、貸主の承諾があったとしても、これを借主の債権者に対して担保提供することができない。×
210-09-1賃借人は、建物賃貸借契約が終了し、建物の明渡しが完了した後でなければ、敷金返還請求権について質権を設定することはできない。×
310-09-4敷金返還請求権に質権を設定した者が、賃借人に対し質権実行通知をしたとき、賃借人は、通知受領後明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については敷金から充当することができなくなる。×

2 誤り

敷金返還請求権は、指名債権である。そして、指名債権を目的とする質権の対抗要件については、指名債権の譲渡の場合と同一とされている(民法364条、467条)。
したがって、確定日付ある証書によるAからBへの通知又はBの承諾がない限り、質権設定をB以外の第三者に対抗することはできない。

※譲渡に証書の交付を要する債権を質権の目的とする場合には、証書の交付が、質権の効力要件となる(同法363条)。本肢は、指名債権に関するものであるから、この規定とは無関係である。

■参照項目&類似過去問
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質権(民法[14]1(3))
年-問-肢内容正誤
約定担保物権
121-05-2先取特権も質権も、債権者と債務者との間の契約により成立する。×
効力発生要件
129-10-3不動産質権は、目的物の引渡しが効力の発生要件である。
被担保債権の範囲
129-10-1不動産質権では、被担保債権の利息のうち、満期となった最後の2年分についてのみ担保される。×
214-05-2利息請求権は、常に満期となった最後の2年分についてのみ、質権の被担保債権となる。×
善管注意義務
121-05-4留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有する必要があるのに対し、質権者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、質物を占有する必要がある。×
不動産質権者による使用及び収益
119-07-3質権は、占有の継続が第三者に対する対抗要件と定められているため、動産を目的として質権を設定することはできるが、登記を対抗要件とする不動産を目的として質権を設定することはできない。×
不動産質権の存続期間
129-10-2不動産質権は、10年を超える存続期間を定めたときであっても、その期間は10年となる。
不動産質権の対抗要件
129-10-4不動産質権は不動産に関する物権であり、登記を備えなければ第三者に対抗することができない。
指名債権を目的とする質権の対抗要件
114-05-1
債権質の質権者は、債務者の承諾が書面によるものであれば、確定日付を得ていなくても、この質権設定を、第三者に対しても対抗することができる。×
210-03-2
確定日付のある証書による債権者から債務者への通知又は債務者の承諾がないときでも、質権者は、建物賃貸借契約証書及び敷金預託を証する書面の交付を受けている限り、質権の設定を他の債権者に対抗することができる。×
質権者による債権の取立て
114-05-3
敷金返還請求権に質権の設定を受けた者は、賃借人に対する債権の弁済期到来前に、敷金返還請求権の弁済期が到来した場合は、賃貸人に対し、敷金を供託するよう請求できる。
214-05‐4
敷金返還請求権に質権の設定を受けた者は、賃借人に対する債権の弁済期が到来した場合、賃貸人に対し、敷金返還請求権の弁済期の前に、敷金を直ちに交付するよう請求できる。×
310-03-3
敷金返還請求権に質権の設定を受けた者は、賃借人の承諾を得ることなく、賃貸人から直接取立てを行うことができる。

3 正しい

質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる(民法366条1項)。したがって、質権の実行と敷金返還請求権の行使ができるようになった時点以降であれば、Cは、Aの承諾を得ることなく、Bから直接に取立てを行うことができる。

■参照項目&類似過去問
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質権(民法[14]1(3))
年-問-肢内容正誤
約定担保物権
121-05-2先取特権も質権も、債権者と債務者との間の契約により成立する。×
効力発生要件
129-10-3不動産質権は、目的物の引渡しが効力の発生要件である。
被担保債権の範囲
129-10-1不動産質権では、被担保債権の利息のうち、満期となった最後の2年分についてのみ担保される。×
214-05-2利息請求権は、常に満期となった最後の2年分についてのみ、質権の被担保債権となる。×
善管注意義務
121-05-4留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有する必要があるのに対し、質権者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、質物を占有する必要がある。×
不動産質権者による使用及び収益
119-07-3質権は、占有の継続が第三者に対する対抗要件と定められているため、動産を目的として質権を設定することはできるが、登記を対抗要件とする不動産を目的として質権を設定することはできない。×
不動産質権の存続期間
129-10-2不動産質権は、10年を超える存続期間を定めたときであっても、その期間は10年となる。
不動産質権の対抗要件
129-10-4不動産質権は不動産に関する物権であり、登記を備えなければ第三者に対抗することができない。
指名債権を目的とする質権の対抗要件
114-05-1
債権質の質権者は、債務者の承諾が書面によるものであれば、確定日付を得ていなくても、この質権設定を、第三者に対しても対抗することができる。×
210-03-2
確定日付のある証書による債権者から債務者への通知又は債務者の承諾がないときでも、質権者は、建物賃貸借契約証書及び敷金預託を証する書面の交付を受けている限り、質権の設定を他の債権者に対抗することができる。×
質権者による債権の取立て
114-05-3
敷金返還請求権に質権の設定を受けた者は、賃借人に対する債権の弁済期到来前に、敷金返還請求権の弁済期が到来した場合は、賃貸人に対し、敷金を供託するよう請求できる。
214-05‐4
敷金返還請求権に質権の設定を受けた者は、賃借人に対する債権の弁済期が到来した場合、賃貸人に対し、敷金返還請求権の弁済期の前に、敷金を直ちに交付するよう請求できる。×
310-03-3
敷金返還請求権に質権の設定を受けた者は、賃借人の承諾を得ることなく、賃貸人から直接取立てを行うことができる。

4 誤り

敷金は、明渡完了に至るまでに発生した賃借人の全債務を担保する。したがって、Bは、明渡し完了前に発生する賃料相当損害金について敷金から充当することができる。質権者が賃貸人から返還を受けられるのは、賃借人の債務を差し引いた残りの部分のみである。

■参照項目&類似過去問
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敷金契約の性質(民法[26]8(1)②)
年-問-肢内容正誤
1R03-01-1賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はない。
2R03-01-2賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものといえる。×
3R03-01-3賃貸借における敷金は、賃貸借の終了時点までに生じた債権を担保するものであって、賃貸人は、賃貸借終了後賃借人の家屋の明渡しまでに生じた債権を敷金から控除することはできない。×
4R03-01-4賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定することは、家屋の明渡しまでに賃貸人が取得する一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質にも適合する。×
513-09-4貸主は、借主の、賃貸借契約終了時までの未払賃料と契約終了後明渡しまでの期間の賃料相当損害額の双方を、敷金から控除できる。
610-03-1賃借人は、建物賃貸借契約が終了し、建物の明渡しが完了した後でなければ、敷金返還請求権について質権を設定することはできない。×
710-03-4敷金返還請求権に質権を設定した者が、賃借人に対し質権実行通知をしたとき、賃借人は、通知受領後明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については敷金から充当することができなくなる。×
806-10-2借主の債権者が敷金返還請求権を差し押さえたときは、貸主は、その範囲で、未払賃料の弁済を敷金から受けることができなくなる。×
敷金返還請求権の担保提供(民法[26]8(1))
年-問-肢内容正誤
113-09-2敷金返還請求権は、賃貸借契約と不可分であり、借主は、貸主の承諾があったとしても、これを借主の債権者に対して担保提供することができない。×
210-09-1賃借人は、建物賃貸借契約が終了し、建物の明渡しが完了した後でなければ、敷金返還請求権について質権を設定することはできない。×
310-09-4敷金返還請求権に質権を設定した者が、賃借人に対し質権実行通知をしたとき、賃借人は、通知受領後明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については敷金から充当することができなくなる。×

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