【宅建過去問】(平成13年問10)不法行為

甲建物の占有者である(所有者ではない。)Aは、甲建物の壁が今にも剥離しそうであると分かっていたのに、甲建物の所有者に通知せず、そのまま放置するなど、損害発生の防止のため法律上要求される注意を行わなかった。そのために、壁が剥離して通行人Bが死亡した。この場合、Bの相続人からの不法行為に基づく損害賠償請求に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

  1. Bが即死した場合、B本人の損害賠償請求権は観念できず、その請求権の相続による相続人への承継はない。
  2. Bに配偶者と子がいた場合は、その配偶者と子は、Bの死亡による自己の精神上の苦痛に関し、自己の権利として損害賠償請求権を有する。
  3. Bの相続人は、Aに対しては損害賠償請求ができるが、甲建物の所有者に対しては、損害賠償請求ができない。
  4. 壁の剥離につき、壁の施工業者にも一部責任がある場合には、Aは、その施工業者に対して求償権を行使することができる。

正解:1

1 誤り

即死の場合であっても、被害者本人の損害賠償請求権が観念でき、これを相続人が承継することが認められる(大判大15.02.16)。

※判例は、被害者が重傷を負い、後に死亡した場合には、
(1)被害者が重傷を理由に損害賠償請求権を取得し、
(2)被害者の死亡により相続人が損害賠償請求権を相続する、
と考える(大判大09.04.20)。
即死の場合にも、同様の扱いを認めないことには、即死したかしないか、で結論が異なるというおかしなことになってしまう。

■参照項目&類似過去問
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被害者が死亡した場合(民法[30]1(1)③)

[共通の設定]
Aが故意又は過失によりBの権利を侵害し、これによってBに損害が生じた。
年-問-肢内容正誤
1H24-09-2Bが即死であった場合には、Bには事故による精神的な損害が発生する余地がないので、AはBの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負わない。×
2H20-11-1Aの加害行為によりBが即死した場合には、BにはAに対する慰謝料請求権が発生したと考える余地はないので、Bに相続人がいても、その相続人がBの慰謝料請求権を相続することはない。×
3H19-05-2不法行為によって名誉を毀損された者の慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなかった場合でも、相続の対象となる。
4H13-10-1Bが即死した場合、B本人の損害賠償請求権は観念できず、その請求権の相続による相続人への承継はない。×

2 正しい

被害者の配偶者や子には、その精神上の苦痛に関し、固有の慰謝料請求権が認められる(民法711条)。

■参照項目&類似過去問
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不法行為:損害(民法[30]1(1)②)

[共通の設定]
Aが故意又は過失によりBの権利を侵害し、これによってBに損害が生じた。
年-問-肢内容正誤
1H20-11-4Aの加害行為が名誉毀損で、Bが法人であった場合、法人であるBには精神的損害は発生しないとしても、金銭評価が可能な無形の損害が発生した場合には、BはAに対して損害賠償請求をすることができる。
2H13-10-2Bに配偶者と子がいた場合は、その配偶者と子は、Bの死亡による自己の精神上の苦痛に関し、自己の権利として損害賠償請求権を有する。

3 正しい

工作物の設置・保存の瑕疵に起因する不法行為については、工作物の占有者が一次的な損害賠償責任を負う(民法717条1項本文)。
占有者が損害発生防止に必要な注意をしていた場合に限って、所有者が二次的な責任(無過失責任)を負うことになる(民法717条1項ただし書き)。

本問の占有者Aは、「損害発生の防止のため法律上要求される注意」をしていなかった。
したがって、工作物責任を負うのは、占有者Aである。
この場合、工作物所有者の責任は発生しない。

■参照項目&類似過去問
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土地工作物責任(民法[30]3)

[共通の設定]
Aは、所有する家屋をBに賃貸し、Bが占有使用しているときに、瑕疵により当該家屋の塀が崩れ、脇に駐車中のC所有の車を破損させた。
年-問-肢内容正誤
占有者
1R03-08-1Bは、甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Cに対して不法行為責任を負わない。×
2H17-11-3Bは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。
3H13-10-3Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。
4H13-10-4塀の崩壊につき、塀の施工業者にも一部責任がある場合には、Bは、その施工業者に対して求償権を行使することができる。
5H08-06-4Bは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の占有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。×
所有者
1R03-08-2Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Cに対して不法行為責任を負う。
2H17-11-1Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。×
3H13-10-3Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。
4H08-06-3Aは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の所有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。

4 正しい

損害の原因について他の者に責任がある場合には、工作物の占有者や所有者はその者に求償権を行使することができる(民法717条3項)。

■参照項目&類似過去問
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土地工作物責任(民法[30]3)

[共通の設定]
Aは、所有する家屋をBに賃貸し、Bが占有使用しているときに、瑕疵により当該家屋の塀が崩れ、脇に駐車中のC所有の車を破損させた。
年-問-肢内容正誤
占有者
1R03-08-1Bは、甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Cに対して不法行為責任を負わない。×
2H17-11-3Bは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。
3H13-10-3Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。
4H13-10-4塀の崩壊につき、塀の施工業者にも一部責任がある場合には、Bは、その施工業者に対して求償権を行使することができる。
5H08-06-4Bは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の占有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。×
所有者
1R03-08-2Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Cに対して不法行為責任を負う。
2H17-11-1Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。×
3H13-10-3Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。
4H08-06-3Aは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の所有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。

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