売主の担保責任と悪意の買主

繰り返される質問

今期に入ってから、当サイトへのコメントで、メールで、LINEで、繰り返される質問があります。
それは、以下の質問です。

民法の改正で、悪意の買主でも売主の担保責任を追及できるようになったんですよね?

私の回答

当初、私には、
「何でそんな理解になるのか。」
がよく分かりませんでした。

以下のように回答していたわけです。

  1. 改正以前の瑕疵担保責任は、民法改正により「契約不適合担保責任」に変わりました。
    これは、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」場合に、売主が担保責任を負うというルールです。
  2. 目的物に不具合があったとしても、それについて、買主が悪意(知っていた)のであれば、そもそも、不具合のある物を対象とする売買契約を締結したことになります。それが「契約の内容」なのです。
  3. その物を引き渡せば、売主は「契約の内容」に従って債務を履行したことになります。後になって買主が何か言ってきても、売主が担保責任を負うはずがありません

回答に納得できない?

このように説明しても、納得いかないご様子の受講生がいます。
1週間後くらいに同じ質問をしてくる受講生もいました。

そこで、詳しく聞いてみると、
「◯◯というWebサイトにそう書いてある。」
「そのように説明しているテキスト・過去問集が存在する。」
とおっしゃいます。

え、何で??
私には、その理屈が理解できません。
そこで、皆さんに納得していただけるよう、もう少し詳しく説明することにしました。
長くなります。
「納得できるところまで」読んでいただければ、それで十分です。

改正のBefore After

Before

改正以前の民法は、
「売買の目的物に隠れた瑕疵があること」
を売主の担保責任追及の要件にしていました(改正前の民法570条)。
そして、この「隠れた瑕疵」を「買主が瑕疵について善意無過失であること」と解釈していたわけです。
したがって、買主が善意無過失でなければ、売主の担保責任を追及することができませんでした。

After

今回の改正により、この「隠れた瑕疵」という要件は、なくなりました。
しかし、
「『善意無過失』という要件がなくなった」
からといって、
「悪意でも売主の担保責任が追及できること」
にはなりません。
こんな乱暴な理屈は成り立たないのです。

改正民法の内容

今回の改正により、ルールは、どう変わったのか。
売主が担保責任を負うのは、以下のケースです。

「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(改正後の民法562条1項)

つまり、「契約の内容に適合」しているかどうか、が要件です。
債務不履行になるかどうか、は「契約の内容」を基準に解釈します。買主の善意や悪意を問う必要は、全くありません。そのため「隠れた瑕疵」という要件がなくなったわけです。
そして、「不具合について買主が悪意」というケースを考えれば、それは、「不具合のある物を目的とする売買契約」が締結されたことに他なりません。
売主が負う義務は、「契約内容通りの物を引き渡すこと」です。それを実現している以上、担保責任を負うことはありません。

内田先生のご説明

以上の理屈を最もシンプルに説明しているのは、改正の中心にいらっしゃった内田貴先生の『改正民法のはなし』p.86~87だと思います。
以下、引用します(枠内が引用部分)。

改正により、この「隠れた」という言葉もなくなります。それが実務的に影響があると書いている解説もありますが、そんなことはありません。
「隠れた」が意味しているのは、外から見えないということではなく、当事者がそれを前提に取引していないということです。隠れていない瑕疵は、当事者がその瑕疵があることを前提に取引をし、価格に反映していますから、瑕疵らしきものがあっても責任は生じません。
(中略)
当事者が一定の欠陥があるということを前提に取引をすれば、欠陥があっても契約には適合しているということになります

『改正民法のはなし』は、改正のウラ話なども説明していて、楽しい本です。
直接の試験対策にはなりにくいので、宅建本試験が終わった後にでも、読んでみてください。
https://amzn.to/3tRuNXq

これでも分かりにくければ

「買主が悪意でも売主の担保責任を追及できる」説が正しいとすると、4月以降の世の中では、以下の会話が成立することになります。この説を主張するかたは、お店で以下のような会話をしているのでしょうか?

売主:「これはキズモノですよ。でも、その分安く売っています。ご理解のうえ、購入してください。」
買主:「これを買います。」
売主:「念のため繰り返しますが、これはワケアリ品という奴です。十分に納得できるお客さんだけ買ってください。」
買主(半分キレ気味に)「分かっています。このワ・ケ・ア・リ品を買います。」
売主:「お買い上げありがとうございます。袋にお入れしましょうか。」
買主:「有料ですか?」
売主:「7月から法律が変わって、レジ袋は1枚3円です。」
買主:「有料ならいりません。マイバックに入れて帰ります。」
売主:「お買い上げありがとうございました。またのご来店をお待ちしております!」

(・・・数日後・・・)

買主:「この前買った商品にキズがありました。キズがないものと交換してください。損害も賠償してください。」
売主:「えっ、キズモノでワケアリ品だと説明しましたよ。お客様には、『それでもいい』と納得してお買い上げいただきましたが。」
買主:「そんなことは関係ありません。4月から民法が改正されてルールが変わったんですよ。商品にキズがあった場合、買主が悪意でも売主の担保責任を追及できるんです。お店をやっているのに、そんなことも知らないんですか?」

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売主の担保責任と悪意の買主” に対して7件のコメントがあります。

  1. 本多 より:

    とても分かりやすく自分の中で納得できる説明で大変勉強になりました。ありがとうございます。

    1. 家坂 圭一 より:

      2020年とは、ずいぶん懐かしい記事。
      お読みいただき、ありがとうございます。

      この頃は、本試験でどういう出題がされるか分からなかったので、
      「善意・悪意」「過失・無過失」が出てきたらどうしよう
      という議論があったわけですね。

      フタを開けてみると、心配していたような話は問われず、問題文自体に、ズバリと「契約の内容に適合しない場合」などと明記するルールになっています。
      いくつか例を挙げておきましょうか。

      (令和07年問10)
      Aを売主、Bを買主とする甲土地の売買契約による甲土地の引渡し後に、目的物の品質に関して契約の内容に適合しない土壌汚染が見つかった場合

      (令和06年問10)
      売買契約の目的物が品質に関して契約の内容に適合しない場合において、

      (令和03年10月問07)

      1. Bが甲自動車の引渡しを受けたが、甲自動車のエンジンに契約の内容に適合しない欠陥があることが判明した場合、BはAに対して、甲自動車の修理を請求することができる。
      2. Bが甲自動車の引渡しを受けたが、甲自動車に契約の内容に適合しない修理不能な損傷があることが判明した場合、BはAに対して、売買代金の減額を請求することができる。

      1. 本多 より:

        ご丁寧な返答ありがとうございます。

        直近でとある宅建講座から送られてきたテキストの一問一答の中に
        ・平成15年 問10(1)「契約不適合のため解約ができる」旨の記載があり「古い問題だから直し忘れた誤植かな?」と思い、確認したら「契約不適合だから解約できます」と返答が返って来て、その返答にどうしても納得がいかず自分なりに調べてこちらにたどり着きました。

        この選択肢で「解約できる」としてしまうと、中古ショップのジャンク品コーナーが単なる返品自由の無料配布コーナーになってしまうので「破壊されているのを知っているけど契約不適合だから解約できる」は成立しないだろうと素人意見で思い、全く納得できなかったのですが、最後の店員とのやり取りで「そりゃそうなるよね」と非常に分かりやすい例え話で納得でき、モヤモヤしたものがスッキリしました。

        直近の過去問だとおっしゃられる通り、確かに「契約の内容に適合しない場合」と記載されていますね・・・ ご教授ありがとうございます。 

        改正後に似たような質問が怒涛の様に来たと記載されておられたので「テキスト作ったり講義する立場の人でも書いてて疑問に思わないのかな?」とリアルタイムで首をかしげております。

        1. 家坂 圭一 より:

          疑問が解消できて何よりです。
          法改正以前の問題については、各社が法改正に合わせたメンテナンス(改題)を行っています(はずです)。
          その内容は各社によって異なるので、残念ですが、他社さんの教材に関しては、改題の意図も内容も分かりません。
          実際に教示を改訂なさった出版社さんや受験指導校さんにご確認いただくしかないのですが。。。

  2. 長野 より:

    非常にわかりやすい解説で納得いたしました。ありがとうございます。
    試験日まで日がないですが、最後まで諦めずに突き進みます!

    1. 家坂 圭一 より:

      長野様

      お役に立てて幸いです。
      本試験も迫っていますが、焦らず、ツメの勉強を頑張りましょう!

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