【宅建過去問】(平成19年問10)債務不履行・危険負担
平成19年9月1日にA所有の甲建物につきAB間で売買契約が成立し、当該売買契約において同年9月30日をもってBの代金支払と引換えにAは甲建物をBに引き渡す旨合意されていた。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
- 甲建物が同年8月31日時点でAB両者の責に帰すことができない火災により滅失していた場合、甲建物の売買契約は有効に成立するが、Aの甲建物引渡し債務も、Bの代金支払債務も共に消滅する。
- 甲建物が同年9月15日時点でAの責に帰すべき火災により滅失した場合、有効に成立していた売買契約は、Aの債務不履行によって無効となる。
- 甲建物が同年9月15日時点でBの責に帰すべき火災により滅失した場合、Aの甲建物引渡し債務も、Bの代金支払債務も共に消滅する。
- 甲建物が同年9月15日時点で自然災害により滅失しても、AB間に「自然災害による建物滅失の危険は、建物引渡しまでは売主が負担する」との特約がある場合、Aの甲建物引渡し債務も、Bの代金支払債務も共に消滅する。
Contents
正解:4
苦手とする人の多いテーマなので、まず全体像を先に説明しておこう。
■原始的不能
契約締結前に甲建物が滅失していた場合を原始的不能という。この場合、存在しない物を引き渡すことは不可能だから、そもそも契約自体が不成立である。
ただし、目的物の滅失につき、一方の当事者に故意又は過失がある場合には、契約締結上の過失の問題となり、他方当事者に対する損害賠償が必要となる。
■後発的不能とは
契約成立した後に、目的物が滅失した場合を「後発的不能」という。
目的物を引渡す義務がテーマになっているこの場面では、引渡義務を負う売主を債務者、引渡しを受ける権利を有する買主を債権者と表現する。
■後発的不能(1)-債務不履行
後発的不能のうち、引渡義務の債務者(売主)に帰責性(故意又は過失)がある場合を債務不履行という(民法415条)。この場合、売主は、買主の損害を賠償する義務を負う。
■後発的不能(2)-危険負担
後発的不能のうち、引渡義務の債務者(売主)に帰責性がない場合、これを危険負担の問題という。目的物が滅失した危険(リスク)を、債務者(売主)と債権者(買主)のどちらが負担するか、という問題だからである。
まず、リスクを債務者(売主)が負担する場合、これを債務者主義という(同法536条。左図)。具体的には、「代金を受け取る権利も消滅する」という処理をする。債務者(売主)にとっては、建物は滅失するは、代金は受け取れないは、のダブルパンチである。
次に、目的物滅失のリスクを債権者(買主)が負う場合、これを債権者主義という(同法534条。右図)。具体的にいえば、買主は、目的物を受け取れないにも関わらず、代金全額を支払わなければならない。今度は、買主にとってダブルパンチである。
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では、債務者主義と債権者主義をどのように使い分けるか。以下の表が基本となる。
債権者主義 |
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債務者主義 |
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1 誤り
甲建物が滅失したのは、契約締結(9月1日)前の8月31日であり、原始的不能の問題である。この場合、そもそも契約自体が不成立である。
したがって、Aの建物引渡債務も、Bの代金支払債務も、最初から発生していない。発生していない以上、それらが消滅することもない。
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■類似過去問(原始的不能・危険負担)
内容を見る危険負担
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 29-07-2 | 請負契約が注文者の責めに帰すべき事由によって中途で終了した場合、請負人は、残債務を免れるとともに、注文者に請負代金全額を請求できるが、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還しなければならない。 | ◯ |
2 | 19-10-2 | 売買契約の目的物である建物が、売主の責に帰すべき火災により滅失した場合、有効に成立していた売買契約は、売主の債務不履行によって無効となる。 | × |
3 | 19-10-3 | 売買契約の目的物である建物が、買主の責めに帰すべき火災で滅失した場合、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | × |
4 | 19-10-4 | 「自然災害による建物滅失の危険は、建物引渡しまでは売主が負担する」との特約がある場合、目的物が引渡し前に自然災害により滅失したときは、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | ◯ |
5 | 08-11-1 | 代金の支払い及び建物の引渡し前に、建物が地震によって全壊したときは、売主は、買主に対して代金の支払いを請求することはできない。 | × |
6 | 08-11-2 | 代金の支払い及び建物の引渡し前に、建物の一部が地震によって損壊したときは、売主は、代金の額から損壊部分に見合う金額を減額した額であれば、買主に対して請求することができる。 | × |
7 | 08-11-3 | 売主が自己の費用で建物の内装改修工事を行って引き渡すと約束していた場合で、工事着手前に建物が地震で全壊したときは、売主は、内装改修工事費相当額を買主に対して償還しなければならない。 | ◯ |
8 | 01-09-1 | 家屋の所有権移転登記後、引渡し前に、その家屋が天災によって滅失した場合、売主は、買主に対し代金を請求することができない。 | × |
9 | 01-09-2 | 家屋の所有権移転登記後、引渡し前に、その家屋が放火によって半焼した場合、買主は、売主に対し代金の減額を請求することができる。 | × |
10 | 01-09-3 | 所有権移転登記後、引渡し前に、売買契約の目的物である家屋が、売主の失火によって焼失した場合、その契約は失効する。 | × |
11 | 01-09-4 | 所有権移転登記が完了し、引渡し期日が過ぎたのに、売主が売買契約の目的物である家屋の引渡しをしないでいたところ、その家屋が類焼によって滅失した場合、買主は、契約を解除することができる。 | ◯ |
原始的不能 | |||
1 | 19-10-1 | 売買契約の目的物である建物が、売買契約の成立前に契約当事者の責に帰すことのできない火災で滅失していた場合、売買契約は有効に成立するが、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | × |
2 誤り
契約締結後、目的物引渡前に、目的物が滅失する後発的不能のケース。そして、滅失の原因を作ったのは、引渡しに関する債務者であるA(売主)である。
債務者の責に帰すべき事由で債務の履行が不能となったのだから、Aは債務不履行責任を負い、Bが受けた損害を賠償しなければならない(民法415条)。
売買契約が無効となるわけではない。
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■類似過去問(債務不履行の発生)
内容を見る債務不履行の発生
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 28-09-4 | 売主が信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった場合、買主は、売主に対して、この説明義務違反を理由に、売買契約上の債務不履行責任を追及することはできない。 | ◯ |
2 | 26-01-3 | 債務の履行のために債務者が使用する者の故意又は過失は、債務者の責めに帰すべき事由に含まれる旨は、民法の条文に規定されている。 | × |
3 | 24-08-1 | AがBと契約を締結する前に、信義則上の説明義務に違反して契約締結の判断に重要な影響を与える情報をBに提供しなかった場合、Bが契約を締結したことにより被った損害につき、Aは、不法行為による賠償責任を負うことはあっても、債務不履行による賠償責任を負うことはない。 | ◯ |
4 | 24-08-3 | 売主が不動産を二重譲渡して第二の買主が登記を具備した場合、第一買主は売主に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる。 | ◯ |
5 | 23-02-4 | 停止条件が成就しなかったことにつき、債務者に帰責事由がなくても、債務不履行責任を負う。 | × |
6 | 19-10-2 | 売買契約の目的物である建物が、売主の責めに帰すべき火災で滅失した場合、有効に成立した売買契約は、債務不履行により無効となる。 | × |
7 | 18-08-1 | 代金債務につき弁済の提供をしないと、履行遅滞に陥り、遅延損害金支払債務を負う。 | ◯ |
8 | 14-07-1 | 履行を遅滞しているとして、損害賠償請求を受けた債務者は、自己の履行遅滞について、帰責事由のないことを主張・立証すれば、免責される。 | ◯ |
3 誤り
契約締結後、目的物引渡前に、目的物が滅失する後発的不能のケース。そして、滅失の原因を作ったのは、引渡しに関する債権者であるB(買主)である。
この場合には、引渡債務に関する債務者Aは、反対給付を受ける権利を失わない(民法536条2項)。つまり、危険負担に関する債権者主義が採用されている。
したがって、Aの甲建物引渡し債務は消滅するものの、Bの代金支払債務は消滅しない。
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■類似過去問(危険負担)
内容を見る危険負担
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 29-07-2 | 請負契約が注文者の責めに帰すべき事由によって中途で終了した場合、請負人は、残債務を免れるとともに、注文者に請負代金全額を請求できるが、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還しなければならない。 | ◯ |
2 | 19-10-2 | 売買契約の目的物である建物が、売主の責に帰すべき火災により滅失した場合、有効に成立していた売買契約は、売主の債務不履行によって無効となる。 | × |
3 | 19-10-3 | 売買契約の目的物である建物が、買主の責めに帰すべき火災で滅失した場合、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | × |
4 | 19-10-4 | 「自然災害による建物滅失の危険は、建物引渡しまでは売主が負担する」との特約がある場合、目的物が引渡し前に自然災害により滅失したときは、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | ◯ |
5 | 08-11-1 | 代金の支払い及び建物の引渡し前に、建物が地震によって全壊したときは、売主は、買主に対して代金の支払いを請求することはできない。 | × |
6 | 08-11-2 | 代金の支払い及び建物の引渡し前に、建物の一部が地震によって損壊したときは、売主は、代金の額から損壊部分に見合う金額を減額した額であれば、買主に対して請求することができる。 | × |
7 | 08-11-3 | 売主が自己の費用で建物の内装改修工事を行って引き渡すと約束していた場合で、工事着手前に建物が地震で全壊したときは、売主は、内装改修工事費相当額を買主に対して償還しなければならない。 | ◯ |
8 | 01-09-1 | 家屋の所有権移転登記後、引渡し前に、その家屋が天災によって滅失した場合、売主は、買主に対し代金を請求することができない。 | × |
9 | 01-09-2 | 家屋の所有権移転登記後、引渡し前に、その家屋が放火によって半焼した場合、買主は、売主に対し代金の減額を請求することができる。 | × |
10 | 01-09-3 | 所有権移転登記後、引渡し前に、売買契約の目的物である家屋が、売主の失火によって焼失した場合、その契約は失効する。 | × |
11 | 01-09-4 | 所有権移転登記が完了し、引渡し期日が過ぎたのに、売主が売買契約の目的物である家屋の引渡しをしないでいたところ、その家屋が類焼によって滅失した場合、買主は、契約を解除することができる。 | ◯ |
原始的不能 | |||
1 | 19-10-1 | 売買契約の目的物である建物が、売買契約の成立前に契約当事者の責に帰すことのできない火災で滅失していた場合、売買契約は有効に成立するが、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | × |
4 正しい
危険負担に関し、当事者間で民法の規定とは異なる特約をした場合、その特約が民法の規定に優先する。
したがって、「建物引渡しまで売主が危険を負担する」という本肢のような特約も有効である。すなわち、Aの甲建物引渡し債務が消滅するだけでなく、Bの代金支払債務もまた消滅する。
■類似過去問(危険負担)
内容を見る危険負担
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 29-07-2 | 請負契約が注文者の責めに帰すべき事由によって中途で終了した場合、請負人は、残債務を免れるとともに、注文者に請負代金全額を請求できるが、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還しなければならない。 | ◯ |
2 | 19-10-2 | 売買契約の目的物である建物が、売主の責に帰すべき火災により滅失した場合、有効に成立していた売買契約は、売主の債務不履行によって無効となる。 | × |
3 | 19-10-3 | 売買契約の目的物である建物が、買主の責めに帰すべき火災で滅失した場合、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | × |
4 | 19-10-4 | 「自然災害による建物滅失の危険は、建物引渡しまでは売主が負担する」との特約がある場合、目的物が引渡し前に自然災害により滅失したときは、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | ◯ |
5 | 08-11-1 | 代金の支払い及び建物の引渡し前に、建物が地震によって全壊したときは、売主は、買主に対して代金の支払いを請求することはできない。 | × |
6 | 08-11-2 | 代金の支払い及び建物の引渡し前に、建物の一部が地震によって損壊したときは、売主は、代金の額から損壊部分に見合う金額を減額した額であれば、買主に対して請求することができる。 | × |
7 | 08-11-3 | 売主が自己の費用で建物の内装改修工事を行って引き渡すと約束していた場合で、工事着手前に建物が地震で全壊したときは、売主は、内装改修工事費相当額を買主に対して償還しなければならない。 | ◯ |
8 | 01-09-1 | 家屋の所有権移転登記後、引渡し前に、その家屋が天災によって滅失した場合、売主は、買主に対し代金を請求することができない。 | × |
9 | 01-09-2 | 家屋の所有権移転登記後、引渡し前に、その家屋が放火によって半焼した場合、買主は、売主に対し代金の減額を請求することができる。 | × |
10 | 01-09-3 | 所有権移転登記後、引渡し前に、売買契約の目的物である家屋が、売主の失火によって焼失した場合、その契約は失効する。 | × |
11 | 01-09-4 | 所有権移転登記が完了し、引渡し期日が過ぎたのに、売主が売買契約の目的物である家屋の引渡しをしないでいたところ、その家屋が類焼によって滅失した場合、買主は、契約を解除することができる。 | ◯ |
原始的不能 | |||
1 | 19-10-1 | 売買契約の目的物である建物が、売買契約の成立前に契約当事者の責に帰すことのできない火災で滅失していた場合、売買契約は有効に成立するが、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅する。 | × |
過去問徹底!スリー・ステップ教材の御案内
この教材は、学習の進行を三段階(スリー・ステップ)に分け、御自分に合った段階からスタートできるように設計されています。
[Step.1]基本習得編
学習の最初の段階、正しい知識を分かりやすい流れの中で学んでいく段階です。ここでは、DVDの講義を見て、合格に必要な基本知識を習得します。
[Step.2]実戦応用編
最初に一問一答式の問題集を解き、その後に解説講義を見ます。これにより、「Step.1で勉強した基礎知識が実際の本試験ではどのように出題されるか」、「選択肢の◯×を決める基準は何か」を身に付けます。
[Step.3]過去問演習編
年度別の本試験過去問を解き、その後に解説講義を見ます。学習の総仕上げとして、基本知識や解法テクニックを一層確実に、そして本試験で使えるレベルに仕上げます。
質問があります。
(4)で、特約で建物引渡しまでの危険負担は売主とした場合、買主の代金支払債務が消滅するのは理解できるのですが、売主の建物引渡し債務も無くなるのは理解できません。危険負担は売主なので、債務不履行による損害賠償を買主はできるのでないでしょうか?
宜しくお願いします。
hirosox様
御質問ありがとうございます。
「債務不履行と危険負担の区別」に関して悩まれているようですね。
■債務不履行か、危険負担か、は二者択一
この問題の冒頭、「後発的不能」のところで説明していますが、そもそも、
「債務不履行の問題として解決するか、危険負担の問題になるか」
は二者択一です。hirosoxさんの言うような
>危険負担は売主なので、債務不履行による損害賠償を買主はできる
というように危険負担と債務不履行の問題が同時に発生するような状況は、あり得ません。
■肢4は、どちらの問題か
肢4は、「自然災害により滅失」したというのですから、引渡し債務が実現できなくなったことについて、売主Aに帰責性がない。したがって、債務不履行責任は発生しません。
考慮すべきは危険負担責任です。つまり、「買主Bは、代金支払債務を負うか?」が問われています。
民法上の原則からすれば、代金を支払う義務がある(債権者主義)ということになります。しかし、本肢の場合、「自然災害による建物滅失の危険は、建物引渡しまでは売主が負担する」という特約が存在します。そして、「建物の引渡し」は実現していないのですから、依然として危険は売主負担です。したがって、売主Aは、Bに対して代金の支払いを請求することができません。言い換えれば、代金支払債務も消滅します。
家坂先生、ありがとうございます。
最後の説明の「売主は買主に代金の請求をすることが出来ない」ですっきりしました。ありがとうございます。