【宅建過去問】(平成28年問09)信義則上の説明義務(判決文の読取り問題)
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(判決文)
契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。(中略)上記のような場合の損害賠償請求権は不法行為により発生したものである(略)。
- 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権(人の生命又は身体の侵害によるものではない。)は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。
- 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。
- 買主に対して債権を有している売主は、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の身体の侵害による損害陪償請求権を受働債権とする相殺をもって、買主に対抗することができない。
- 売主が信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった場合、買主は、売主に対して、この説明義務違反を理由に、売買契約上の債務不履行責任を追及することはできない。
正解:2
判決文のまとめ
本問で出題された「判決文」は、最判平23.04.22のものです。
最初に3つのポイントを押さえておきましょう。
1 | 契約当事者は、契約締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合、損害賠償責任を負うこと |
2 | その根拠は、不法行為による賠償責任であること |
3 | 契約上の債務の不履行による賠償責任ではないこ |
1 正しい
「判決文」は、売主の損害賠償責任を不法行為に基づくものとしています。
そして、不法行為による損害賠償の請求権が消滅するのは、以下の期間が経過した時です(民法724条、724条の2)。
本肢は、このうち1.に関するもので、正しい記述です。
■参照項目&類似過去問
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不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[30]5(2))
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[06]3(2))
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[06]3(2))
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R03-08-3 | Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないときでも、本件事故の時から20年間行使しないときには時効により消滅する。 | ◯ |
2 | R03-08-4 | Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときには時効により消滅する。 | ◯ |
3 | R02s-01-4 | 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。 | ◯ |
4 | H28-09-1 | 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権(人の生命又は身体の侵害によるものではない。)は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。 | ◯ |
5 | H28-09-2 | 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。 | × |
6 | H26-06-3 | Aは、Bに建物の建築を注文し、完成して引渡しを受けた建物をCに対して売却した。本件建物の主要な構造部分に欠陥があった。CがBに対して本件建物の瑕疵に関して不法行為責任に基づく損害賠償を請求する場合、当該請求ができる期間は、Cが瑕疵の存在に気付いてから1年以内である。 | × |
7 | H26-08-1 | 不法行為による損害賠償請求権の期間の制限を定める民法第724条における、被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。 | ◯ |
8 | H26-08-2 | 不法行為による損害賠償債務の不履行に基づく遅延損害金債権は、当該債権が発生した時から10年間行使しないことにより、時効によって消滅する。 | × |
9 | H26-08-3 | 不法占拠により日々発生する損害については、加害行為が終わった時から一括して消滅時効が進行し、日々発生する損害を知った時から別個に消滅時効が進行することはない。 | × |
10 | H26-08-4 | 不法行為の加害者が海外に在住している間は、民法第724条後段の20年の時効期間は進行しない。 | × |
11 | H19-05-4 | 不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。 | × |
12 | H17-11-4 | 交通事故の被害者が、車の破損による損害賠償請求権を、損害及び加害者を知った時から3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。 | ◯ |
13 | H12-08-3 | 不法行為の被害者が、不法行為による損害と加害者を知った時から1年間、損害賠償請求権を行使しなければ、当該請求権は消滅時効により消滅する。 | × |
2 誤り
(肢1参照。)
損害を被っていることを被害者が知らない場合に、不法行為による損害賠償の請求権が消滅するのは、「不法行為の時から20年を経過したとき」です(民法724条後段)。
損害賠償請求権を10年間行使しなかったとしても、その時点で時効消滅するわけではありません。
■参照項目&類似過去問
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不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[30]5(2))
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[06]3(2))
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[06]3(2))
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | R03-08-3 | Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないときでも、本件事故の時から20年間行使しないときには時効により消滅する。 | ◯ |
2 | R03-08-4 | Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときには時効により消滅する。 | ◯ |
3 | R02s-01-4 | 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。 | ◯ |
4 | H28-09-1 | 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権(人の生命又は身体の侵害によるものではない。)は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。 | ◯ |
5 | H28-09-2 | 信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。 | × |
6 | H26-06-3 | Aは、Bに建物の建築を注文し、完成して引渡しを受けた建物をCに対して売却した。本件建物の主要な構造部分に欠陥があった。CがBに対して本件建物の瑕疵に関して不法行為責任に基づく損害賠償を請求する場合、当該請求ができる期間は、Cが瑕疵の存在に気付いてから1年以内である。 | × |
7 | H26-08-1 | 不法行為による損害賠償請求権の期間の制限を定める民法第724条における、被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。 | ◯ |
8 | H26-08-2 | 不法行為による損害賠償債務の不履行に基づく遅延損害金債権は、当該債権が発生した時から10年間行使しないことにより、時効によって消滅する。 | × |
9 | H26-08-3 | 不法占拠により日々発生する損害については、加害行為が終わった時から一括して消滅時効が進行し、日々発生する損害を知った時から別個に消滅時効が進行することはない。 | × |
10 | H26-08-4 | 不法行為の加害者が海外に在住している間は、民法第724条後段の20年の時効期間は進行しない。 | × |
11 | H19-05-4 | 不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。 | × |
12 | H17-11-4 | 交通事故の被害者が、車の破損による損害賠償請求権を、損害及び加害者を知った時から3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。 | ◯ |
13 | H12-08-3 | 不法行為の被害者が、不法行為による損害と加害者を知った時から1年間、損害賠償請求権を行使しなければ、当該請求権は消滅時効により消滅する。 | × |
3 正しい
以下の債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができません(民法509条)。
- 悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権
(悪意=積極的に他人を害する意思) - 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権
(不法行為の他、債務不履行に基づくものを含む。)
つまり、不法行為等に基づく損害賠償債権を受動債権として相殺することは許されません。より簡単にいえば、加害者側から相殺を主張することはできないということです。
※これに対し、被害者側から相殺を主張すること、つまり、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権として相殺することは許されています。
■参照項目&類似過去問
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不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺(民法[21]4(1)、民法[30]5(4))
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | H30-09-3 | Aは、令和XX年10月1日、A所有の甲土地につき、Bとの間で、代金1,000万円、支払期日を同年12月1日とする売買契約を締結した。同年10月10日、BがAの自動車事故によって被害を受け、Aに対して不法行為に基づく損害賠償債権を取得した場合には、Bは売買代金債務と当該損害賠償債権を対当額で相殺することができる。 | ◯ |
2 | H28-09-3 | 買主に対して債権を有している売主は、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の身体の侵害による損害陪償請求権を受働債権とする相殺をもって、買主に対抗することができない。 | ◯ |
3 | H18-11-3 | Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Aが被害者に対して売買代金債権を有していれば、被害者は不法行為に基づく損害賠償債権で売買代金債務を相殺することができる。 | ◯ |
4 | H16-08-2 | Bは、A所有の建物を賃借し、毎月末日までに翌月分の賃料50万円を支払う約定をした。BがAに対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有した場合、Bは、このAに対する損害賠償請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。 | × |
5 | H07-08-3 | AがBに対して 100万円の金銭債権、BがAに対して 100万円の同種の債権を有している。Aの債権が、Bの悪意による不法行為によって発生したものであるときには、Bは、Bの債権をもって相殺をすることができない。 | ◯ |
6 | H04-09-1 | 不法行為の被害者は、損害賠償債権を目働債権として、加害者に対する金銭返還債務と相殺することができない。 | × |
4 正しい
「判決文」は、「債務の不履行による賠償責任を負うことはない」としています。
■参照項目&類似過去問
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契約準備段階での説明義務違反(民法[30]5(5))
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | H28-09-4 | 売主が信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった場合、買主は、売主に対して、この説明義務違反を理由に、売買契約上の債務不履行責任を追及することはできない。 | ◯ |
2 | H24-08-1 | AがBと契約を締結する前に、信義則上の説明義務に違反して契約締結の判断に重要な影響を与える情報をBに提供しなかった場合、Bが契約を締結したことにより被った損害につき、Aは、不法行為による賠償責任を負うことはあっても、債務不履行による賠償責任を負うことはない。 | ◯ |
3 | H18-01-1 | 契約締結交渉中の一方の当事者が契約交渉を打ち切ったとしても、契約締結に至っていない契約準備段階である以上、損害賠償責任が発生することはない。 | × |