【宅建過去問】(平成08年問06)請負・不法行為
AがBとの請負契約によりBに建物を建築させてその所有者となり、その後Cに売却した。Cはこの建物をDに賃貸し、Dが建物を占有していたところ、この建物の建築の際におけるBの過失により生じた瑕疵により、その外壁の一部が剥離して落下し、通行人Eが重傷を負った。この場合の不法行為責任に関する次の記述のうち、民法の規定によれ ば、正しいものはどれか。
- Aは、この建物の建築の際において注文又は指図に過失がなく、かつ、その瑕疵を過失なくして知らなかったときでも、Eに対して不法行為責任を負うことがある。
- Bは、Aに対してこの建物の建築の請負契約に基づく債務不履行責任を負うことがあっても、Eに対して不法行為責任を負うことはない。
- Cは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の所有者として、Eに対して不法行為責任を負うことがある。
- Dは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の占有者として、Eに対して不法行為責任を負うことがある。
正解:3
はじめに
登場人物が多く、それぞれの関係が入り組んでいるので、まずは一覧を図にしておく。
A~Dが問われる可能性のある不法行為責任の種類とその概要は表の通りである。
加害者 | 不法行為の種類 | 概要 | 民法 |
A | 注文者の責任 | 【原則】 なし 【例外】 注文・指図について過失がある場合 |
716条 |
B | 一般不法行為責任 | 過失責任 | 709条 |
C | 土地の工作物の所有者の責任 | 無過失責任 | 717条ただし書き |
D | 土地の工作物の占有者の責任 | 過失責任 | 717条本文 |
1 誤り
AB間の請負契約における注文者であるAは、請負人が第三者に加えた損害につき、原則として責任を負わない(民法716条本文)。例外は、注文・指図について、注文者に過失があった場合である(同条ただし書き)。
本問では、Aは、「注文又は指図に過失がない」というのだから、原則通りとなる。すなわち、Eの被害について、不法行為責任を負うことはない。
2 誤り
Bの過失により生じた瑕疵が原因となって、通行人Eは重傷を負っている。したがって、Bを加害者、Eを被害者とする不法行為が成立し、Bが責任を負うことがありうる(民法709条)。
判例も、「建物の設計者・施行者・工事監理者には、居住者など建物利用者のみならず、隣人や通行人などに対する関係でも安全配慮義務がある。そのため、安全性を損なう瑕疵により身体・財産が侵害された場合には、不法行為責任による賠償責任を負う。」としている(最判平19.07.06)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R02s-01-1 | 建物の建築に携わる設計者や施工者は、建物としての基本的な安全性が欠ける建物を設計し又は建築した場合、設計契約や建築請負契約の当事者に対しても、また、契約関係にない当該建物の居住者に対しても損害賠償責任を負うことがある。 | ◯ |
2 | H26-06-2 | Aは、Bに建物の建築を注文し、完成して引渡しを受けた建物をCに対して売却した。本件建物の主要な構造部分に欠陥があった。Bが建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき義務を怠ったために本件建物に基本的な安全性を損なう本件欠陥が生じた場合には、本件欠陥によって損害を被ったCは、特段の事情がない限り、Bに対して不法行為責任に基づく損害賠償を請求できる。 | ◯ |
3 | H08-06-2 | AがBとの請負契約によりBに建物を建築させてその所有者となり、その後Cに売却した。Cはこの建物をDに賃貸し、Dが建物を占有していたところ、この建物の建築の際におけるBの過失により生じた瑕疵により、その外壁の一部が剥離して落下し、通行人Eが重傷を負った。Bは、Aに対してこの建物の建築の請負契約に基づく債務不履行責任を負うことがあっても、Eに対して不法行為責任を負うことはない。 | × |
3 正しい
工作物の占有者(D)が損害発生を防止するために必要な注意をしていたときは、工作物の所有者であるCが不法行為責任を負う。Cが損害発生防止に必要な注意をしていたとしても結論に違いはない。
つまり、土地の工作物の所有者の責任は、無過失責任なのである(民法717条1項ただし書き)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る[共通の設定]
Aは、所有する家屋をBに賃貸し、Bが占有使用しているときに、瑕疵により当該家屋の塀が崩れ、脇に駐車中のC所有の車を破損させた。
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
占有者 | |||
1 | R03-08-1 | Bは、甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Cに対して不法行為責任を負わない。 | × |
2 | H17-11-3 | Bは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。 | ◯ |
3 | H13-10-3 | Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。 | ◯ |
4 | H13-10-4 | 塀の崩壊につき、塀の施工業者にも一部責任がある場合には、Bは、その施工業者に対して求償権を行使することができる。 | ◯ |
5 | H08-06-4 | Bは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の占有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。 | × |
所有者 | |||
1 | R03-08-2 | Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Cに対して不法行為責任を負う。 | ◯ |
2 | H17-11-1 | Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。 | × |
3 | H13-10-3 | Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。 | ◯ |
4 | H08-06-3 | Aは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の所有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。 | ◯ |
4 誤り
Dは、本問の建物を賃借する建物の占有者である。そして、土地の工作物の占有者は、損害発生を防止するために必要な注意をしていたときは、不法行為責任を負わない。この場合、不法行為責任を負うのは、工作物の所有者であるCである(肢3参照。民法717条1項)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る[共通の設定]
Aは、所有する家屋をBに賃貸し、Bが占有使用しているときに、瑕疵により当該家屋の塀が崩れ、脇に駐車中のC所有の車を破損させた。
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
占有者 | |||
1 | R03-08-1 | Bは、甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Cに対して不法行為責任を負わない。 | × |
2 | H17-11-3 | Bは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。 | ◯ |
3 | H13-10-3 | Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。 | ◯ |
4 | H13-10-4 | 塀の崩壊につき、塀の施工業者にも一部責任がある場合には、Bは、その施工業者に対して求償権を行使することができる。 | ◯ |
5 | H08-06-4 | Bは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の占有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。 | × |
所有者 | |||
1 | R03-08-2 | Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Cに対して不法行為責任を負う。 | ◯ |
2 | H17-11-1 | Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。 | × |
3 | H13-10-3 | Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。 | ◯ |
4 | H08-06-3 | Aは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の所有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。 | ◯ |
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