【宅建過去問】(平成18年問05)抵当権
Aは、Bから借り入れた2,400万円の担保として第一順位の抵当権が設定されている甲土地を所有している。Aは、さらにCから1,600万円の金銭を借り入れ、その借入金全額の担保として甲土地に第二順位の抵当権を設定した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 抵当権の実行により甲土地が競売され3,000万円の配当がなされる場合、BがCに抵当権の順位を譲渡していたときは、Bに1,400万円、Cに1,600万円が配当され、BがCに抵当権の順位を放棄していたときは、Bに1,800万円、Cに1,200万円が配当される。
- Aが抵当権によって担保されている2,400万円の借入金全額をBに返済しても、第一順位の抵当権を抹消する前であれば、Cの同意の有無にかかわらず、AはBから新たに2,400万円を借り入れて、第一順位の抵当権を設定することができる。
- Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前に甲土地上に乙建物が建築され、Cが抵当権を実行した場合には、乙建物について法定地上権が成立する。
- Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前にAとの間で期間を2年とする甲土地の賃貸借契約を締結した借主Dは、Bの同意の有無にかかわらず、2年間の範囲で、Bに対しても賃借権を対抗することができる。
正解:1
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1 正しい
抵当権の順位の譲渡・放棄(民法376条1項)の結果を表にまとめておく。
当初 | 順位の譲渡
順位を入れ替える |
順位の放棄
同順位となる |
|
1番抵当 | B:2400万 | C:1600万 | B:2400万 C:1600万 |
2番抵当 | C:1600万 | B:2400万 | |
具体的配当 | B=2400万 C= 600万 |
C=1600万 B=1400万 |
B=1800万 C=1200万 |
通常の場合、競売代金3,000万円のうち、一番抵当権を有するBが2,400万円の配当を受ける。Cは、残る600万円の配当しか受けることができない。
抵当権の順位の譲渡があった場合、BC間では、抵当権の順位が交換される(民法376条1項)。つまり、「Cが一位、Bが二位」と扱うことになる。具体的には、競売代金の3,000万円のうち、まず、Cが1,600万円全額の配当を受ける。Bに配当されるのは、残る1,400万円に限られる。
抵当権の順位の放棄があった場合、BとCとは同順位(どちらも一位)と扱われる(同条同項)。具体的には、競売代金の3,000万円が、「B:C=2400万:1600万=3:2」の割合で分配される。計算してみると、Bへの配当が1,800万円、Cへの配当が1,200万円である。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | R05-10 | 計算問題 | |
2 | R01-10 | 計算問題 | |
3 | H27-07 | 計算問題 | |
4 | H18-05-1 | 計算問題 | |
5 | H26-04-4 | 普通抵当権では抵当権の順位を譲渡できるが、元本の確定前の根抵当権では根抵当権の順位を譲渡できない。 | ◯ |
6 | H10-05-3 | 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とすることができる。 | ◯ |
2 誤り
弁済等により被担保債権が消滅した場合、抵当権は、何らの手続きを必要とせず、当然に消滅する。これを抵当権の消滅における付従性という。
本肢でいえば、AがBに借入金全額(2,400万円)を返済したときに、Aの抵当権が当然に消滅する。抵当権の登記を抹消しないままであったとしても、抵当権はすでに消滅しているのである。言い換えれば、Bに弁済した瞬間にBの抵当権は消滅し、Cの抵当権が第一順位へと上昇する(順位上昇の原則)。
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■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 29-10-4 | 抵当権は不動産に関する物権であり、登記を備えなければ第三者に対抗することができない。 | ◯ |
2 | 28-14-2 | 登記することができる権利には、抵当権及び賃借権が含まれる。 | ◯ |
3 | 26-04-2 | 抵当権を設定した旨を第三者に対抗する場合には登記が必要であるが、根抵当権を設定した旨を第三者に対抗する場合には、登記に加えて、債務者Cの異議を留めない承諾が必要である。 | × |
4 | 22-05-1 | 抵当権設定者AとBとの抵当権設定契約が、AとCとの抵当権設定契約より先であっても、Cを抵当権者とする抵当権設定登記の方がBを抵当権者とする抵当権設定登記より先であるときには、Cを抵当権者とする抵当権が第1順位となる。 | ◯ |
3 誤り
第二順位の抵当権設定時に土地上に建物があったとしても、第一順位の抵当権設定時に建物が存在しなかった場合、競売を請求したのが第二順位の抵当権者であったとしても、法定地上権は成立しない(民法388条。最判昭47.11.2)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 30-06-1 | [Aが所有する甲土地上にBが乙建物を建築して所有権を登記していたところ、AがBから乙建物を買い取り、その後、Aが甲土地にCのために抵当権を設定し登記した。]Aが乙建物の登記をA名義に移転する前に甲土地に抵当権を設定登記していた場合、甲土地の抵当権が実行されたとしても、乙建物のために法定地上権は成立しない。 | × |
2 | 30-06-2 | [Aが所有する甲土地上にBが乙建物を建築して所有権を登記していたところ、AがBから乙建物を買い取り、その後、Aが甲土地にCのために抵当権を設定し登記した。]Aが乙建物を取り壊して更地にしてから甲土地に抵当権を設定登記し、その後にAが甲土地上に丙建物を建築していた場合、甲土地の抵当権が実行されたとしても、丙建物のために法定地上権は成立しない。 | ◯ |
3 | 30-06-3 | [Aが所有する甲土地上にBが乙建物を建築して所有権を登記していたところ、AがBから乙建物を買い取り、その後、Aが甲土地にCのために抵当権を設定し登記した。]Aが甲土地に抵当権を設定登記するのと同時に乙建物にもCのために共同抵当権を設定登記した後、乙建物を取り壊して丙建物を建築し、丙建物にCのために抵当権を設定しないまま甲土地の抵当権が実行された場合、丙建物のために法定地上権は成立しない。 | ◯ |
4 | 30-06-4 | [Aが所有する甲土地上にBが乙建物を建築して所有権を登記していたところ、AがBから乙建物を買い取り、その後、Aが甲土地にCのために抵当権を設定し登記した。]Aが甲土地に抵当権を設定登記した後、乙建物をDに譲渡した場合、甲土地の抵当権が実行されると、乙建物のために法定地上権が成立する。 | ◯ |
5 | 28-04-1 | [Aは、A所有の甲土地にBから借り入れた3,000万円の担保として抵当権を設定]Aが甲土地に抵当権を設定した当時、甲土地上にA所有の建物があり、当該建物をAがCに売却した後、Bの抵当権が実行されてDが甲土地を競落した場合、DはCに対して、甲土地の明渡しを求めることはできない。 | ◯ |
6 | 21-07-1 | 土地及びその地上建物の所有者が同一である状態で、土地に1番抵当権が設定され、その実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。 | ◯ |
7 | 21-07-2 | 更地である土地の抵当権者が抵当権設定後に地上建物が建築されることを承認した場合であっても、土地の抵当権設定時に土地と所有者を同じくする地上建物が存在していない以上、地上建物について法定地上権は成立しない。 | ◯ |
8 | 21-07-3 | 土地に1番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なっていたとしても、2番抵当権設定時に土地と地上建物の所有者が同一人となれば、土地の抵当権の実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。 | × |
9 | 21-07-4 | 土地の所有者が、当該土地の借地人から抵当権が設定されていない地上建物を購入した後、建物の所有権移転登記をする前に土地に抵当権を設定した場合、当該抵当権の実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。 | ◯ |
10 | 18-05-3 | 更地に一番抵当権設定後、二番抵当権設定前に土地上に建物が建築され、二番抵当権者が抵当権を実行した場合には、建物について法定地上権が成立する。 | × |
11 | 14-06-2 | 更地にAが抵当権を設定した後、建物が築造され、その後、Cが土地・建物の双方に抵当権を設定した場合、Aが抵当権を実行すると、建物につき法定地上権が成立する。 | × |
12 | 14-06-3 | 更地に一番抵当権設定後、二番抵当権設定前に土地上に建物が建築され、二番抵当権者が抵当権を実行した場合には、建物について法定地上権が成立する。 | × |
13 | 10-05-1 | (Aは、Bから借金をし、Bの債権を担保するためにA所有の土地及びその上の建物に抵当権を設定した。)Bの抵当権の実行により、Cが建物、Dが土地を競落した場合、Dは、Cに対して土地の明渡しを請求することはできない。 | ◯ |
4 誤り
抵当権設定後に賃貸借契約を締結したとしても、その賃借権は、原則として抵当権者に対抗することができない。
例外的に対抗できるのは、
- 賃借権を登記し、
- 賃借権の登記前に登記をした全ての抵当権者が同意をし、
- その同意の登記がある場合、
に限られる(民法387条1項)。
本肢で、Dが賃貸借契約を締結したのは、Bの抵当権設定の後である。したがって、DはBの同意を得、その同意を登記しない限り、Bに対して賃借権を対抗することはできない。
※Cの二番抵当権が設定されたのは、AD間の賃貸借契約が締結された後である。したがって、DとCとの関係は、単純な対抗関係となる。すなわち、Dが先に対抗要件を備えれば、Cに賃借権を対抗することができる。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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抵当権登記の前に賃借人が対抗要件を備えていたケース | |||
[共通の設定] Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。 |
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1 | R03s-10-2 | Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、AC間の賃貸借契約の期間を定めていない場合には、Cの賃借権は甲建物の競売による買受人に対抗することができない。 | × |
2 | R03s-10-4 | Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、Cは、甲建物の競売による買受人に対し、買受人の買受けの時から1年を経過した時点で甲建物を買受人に引き渡さなければならない。 | × |
抵当権登記の後に賃借人が出現したケース | |||
1 | R04-04-2 | Aに対抗することができない賃貸借により乙土地を競売手続の開始前から使用するCは、乙土地の競売における買受人Dの買受けの時から6か月を経過するまでは、乙土地をDに引き渡すことを要しない。 | × |
2 | R03s-10-3 | Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。本件抵当権設定登記後にAC間で賃貸借契約を締結し、その後抵当権に基づく競売手続による買受けがなされた場合、買受けから賃貸借契約の期間満了までの期間が1年であったときは、Cは甲建物の競売における買受人に対し、期間満了までは甲建物を引き渡す必要はない。 | × |
3 | H22-05-3 | (AはBから2,000万円を借り入れて土地とその上の建物を購入し、Bを抵当権者として当該土地及び建物に2,000万円を被担保債権とする抵当権を設定し、登記した。)Bの抵当権設定登記後にAがDに対して当該建物を賃貸し、当該建物をDが使用している状態で抵当権が実行され当該建物が競売された場合、Dは競落人に対して直ちに当該建物を明け渡す必要はない。 | ◯ |
4 | H20-04-2 | (Aは、Bから借り入れた2,000万円の担保として抵当権が設定されている甲建物を所有しており、抵当権設定の後に、甲建物を賃借人Cに対して賃貸した。Cは甲建物に住んでいるが、賃借権の登記はされていない。)抵当権が実行されて、Dが甲建物の新たな所有者となった場合であっても、Cは民法602条に規定されている短期賃貸借期間の限度で、Dに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。 | × |
5 | H18-05-4 | 第一抵当権の設定後、第二抵当権の設定前に、期間2年の土地賃貸借契約を締結した借主は、第一抵当権者の同意の有無によらず、第一抵当権者に対しても賃借権を対抗できる。 | × |
6 | H17-06-4 | 抵当権設定後に、期間2年の建物賃貸借契約を締結し、建物を引き渡した場合、賃貸借を抵当権者に対抗できる。 | × |
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こんにちは。宅建を勉強している物です。
教えてください。
過去問題 平成20年の問4、肢4との違いは、登記の有無でしょうか?
ともに抵当権設定後ですが。
違いがよくわかりません。
タッキー様
講師の家坂です。
御質問ありがとうございます。
平成18年問5肢4(18-05-4)と平成20年問4肢4(20-04-4)の違いが分からない、という御質問ですね。
https://e-takken.tv/18-05/#4
https://e-takken.tv/20-04/#4
この問題に限らず、宅建の問題、特に権利関係の問題を解く際には、登場人物の関係を図に描くことが重要です。
上の2つの選択肢についても、図を用意しました(手描きでスミマセン)。
これを見ると、2つの選択肢の違いは、明らかではないでしょうか。
■18-05-4
問われているのは、甲土地の抵当権者Bと賃借人Dとの優劣です。
Aは、甲土地について、①Bに対する抵当権を設定した後に、②Dに賃貸しています。BとDとの対抗問題では、先に抵当権を設定したBが勝ちます。Dは、Bの同意がなければ、Bに対して賃借権を対抗することができません。
■20-04-4
問われているのは、甲建物の賃借人Cと新所有者Fとの優劣です。
Aは、甲建物を②Cに賃貸した後に、③Fに売却しています。Cが先に対抗要件(建物の引渡し)を備えているのですから、CとFとの対抗問題では、Cが勝ちます。Cは、Fに対して賃借権を対抗することができます。