【宅建過去問】(平成18年問12)相続
成年Aには将来相続人となるB及びC(いずれも法定相続分は2分の1)がいる。Aが所有している甲土地の処分に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- Aが精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況になった場合、B及びCはAの法定代理人となり甲土地を第三者に売却することができる。
- Aが「相続財産全部をBに相続させる」旨の有効な遺言をして死亡した場合、BがAの配偶者でCがAの子であるときはCには相続財産の4分の1の遺留分があるのに対し、B及びCがAの兄弟であるときはCには遺留分がない。
- Aが「甲土地全部をBに相続させる」旨の有効な遺言をして死亡し、甲土地以外の相続財産についての遺産分割協議の成立前にBがCの同意なく甲土地を第三者Dに売却した場合、特段の事情がない限り、CはBD間の売買契約を無権代理行為に準じて取り消すことができる。
- Aが遺言なく死亡し、B及びCの協議により甲土地をBが取得する旨の遺産分割協議を有効に成立させた場合には、後になってB及びCの合意があっても、甲土地をCが取得する旨の遺産分割協議を成立させることはできない。
正解:2
1 誤り
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況になった場合であっても、それだけで成年被後見人となるわけではない。成年被後見人となるためには、家庭裁判所の後見開始の審判を受ける必要があるのである(民法7条)。
Aが成年被後見人となっていない以上、B・Cも法定代理人になっていない(同法843条1項)。したがって、甲土地を第三者に売却することもできない。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | R04-03-1 | 成年後見人は、後見監督人がいる場合には、後見監督人の同意を得なければ、成年被後見人の法律行為を取り消すことができない。 | × |
2 | R04-03-2 | 相続の放棄は相手方のない単独行為であるから、成年後見人が成年被後見人に代わってこれを行っても、利益相反行為となることはない。 | × |
3 | R04-03-3 | 成年後見人は成年被後見人の法定代理人である一方、保佐人は被保佐人の行為に対する同意権と取消権を有するが、代理権が付与されることはない。 | × |
4 | R04-03-4 | 成年年齢は18歳であるため、18歳の者は、年齢を理由とする後見人の欠格事由に該当しない。 | ◯ |
5 | H26-09-1 | 成年被後見人が第三者との間で建物の贈与を受ける契約をした場合には、成年後見人は、当該法律行為を取り消すことができない。 | × |
6 | H26-09-4 | 成年後見人は家庭裁判所が選任する者であるが、未成年後見人は必ずしも家庭裁判所が選任する者とは限らない。 | ◯ |
7 | H20-01-1 | 成年被後見人が行った法律行為は、事理を弁識する能力がある状態で行われたものであっても、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りではない。 | ◯ |
8 | H18-12-1 | 成年者Aが精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況になった場合、Aの推定相続人はAの法定代理人となる。 | × |
9 | H15-01-3 | 成年被後見人が成年後見人の事前の同意を得て土地を売却する意思表示を行った場合、成年後見人は、当該意思表示を取り消すことができる。 | ◯ |
10 | H02-04-1 | 成年被後見人は、契約の際完全な意思能力を有していても契約を取り消すことができる。 | ◯ |
2 正しい
遺言者は、自らの財産の全部又は一部を遺贈することができるが、遺留分に関する規定に反することはできない(民法964条)。
遺留分を主張することができるのは、被相続人の配偶者・子・直系尊属に限られる(同法1042条1項)。法定相続人であっても、兄弟姉妹は遺留分権利者ではない。
【B=配偶者、C=子の場合】
「配偶者Bに相続財産全部を相続させる」という遺言をしても、被相続人Aの子であるCには遺留分がある。その額はCの法定相続分(1/2。同法900条1号)のさらに1/2であるから、相続財産の1/4である(同法1042条1項2号)。
【B・C=兄弟の場合】
兄弟には遺留分がない(同法1042条1項)。したがって、「兄弟であるBに相続財産全部を相続させる」という遺言があった場合、Cが遺留分を主張することはできない。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 24-10-4 | 甥姪は遺留分を主張できない。 | ◯ |
2 | 18-12-2 | 配偶者・子は遺留分主張可能。兄弟姉妹は不可。 | ◯ |
3 | 17-12-4 | 配偶者に全財産を相続させる遺言がある場合、子は遺留分権利者とならない。 | × |
4 | 09-10-1 | 配偶者・兄弟姉妹が遺留分を主張できる。 | × |
5 | 04-13-2 | 遺産の全部を相続人の一人に贈与する旨の遺言があっても、被相続人の兄弟姉妹は、遺留分の保全に必要な限度で、遺留分侵害額の支払を請求することができる。 | × |
6 | 02-11-3 | Aが死亡し、相続人として、妻Bと嫡出子C・D・Eがいる場合、Eの遺留分は、被相続人Aの財産の1/12の額である。 | ◯ |
3 誤り
「特定遺産を特定相続人に相続させる」という遺言があった場合、その遺産は、相続開始(被相続人の死亡)の時に直ちに相続により承継される(民法909条、985条1項。最判平03.04.19)。
本肢でいえば、甲土地は、被相続人Aの死亡のときに直ちにBに相続されたことになる。したがって、Bは、甲土地を自由に売却することができる。Cの同意を得る必要はないし、売買契約をCが取り消すこともできない。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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(1)①共同相続の効力 | |||
1 | H11-03-1 | 相続開始時に相続人が数人あるとき、遺産としての不動産は、相続人全員の共有に属する。 | ◯ |
2 | H07-11-3 | 共同相続人の一人は、他の共同相続人の同意を得なければ、自己の相続分を譲渡できない。 | × |
(1)②遺産分割の対象 | |||
1 | R01-06-3 | 遺産に属する預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、共同相続人は、その持分に応じて、単独で預貯金債権に関する権利を行使することができる。 | × |
2 | H29-06-3 | (Aが死亡し、相続人がBとCの2名であった。)遺産分割協議が成立するまでの間に遺産である不動産から賃料債権が生じていて、BとCがその相続分に応じて当該賃料債権を分割単独債権として確定的に取得している場合、遺産分割協議で当該不動産をBが取得することになっても、Cが既に取得した賃料債権につき清算する必要はない。 | ◯ |
3 | H15-12-3 | 相続財産である金銭債権(預金返還請求権ではない。)は、遺産分割協議が成立するまでは、相続人の共有に属し、相続人全員の同意がなければ、その債務者に弁済請求できない。 | × |
4 | H15-12-4 | 共同相続人の一人が相続開始時に金銭を相続財産として保管している場合、他の相続人は、遺産分割協議の成立前でも、自己の相続分に相当する金銭を支払うよう請求できる。 | × |
(2)①指定分割 | |||
1 | R01-06-1 | 被相続人は、遺言によって遺産分割を禁止することはできず、共同相続人は、遺産分割協議によって遺産の全部又は一部の分割をすることができる。 | × |
2 | H11-03-2 | 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定めることができ、また相続開始の時から5年を超えない期間内で遺産の分割を禁ずることもできる。 | ◯ |
3 | H18-12-3 | 被相続人Aが、相続人BCのうちのBに特定遺産を相続させる旨の遺言をして死亡し、特定遺産以外の相続財産についての遺産分割協議の成立前にBがCの同意なく特定遺産を第三者に売却した場合、CはBD間の売買契約を無権代理行為に準じて取り消すことができる。 | × |
(2)②協議分割 | |||
1 | R01-06-2 | 共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて遺産分割協議を成立させることができる。 | ◯ |
2 | H29-06-2 | (Aが死亡し、相続人がBとCの2名であった。)Aの死亡後、いずれもAの子であるBとCとの間の遺産分割協議が成立しないうちにBが死亡したときは、Bに配偶者Dと子Eがいる場合であっても、Aの遺産分割についてはEが代襲相続人として分割協議を行う。 | × |
3 | H18-12-4 | B及びCの協議により甲土地をBが取得する旨の遺産分割協議を有効に成立させた場合、後にB及びCの合意があっても、甲土地をCが取得する旨の遺産分割協議を成立させることはできない。 | × |
4 | H07-11-4 | 遺産分割協議の結論は、相続人の多数決によって決する。 | × |
(2)③家庭裁判所による分割 | |||
1 | H11-03-3 | 遺産の分割について共同相続人間に協議が調わないとき、各共同相続人は、その分割を、相続開始地の地方裁判所に請求することができる。 | × |
(3)効果 | |||
1 | R01-06-4 | 遺産の分割は、共同相続人の遺産分割協議が成立した時から効力を生ずるが、第三者の権利を害することはできない。 | × |
2 | H11-03-4 | 遺産分割の効力は、第三者の権利を害しない範囲で、相続開始の時にさかのぼって生ずる。 | ◯ |
(4)債務の相続 | |||
1 | H23-10-3 | 共同相続人のうち、被相続人の唯一の資産を相続するものは、被相続人の債務のすべてを相続する。 | × |
2 | H19-12-3 | 相続人が単純承認した場合、被相続人の債務も、相続人が相続分に応じて承継する。 | ◯ |
4 誤り
共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることができる(民法907条。最判平02.09.27)。
したがって、いったん遺産分割協議で甲土地をBが取得することになったとしても、後に改めて分割協議をし、Cが取得することが可能である。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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(1)①共同相続の効力 | |||
1 | H11-03-1 | 相続開始時に相続人が数人あるとき、遺産としての不動産は、相続人全員の共有に属する。 | ◯ |
2 | H07-11-3 | 共同相続人の一人は、他の共同相続人の同意を得なければ、自己の相続分を譲渡できない。 | × |
(1)②遺産分割の対象 | |||
1 | R01-06-3 | 遺産に属する預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、共同相続人は、その持分に応じて、単独で預貯金債権に関する権利を行使することができる。 | × |
2 | H29-06-3 | (Aが死亡し、相続人がBとCの2名であった。)遺産分割協議が成立するまでの間に遺産である不動産から賃料債権が生じていて、BとCがその相続分に応じて当該賃料債権を分割単独債権として確定的に取得している場合、遺産分割協議で当該不動産をBが取得することになっても、Cが既に取得した賃料債権につき清算する必要はない。 | ◯ |
3 | H15-12-3 | 相続財産である金銭債権(預金返還請求権ではない。)は、遺産分割協議が成立するまでは、相続人の共有に属し、相続人全員の同意がなければ、その債務者に弁済請求できない。 | × |
4 | H15-12-4 | 共同相続人の一人が相続開始時に金銭を相続財産として保管している場合、他の相続人は、遺産分割協議の成立前でも、自己の相続分に相当する金銭を支払うよう請求できる。 | × |
(2)①指定分割 | |||
1 | R01-06-1 | 被相続人は、遺言によって遺産分割を禁止することはできず、共同相続人は、遺産分割協議によって遺産の全部又は一部の分割をすることができる。 | × |
2 | H11-03-2 | 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定めることができ、また相続開始の時から5年を超えない期間内で遺産の分割を禁ずることもできる。 | ◯ |
3 | H18-12-3 | 被相続人Aが、相続人BCのうちのBに特定遺産を相続させる旨の遺言をして死亡し、特定遺産以外の相続財産についての遺産分割協議の成立前にBがCの同意なく特定遺産を第三者に売却した場合、CはBD間の売買契約を無権代理行為に準じて取り消すことができる。 | × |
(2)②協議分割 | |||
1 | R01-06-2 | 共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて遺産分割協議を成立させることができる。 | ◯ |
2 | H29-06-2 | (Aが死亡し、相続人がBとCの2名であった。)Aの死亡後、いずれもAの子であるBとCとの間の遺産分割協議が成立しないうちにBが死亡したときは、Bに配偶者Dと子Eがいる場合であっても、Aの遺産分割についてはEが代襲相続人として分割協議を行う。 | × |
3 | H18-12-4 | B及びCの協議により甲土地をBが取得する旨の遺産分割協議を有効に成立させた場合、後にB及びCの合意があっても、甲土地をCが取得する旨の遺産分割協議を成立させることはできない。 | × |
4 | H07-11-4 | 遺産分割協議の結論は、相続人の多数決によって決する。 | × |
(2)③家庭裁判所による分割 | |||
1 | H11-03-3 | 遺産の分割について共同相続人間に協議が調わないとき、各共同相続人は、その分割を、相続開始地の地方裁判所に請求することができる。 | × |
(3)効果 | |||
1 | R01-06-4 | 遺産の分割は、共同相続人の遺産分割協議が成立した時から効力を生ずるが、第三者の権利を害することはできない。 | × |
2 | H11-03-4 | 遺産分割の効力は、第三者の権利を害しない範囲で、相続開始の時にさかのぼって生ずる。 | ◯ |
(4)債務の相続 | |||
1 | H23-10-3 | 共同相続人のうち、被相続人の唯一の資産を相続するものは、被相続人の債務のすべてを相続する。 | × |
2 | H19-12-3 | 相続人が単純承認した場合、被相続人の債務も、相続人が相続分に応じて承継する。 | ◯ |
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問3肢にて、「特定遺産を特定相続人に相続させる」という遺言があった場合、その遺産は、相続開始(被相続人の死亡)の時に直ちに相続により承継される とのことですが、「特定遺産を特定相続人に相続させる」ことにより遺留分を侵害することになっていても、直ちに相続されるということでしょうか。
gnoyr様
遺留分を侵害するような遺言があったとしても、その遺言が無効になるわけではありません。遺言が有効であることを前提に、遺留分を侵害された者が、遺留分侵害額請求できるだけのことです。
※この点は、平成20年問12肢1でも出題されています。
https://e-takken.tv/20-12/
したがって、本肢におけるAの遺言がたとえCの遺留分を侵害するものであったとしても、結論に違いはありません。
(以下は、受験勉強についてのアドバイスです。)
本肢では、Aの遺言がCの遺留分を侵害するかどうか、判断ができません。
肢2のように「相続財産全部」とあれば、遺留分を侵害することは明らかです。しかし、肢3では、甲土地の価値が相続財産全体に占める割合が分からず、遺留分について何も判断できないのです。
宅建試験、というかペーパーテスト全てに関して同じだと思いますが、問題文の記述のみに基いて正誤を判断するのが絶対のセオリーです。
問題文に書いていないことを想像して、「遺留分を侵害したらどうしよう」と架空の問題にチャレンジするのは、受験対策として得策とはいえません。