【宅建過去問】(平成19年問01)意思表示・意思能力
A所有の甲土地についてのAB間の売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- Aは甲土地を「1,000万円で売却する」という意思表示を行ったが当該意思表示はAの真意ではなく、Bもその旨を知っていた。この場合、Bが「1,000万円で購入する」という意思表示をすれば、AB間の売買契約は有効に成立する。
- AB間の売買契約が、AとBとで意を通じた仮装のものであったとしても、Aの売買契約の動機が債権者からの差押えを逃れるというものであることをBが知っていた場合には、AB間の売買契約は有効に成立する。
- Aが第三者Cの強迫によりBとの間で売買契約を締結した場合、Bがその強迫の事実を知っていたか否かにかかわらず、AはAB間の売買契約に関する意思表示を取り消すことができる。
- AB間の売買契約が、Aが泥酔して意思無能力である間になされたものである場合、Aは、酔いから覚めて売買契約を追認するまではいつでも売買契約を取り消すことができ、追認を拒絶すれば、その時点から売買契約は無効となる。
正解:3
1 誤り
真意でないAの意思表示は心裡留保である。
心裡留保による意思表示は原則として有効であるが、相手方が表意者の真意でないことを知っているか、又は知ることができた場合には無効となる(民法93条1項)。
本肢では、BがAの意思が真意でないことを知っている。したがって、Aの意思表示は、無効であり、AB間の売買契約は無効である。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | H19-01-1 | Aは甲土地を「1,000万円で売却する」という意思表示を行ったが当該意思表示はAの真意ではなく、Bもその旨を知っていた。この場合、Bが「1,000万円で購入する」という意思表示をすれば、AB間の売買契約は有効に成立する。 | × |
2 | H16-01-1 | Aの売渡し申込みの意思は真意ではなく、BもAの意思が真意ではないことを知っていた場合、AとBとの意思は合致しているので、売買契約は有効である。 | × |
3 | H10-07-3 | Aが、自分の真意ではないと認識しながらBに対する売却の意思表示を行った場合で、BがそのAの真意を知っていたとき、Aは、売却の意思表示の無効を主張できる。 | ◯ |
2 誤り
AとBが意を通じて土地を仮装売却する行為は通謀虚偽表示である。
通謀による虚偽の意思表示は無効であり、AB間の売買契約は無効となる(民法94条1項)。
■第三者が存在する場合
通常の問題では、売主Aと買主B以外の第三者(図のP)についても出題されるので、ここで触れておく。
第三者Pが善意の場合には、Aは、意思表示の無効を対抗することができない。逆に、Pが悪意の場合であれば、Aは、意思表示の無効を対抗することができる。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | H19-01-2 | AB間の売買契約が、AとBとで意を通じた仮装のものであったとしても、Aの売買契約の動機が債権者からの差押えを逃れるというものであることをBが知っていた場合には、AB間の売買契約は有効に成立する。 | × |
2 | H16-01-2 | Aが、強制執行を逃れるために、実際には売り渡す意思はないのにBと通じて売買契約の締結をしたかのように装った場合、売買契約は無効である。 | ◯ |
3 | H12-04-1 | Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡する契約をした。BがAから所有権移転登記を受けていた場合でも、Aは、Bに対して、AB間の契約の無効を主張することができる。 | ◯ |
4 | H09-07-4 | 土地を購入したAが、その購入資金の出所を税務署から追及されることをおそれて、Bの所有名義に登記し土地を引き渡した場合は不法原因給付であるから、Aは、Bに対しその登記の抹消と土地の返還を求めることはできない。 | × |
5 | H02-04-4 | A所有の土地が、AからB、Bから善意無過失のCへと売り渡され、移転登記もなされている。Aが差押えを免れるため、Bと通謀して登記名義をBに移した場合、Aは、AB間の契約の無効を主張することはできるが、Cに対して所有権を主張することはできない。 | ◯ |
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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[Q1-8共通の設定] Aは、その所有する甲土地を譲渡する意思がないのに、Bと通謀して、Aを売主、Bを買主とする甲土地の仮装の売買契約を締結した。 | |||
1 | H30-01-3 | AがBに甲土地を売却した。AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。 | ◯ |
2 | H27-02-1 | 善意のCがBから甲土地を買い受けた場合、Cがいまだ登記を備えていなくても、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。 | ◯ |
3 | H27-02-2 | 善意のCが、Bとの間で、Bが甲土地上に建てた乙建物の賃貸借契約(貸主B、借主C)を締結した場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。 | × |
4 | H27-02-3 | Bの債権者である善意のCが、甲土地を差し押さえた場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。 | ◯ |
5 | H27-02-4 | 甲土地がBから悪意のCへ、Cから善意のDへと譲渡された場合、AはAB間の売買契約の無効をDに主張することができない。 | ◯ |
6 | H24-01-1 | Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、B名義の甲土地を差し押さえたBの債権者Cは、民法第94条第2項の「第三者」に該当する。 | ◯ |
7 | H24-01-2 | Aが所有する甲土地につき、AとBの間には債権債務関係がないにもかかわらず、両者が通謀の上でBのために抵当権を設定し、その旨の登記がなされた場合に、Bに対する貸付債権を担保するためにBから転抵当権の設定を受けた債権者Cは、民法第94条第2項の「第三者」に該当する。 | ◯ |
8 | H24-01-3 | Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、Bが甲土地の所有権を有しているものと信じてBに対して金銭を貸し付けたCは、民法第94条第2項の「第三者」に該当する。 | × |
9 | H24-01-4 | AとBが通謀の上で、Aを貸主、Bを借主とする金銭消費貸借契約を仮装した場合に、当該仮装債権をAから譲り受けたCは、民法第94条第2項の「第三者」に該当する。 | ◯ |
10 | H22-04-4 | Aは債権者の追及を逃れるために売買契約の実態はないのに登記だけBに移し、Bがそれに乗じてCとの間で売買契約を締結した場合には、AB間の売買契約が存在しない以上、Cは所有権を主張することができない。 | × |
11 | H20-02-2 | 所有権がAからBに移転している旨が登記されている甲土地について、CはBとの間で売買契約を締結したが、AB間の所有権移転登記はAとBが通じてした仮装の売買契約に基づくものであった場合、CがAB間の売買契約が仮装であることを知らず、知らないことに無過失であっても、Cが所有権移転登記を備えていなければ、Aは所有者であることをCに対して主張できる。 | × |
12 | H15-03-4 | Aは、自己所有の甲地をBに売却し引き渡したが、Bはまだ所有権移転登記を行っていない。AとCが、通謀して甲地をAからCに仮装譲渡し、所有権移転登記を得た場合、Bは登記がなくとも、Cに対して甲地の所有権を主張することができる。 | ◯ |
13 | H12-04-2 | Cが、AB間の契約の事情につき善意無過失で、Bからこの土地の譲渡を受けた場合は、所有権移転登記を受けていないときでも、Cは、Aに対して、その所有権を主張することができる。 | ◯ |
14 | H12-04-3 | CがAからこの土地の譲渡を受けた場合には、所有権移転登記を受けていないときでも、Cは、Bに対して、その所有権を主張することができる。 | ◯ |
15 | H12-04-4 | Cが、AB間の契約の事情につき善意過失で、Bからこの土地の譲渡を受け、所有権移転登記を受けていない場合で、Aがこの土地をDに譲渡したとき、Cは、Dに対して、その所有権を主張することができる。 | × |
16 | H07-02-1 | Aの所有する土地をBが取得した後、Bが移転登記をする前に、CがAから登記を移転した。BがAから購入した後、AがCに仮装譲渡し、登記をC名義に移転した場合、BがCに対して登記がなければ土地の所有権を主張できない。 | × |
17 | H07-04-1 | Bがこの土地にCに対する抵当権を設定し、その登記をした場合で、CがAB間の契約の事情を知っていたときは、Aは、Cに対して抵当権設定行為の無効を主張することができる。 | ◯ |
18 | H07-04-2 | Bがこの土地をCに売却し、所有権移転登記をした場合で、CがAB間の契約の事情を知らなかったことについて過失があるときは、Aは、Cに対してこの土地の所有権を主張することができる。 | × |
19 | H07-04-4 | BがCに、さらにCがDに、それぞれこの土地を売却し、所有権移転登記をした場合で、AB間の契約の事情について、Cは知っていたが、Dが知らなかったとき、Dは、Aに対しこの土地の取得を主張することができる。 | ◯ |
[Q20-23共通の設定] Aが、その所有地について、債権者Xの差押えを免れるため、Bと通謀して、登記名義をBに移転したところ、Bは、その土地をCに譲渡した。 | |||
20 | H05-03-1 | AB間の契約は無効であるから、Aは、Cが善意であっても、Cに対し所有権を主張することができる。 | × |
21 | H05-03-2 | Cが善意であっても、Xが善意であれば、Xは、Cに対し売買契約の無効を主張することができる。 | × |
22 | H05-03-3 | Cが善意であっても、Cが所有権移転の登記をしていないときは、Aは、Cに対し所有権を主張することができる。 | × |
23 | H05-03-4 | Cがその土地をDに譲渡した場合、Dは、Cの善意悪意にかかわらず、Dが善意であれば、Aに対し所有権を主張することができる。 | ◯ |
24 | H03-04-3 | Aの所有地にBがAに無断でB名義の所有権移転登記をし、Aがこれを知りながら放置していたところ、BがB所有地として善意無過失のCに売り渡し、CがC名義の所有権移転登記をした場合、Aは、その所有権をCに対抗することができない。 | ◯ |
25 | H02-04-4 | A所有の土地が、AからB、Bから善意無過失のCへと売り渡され、移転登記もなされている。Aが差押えを免れるため、Bと通謀して登記名義をBに移した場合、Aは、AB間の契約の無効を主張することはできるが、Cに対して所有権を主張することはできない。 | ◯ |
3 正しい
意思表示をするにあたり、第三者(C)が強迫を行った場合、Aは、相手方(B)の善意・悪意や過失の有無にかかわらず、その意思表示を取り消すことができる(民法96条2項の反対解釈)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 19-01-3 | 第三者の強迫による意思表示は、強迫を相手方が知っていたかどうかにかかわらず、取消可能である。 | ◯ |
2 | 16-01-4 | Aが、Cの強迫によってBとの間で売買契約を締結した場合、Cの強迫をBが知らず、かつ、知ることができなかったときでなければ、Aは売買契約を取り消すことができない。 | × |
※第三者が詐欺を行った場合には、相手方が事実を知り、又は知ることができた場合に限り、その意思表示を取り消すことができる(民法96条2項)。逆に、第三者が善意無過失の場合には、取り消すことはできない。
▲参考過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 30-01-1 | [AがBに甲土地を売却した。]甲土地につき売買代金の支払と登記の移転がなされた後、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、原状回復のため、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となる。 | ◯ |
2 | 30-01-4 | [AがBに甲土地を売却した。]Aが第三者の詐欺によってBに甲土地を売却し、その後BがCに甲土地を転売した場合、Bが第三者の詐欺の事実を知らず、かつ、知ることができなかったとしても、Cが第三者の詐欺の事実を知っていれば、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができる。 | × |
3 | 23-01-2 | 第三者の詐欺の場合、相手方が知っていたとしても、取消不可。 | × |
4 | 16-01-3 | 第三者の詐欺の場合、相手方の知不知に関わらず、取消不可。 | × |
5 | 14-01-1 | 第三者の詐欺の場合、相手方が知り、又は知ることができたときでないと、取消不可。 | ◯ |
6 | 10-07-1 | 第三者の詐欺の場合、相手方が知っているときは、取消可能。 | ◯ |
7 | 04-02-3 | 代理人が第三者に騙された場合、相手方が善意無過失でも、本人から取消可能。 | × |
8 | 04-02-4 | 代理人が第三者に騙された場合、相手方が善意無過失であれば、本人から取消不可。 | ◯ |
4 誤り
意思能力とは、自己の行為の結果を判断することができる精神的能力のことをいう。例えば、精神上の障害や泥酔により、意思能力を欠く状態で意思表示を行った場合、その意思表示は、当初から無効となる(民法3条の2)。取り消して初めて無効になるわけではない。したがって、追認・取消し・追認拒絶などの対象になることもない。
意思能力 | 実質的基準 | 無効 |
行為能力 | 形式的基準 | 取消可 |
※このように、意思無能力であるかどうかの判断は、意思表示の時点での精神的能力を実質的に判断する。これに対し、未成年であるとか、成年被後見人として家庭裁判所の審判を受けている、という形式的な基準により、意思表示の効力を判断するのが、「行為能力」の制度である。制限行為能力者が行った一定の行為は、取り消すことができる。当初から無効になるわけではない。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | R03-05-4 | 意思能力を有しないときに行った不動産の売買契約は、後見開始の審判を受けているか否かにかかわらず効力を有しない。 | ◯ |
2 | H30-03-4 | AとBとの間で、A所有の甲建物をBに贈与する旨を書面で約した。本件約定の時点でAに意思能力がなかった場合、Bは、本件約定に基づき甲建物の所有権を取得することはできない。 | ◯ |
3 | H24-03-1 | 意思能力を欠く状態での意思表示は、無効である。 | ◯ |
4 | H20-01-1 | 成年被後見人が行った法律行為は、事理を弁識する能力がある状態で行われたものであっても、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りではない。 | ◯ |
5 | H19-01-4 | A所有の甲土地についてのAB間の売買契約が、Aが泥酔して意思無能力である間になされたものである場合、Aは、酔いから覚めて売買契約を追認するまではいつでも売買契約を取り消すことができ、追認を拒絶すれば、その時点から売買契約は効となる。 | × |
6 | H17-01-2 | 自己所有の土地を売却するAの売買契約の相手方である買主Bが意思無能力者であった場合、Bは、Aとの間で締結した売買契約を取り消せば、当該契約を無効にできる。 | × |
7 | H15-01-1 | 意思能力を欠いている者が土地を売却する意思表示を行った場合、その親族が当該意思表示を取り消せば、取消しの時点から将来に向かって無効となる。 | × |
8 | H02-04-1 | A所有の土地が、AからBへと売り渡された。Aが成年被後見人の場合、Aは、契約の際完全な意思能力を有していてもAB間の契約を取り消し、Cに対して所有権を主張することができる。 | ◯ |