【宅建過去問】(平成19年問08)根抵当権
Aは、自己所有の甲不動産につき、B信用金庫に対し、極度額を3,000万円、被担保債権の範囲を「信用金庫取引による債権」とする第1順位の根抵当権を設定し、その旨の登記をした。なお、担保すべき元本の確定期日は定めなかった。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 元本の確定前に、被担保債権の範囲を変更するには後順位の抵当権者がいる場合は、その者の承諾を得なければならない。
- 元本の確定前に、B信用金庫から、被担保債権の範囲に属する個別債権の譲渡を受けた者は、確定日付のある証書でAに対し債権譲渡通知を行っておけば、その債権について根抵当権を行使できる。
- B信用金庫は、確定した元本が極度額以下であれば、その元本に係る最後の2年分の約定金利については、極度額を超えても、根抵当権を行使できる。
- Aが友人CのためにB信用金庫との間で保証契約を締結し保証債務を負担した場合、B信用金庫のAに対するこの保証債権は、「信用金庫取引による債権」に含まれ、この根抵当権で担保される。
正解:4
本問の根抵当権の内容をまとめると、以下のようになる。
|
また、普通抵当権と根抵当権との間には、表のような違いがある。
根抵当権 | 普通抵当権 | |
被担保債権の特定 | 不要 | 必要 |
付従性 | なし | あり |
随伴性 | なし | あり |
被担保債権の範囲 | 極度額 | 元本+最後の2年分の利息 |
これらを前提として、各選択肢を検討しよう。
1 誤り
元本の確定前においては、根抵当権の被担保債権の範囲を変更することができる。後順位抵当権者の承諾は不要である(民法398条の4)。
時期 | 利害関係人の承諾 | |
被担保債権の範囲 | 元本確定前 | 不要 |
債務者 | ||
確定期日 | 確定期日前 | |
極度額 | 確定後も可能 | 必要 |
※被担保債権の範囲、債務者、元本確定期日などを変更する場合、後順位抵当権者の承諾は不要である(同法398条の4、398条の6)。後順位抵当権者は、先順位の根抵当権者が極度額の範囲で根抵当権を有していることを覚悟している。そのため、これらの事項に変化があったとしても、後順位抵当権者の利害には影響がないからである。これに対し、極度額を変更した場合には、利害関係者に影響を及ぼす。したがって、極度額の変更については、利害関係者の承諾を得なければならない(同法398条の5)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
被担保債権の範囲・債務者の変更 | |||
1 | 19-08-1 | 元本確定前に、被担保債権の範囲を変更するには、後順位抵当権者の承諾が必要である。 | × |
2 | 01-05-2 | 根抵当権者は、後順位抵当権者の承諾を得ることなく、担保すべき債権の範囲を変更できる。 | ◯ |
極度額の変更 | |||
1 | 12‐05‐2 | 根抵当権の極度額は、いったん登記がされた後は、後順位担保権者その他の利害関係者の承諾を得た場合でも、増額することはできない。 | × |
2 | 01-05-4 | 根抵当権者は、元本の確定後においても、利害関係を有する者の承諾を得て、根抵当権の極度額の変更をすることができる。 | ◯ |
2 誤り
一般の抵当権とは異なり、元本確定前の根抵当権には随伴性がない。すなわち、元本の確定前に、被担保債権に属する個別の債権を譲り受けても、譲受人は根抵当権を行使することができない(民法398条の7第1項)。
※確定日付ある書面で債務者Aに通知することは、債権譲渡の対抗要件に過ぎない。これを備えたからといって、債権の譲受けを第三者に対抗できるだけである。いずれにせよ、根抵当権に随伴性はない。譲受人は、根抵当権を伴わない債権を譲り受けたことになる。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 23-04-2 | 元本確定前に被担保債権を譲り受けても、根抵当権を行使できない。 | ◯ |
2 | 19-08-2 | 元本確定前に被担保債権を譲り受けた者は、確定日付のある証書で債権譲渡通知をすれば、根抵当権を行使できる。 | × |
3 | 15-06-3 | 普通抵当権にも、根抵当権にも、随伴性がある。 | × |
4 | 12-05-4 | 元本確定前に被担保債権を譲り受けても、根抵当権を行使できない。 | ◯ |
3 誤り
根抵当権では、極度額の範囲内であれば、元本や利息等の全部が担保される(民法398条の3第1項)。逆に、極度額を超えた部分については、例え「最後の2年分の金利」であっても担保されない。
したがって、本肢のような「確定元本が極度額以下で、最後の2年分の約定金利を加えると極度額を超える」ケースでは、元本+金利のうち、極度額の範囲内の部分が担保されるのみである。極度額を超える部分について根抵当権を行使することはできない。
※普通抵当権では、遅延損害金について、最後の2年分を超えない利息の範囲内でしか担保されない(同法375条)。本問はこの知識とのヒッカケ。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 23-04-1 | 極度額の範囲内でも、遅延損害金として満期となった最後の2年分の利息しか請求できない。 | × |
2 | 19-08-3 | 極度額を超えても、遅延損害金として満期となった最後の2年分の利息を請求できる。 | × |
3 | 19-08-4 | (Aは、自己所有の甲不動産につき、B信用金庫に対し、極度額を3,000万円、被担保債権の範囲を「信用金庫取引による債権」とする第1順位の根抵当権を設定し、その旨の登記をした。)Aが友人CのためにB信用金庫との間で保証契約を締結し保証債務を負担した場合、B信用金庫のAに対するこの保証債権は、「信用金庫取引による債権」に含まれ、この根抵当権で担保される。 | ◯ |
4 | 15-06-4 | 普通抵当権でも、根抵当権でも、遅延損害金は最後の2年分の利息の範囲内に限られる。 | × |
5 | 12-05-3 | 極度額が1億円の場合、根抵当権者は、元本1億円とそれに対する最後の2年分の利息及び損害金の合計額につき、優先弁済を主張できる。 | × |
6 | 08-07-2 | 極度額に加え、遅延損害金として満期となった最後の2年分の利息を請求できる。 | × |
7 | 08-07-3 | 確定期日後の利息・損害金も極度額の範囲で優先弁済される。 | ◯ |
4 正しい
「信用金庫取引による債権」の範囲に、根抵当権設定者であるAが主たる債務者となる貸付債権が含まれるのは当然である。
判例は、それに加え、「被担保債権の範囲を『信用金庫取引による債権』」として設定された根抵当権の被担保債権には、信用金庫の根抵当債務者に対する保証債権も含まれる」とする(最判平05.01.19)。
したがって、B信用金庫のAに対する保証債権も、根抵当権によって担保されることになる。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 23-04-1 | 極度額の範囲内でも、遅延損害金として満期となった最後の2年分の利息しか請求できない。 | × |
2 | 19-08-3 | 極度額を超えても、遅延損害金として満期となった最後の2年分の利息を請求できる。 | × |
3 | 19-08-4 | (Aは、自己所有の甲不動産につき、B信用金庫に対し、極度額を3,000万円、被担保債権の範囲を「信用金庫取引による債権」とする第1順位の根抵当権を設定し、その旨の登記をした。)Aが友人CのためにB信用金庫との間で保証契約を締結し保証債務を負担した場合、B信用金庫のAに対するこの保証債権は、「信用金庫取引による債権」に含まれ、この根抵当権で担保される。 | ◯ |
4 | 15-06-4 | 普通抵当権でも、根抵当権でも、遅延損害金は最後の2年分の利息の範囲内に限られる。 | × |
5 | 12-05-3 | 極度額が1億円の場合、根抵当権者は、元本1億円とそれに対する最後の2年分の利息及び損害金の合計額につき、優先弁済を主張できる。 | × |
6 | 08-07-2 | 極度額に加え、遅延損害金として満期となった最後の2年分の利息を請求できる。 | × |
7 | 08-07-3 | 確定期日後の利息・損害金も極度額の範囲で優先弁済される。 | ◯ |
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