【宅建過去問】(令和02年12月問01)不法行為

不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

  1. 建物の建築に携わる設計者や施工者は、建物としての基本的な安全性が欠ける建物を設計し又は建築した場合、設計契約や建築請負契約の当事者に対しても、また、契約関係にない当該建物の居住者に対しても損害賠償責任を負うことがある。
  2. 被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を与え、第三者に対してその損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる。
  3. 責任能力がない認知症患者が線路内に立ち入り、列車に衝突して旅客鉄道事業者に損害を与えた場合、当該責任無能力者と同居する配偶者は、法定の監督義務者として損害賠償責任を負う。
  4. 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。

正解:3

1 正しい

判例(最判平19.07.06)をベースにした出題です。平成26年問06で出題された際の登場人物ABCを使って、登場人物の関係を図示します。

「建物の建築に携わる設計者や施工者(図のB)」と「設計契約や建築請負契約の当事者(図のA)」との間には、請負契約が存在します。「建物としての基本的な安全性が欠ける」という契約不適合があれば、Aは、Bに対して、契約不適合担保責任の追及として損害賠償責任を請求することができます(民法559条、564条、415条)。
この建物がAからCに譲渡された場合は、どうなるでしょうか。Cは、本肢でいう「当該建物の居住者」に該当します。
CB間には何の契約関係もありません。したがって、契約上の責任を追及することはできません。
しかし、建物の設計者Bには、建築にあたり、居住者等に対して基本的な安全性に配慮する注意義務が生じています。この義務を怠った結果、建物に安全性を損なう瑕疵(欠陥のこと)が生じ、居住者等の生命・身体・財産が侵害された場合、Bは、Cに対して、不法行為による賠償責任を負います(民法709条)。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
不法行為(請負人と建物の買主との関係)(民法[30])
年-問-肢内容正誤
1R02s-01-1建物の建築に携わる設計者や施工者は、建物としての基本的な安全性が欠ける建物を設計し又は建築した場合、設計契約や建築請負契約の当事者に対しても、また、契約関係にない当該建物の居住者に対しても損害賠償責任を負うことがある。
2H26-06-2Aは、Bに建物の建築を注文し、完成して引渡しを受けた建物をCに対して売却した。本件建物の主要な構造部分に欠陥があった。Bが建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき義務を怠ったために本件建物に基本的な安全性を損なう本件欠陥が生じた場合には、本件欠陥によって損害を被ったCは、特段の事情がない限り、Bに対して不法行為責任に基づく損害賠償を請求できる。
3H08-06-2AがBとの請負契約によりBに建物を建築させてその所有者となり、その後Cに売却した。Cはこの建物をDに賃貸し、Dが建物を占有していたところ、この建物の建築の際におけるBの過失により生じた瑕疵により、その外壁の一部が剥離して落下し、通行人Eが重傷を負った。Bは、Aに対してこの建物の建築の請負契約に基づく債務不履行責任を負うことがあっても、Eに対して不法行為責任を負うことはない。×

2 正しい

使用者責任が成立するケースで、被用者が損害を賠償した場合、被用者から使用者に対する求償が認められるか、という問題です。

民法は、使用者から被用者に対する求償を認めているものの(民法715条3項)、逆のパターン(被用者→使用者の求償)については、何も規定していません。
この論点を解決したのが、最判令02.28です。この判例は、求償制度を「損害の公平な分担という見地」に基づく制度と考えます。だとすると、求償の方向性が逆でも、結論は同じです。使用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、被用者に対して求償することができます。

■参照項目&類似過去問
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被用者の使用者に対する求償(民法[30]2(5))
年-問-肢内容正誤
1R02s-01-2被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を与え、第三者に対してその損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる。

3 誤り

被害者が加害者の損害賠償責任を追及することができるのは、加害者に責任能力がある場合に限られます(民法712条、713条)。責任能力とは、自己の行為の責任を弁識する能力のことです。精神上の障害(本肢では認知症)によって責任能力を欠く者は、被害者に対して損害賠償責任を負いません。
責任無能力者が不法行為責任を負わない場合、その責任無能力者に法定の監督義務者が存在すれば、その監督義務者が損害賠償責任を負います(同法714条1項)。

本肢のベースとなった判例では、認知症患者と同居する親族は、「法定の監督義務者」に当たらない、と結論付けています(最判平28.03.01。JR東海認知症事件)。したがって、「責任無能力者と同居する配偶者」は、損害賠償責任を負いません。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
責任能力(民法[30])
年-問-肢内容正誤
1R02s-01-3責任能力がない認知症患者が線路内に立ち入り、列車に衝突して旅客鉄道事業者に損害を与えた場合、当該責任無能力者と同居する配偶者は、法定の監督義務者として損害賠償責任を負う。×

4 正しい

不法行為による損害賠償の請求権が消滅するのは、以下の期間が経過した時です(民法724条、724条の2)。

本肢では、「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」について問われています。この請求権が時効によって消滅するのは、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない時です。

■参照項目&類似過去問
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不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[30]5(2))
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[06]3(2))
年-問-肢内容正誤
1R03-08-3Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないときでも、本件事故の時から20年間行使しないときには時効により消滅する。
2R03-08-4Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときには時効により消滅する。
3R02s-01-4
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。
4H28-09-1
信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権(人の生命又は身体の侵害によるものではない。)は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。
5H28-09-2
信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。×
6H26-06-3Aは、Bに建物の建築を注文し、完成して引渡しを受けた建物をCに対して売却した。本件建物の主要な構造部分に欠陥があった。CがBに対して本件建物の瑕疵に関して不法行為責任に基づく損害賠償を請求する場合、当該請求ができる期間は、Cが瑕疵の存在に気付いてから1年以内である。×
7H26-08-1不法行為による損害賠償請求権の期間の制限を定める民法第724条における、被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。
8H26-08-2不法行為による損害賠償債務の不履行に基づく遅延損害金債権は、当該債権が発生した時から10年間行使しないことにより、時効によって消滅する。×
9H26-08-3不法占拠により日々発生する損害については、加害行為が終わった時から一括して消滅時効が進行し、日々発生する損害を知った時から別個に消滅時効が進行することはない。×
10H26-08-4不法行為の加害者が海外に在住している間は、民法第724条後段の20年の時効期間は進行しない。×
11H19-05-4不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。×
12H17-11-4交通事故の被害者が、車の破損による損害賠償請求権を、損害及び加害者を知った時から3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。
13H12-08-3不法行為の被害者が、不法行為による損害と加害者を知った時から1年間、損害賠償請求権を行使しなければ、当該請求権は消滅時効により消滅する。×

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