【宅建過去問】(令和02年12月問05)時効

時効に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

  1. 消滅時効の援用権者である「当事者」とは、権利の消滅について正当な利益を有する者であり、債務者のほか、保証人、物上保証人、第三取得者も含まれる。
  2. 裁判上の請求をした場合、裁判が終了するまでの間は時効が完成しないが、当該請求を途中で取り下げて権利が確定することなく当該請求が終了した場合には、その終了した時から新たに時効の進行が始まる。
  3. 権利の承認があったときは、その時から新たに時効の進行が始まるが、権利の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないことを要しない。
  4. 夫婦の一方が他方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効が完成しない。

正解:2

1 正しい

時効期間の経過により時効が完成したとしても、自動的に時効の効力が発生するわけではありません。時効による利益(メリット)を受けるという意思表示、すなわち時効の援用があって初めて、時効の効力が発生するのです(民法145条)。
時効の援用権を有するのは、「当事者」です。この「当事者」には、保証人、物上保証人、第三取得者など「権利の消滅について正当な利益を有する者」が含まれます(同条)。

■参照項目&類似過去問
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時効の効力(民法[06]4(1))
年-問-肢内容正誤
時効の効力
1H29-02-1
Aの所有する甲土地をBが時効取得した場合、Bが甲土地の所有権を取得するのは、取得時効の完成時である。×
時効の援用
1R02s-05-1
消滅時効の援用権者である「当事者」とは、権利の消滅について正当な利益を有する者であり、債務者のほか、保証人、物上保証人、第三取得者も含まれる。
2H30-04-1
消滅時効完成後に主たる債務者が時効の利益を放棄した場合であっても、保証人は時効を援用することができる。
3H30-04-2後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。×
4H30-04-3詐害行為の受益者は、債権者から詐害行為取消権を行使されている場合、当該債権者の有する被保全債権について、消滅時効を援用することができる。
5H18-01-3
時効は、一定時間の経過という客観的事実によって発生するので、消滅時効の援用が権利の濫用となることはない。×
6H12-02-1
物上保証人は、主たる債務者の消滅時効を援用できる。
7H09-04-3
物上保証人は、債権の消滅時効を援用して債権者に抵当権の抹消を求めることができる。
時効の利益の放棄
1R02-07-2主たる債務の目的が保証契約の締結後に加重されたときは、保証人の負担も加重され、主たる債務者が時効の利益を放棄すれば、その効力は連帯保証人に及ぶ。×
2H30-04-1消滅時効完成後に主たる債務者が時効の利益を放棄した場合であっても、保証人は時効を援用することができる。
3H21-03-2賃借人が、賃貸人との建物賃貸借契約締結時に、賃料債権につき消滅時効の利益はあらかじめ放棄する旨約定したとしても、その約定に法的効力は認められない。

2 誤り

裁判上の請求をした場合、裁判が終了するまでの間、消滅時効の完成が猶予されます(民法147条1項1号)。
裁判上の請求をした場合であっても、訴え却下棄却の判決が下されたり、訴えの取下げがあった場合のように、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその訴えが終了した場合、時効は更新されません。この場合、6か月の間、時効の完成が猶予されるだけです(同項柱書き)。

※原告(訴えを提起した人)の主張が認められ、認容判決があった場合、消滅時効は、更新されます(民法147条2項)。ここから新たな時効がカウントされ、その期間は、判決の日から10年ということになります(同法169条1項)。

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時効の完成猶予・更新:裁判上の請求(民法[06]5(2)③・(3)①)
年-問-肢内容正誤
1R03-02-1債務者A、B、Cの3名が、内部的な負担部分の割合は等しいものとして合意した上で、債権者Dに対して300万円の連帯債務を負った。DがAに対して裁判上の請求を行ったとしても、特段の合意がなければ、BとCがDに対して負う債務の消滅時効の完成には影響しない。
2R02s-05-2訴えの提起後に当該訴えが取り下げられた場合には、特段の事情がない限り、時効の更新の効力は生じない。×
3R01-09-1訴えの提起後に当該訴えが取り下げられた場合には、特段の事情がない限り、時効の更新の効力は生じない。
4R01-09-2訴えの提起後に当該訴えの却下の判決が確定した場合には、時効の更新の効力は生じない。
5R01-09-3訴えの提起後に請求棄却の判決が確定した場合には、時効の更新の効力は生じない。
6R01-09-4訴えの提起後に裁判上の和解が成立した場合には、時効の更新の効力は生じない。×
709-04-4AがBの不動産に抵当権を有している場合に、Cがこの不動産に対して強制執行の手続を行ったときは、Aがその手続に債権の届出をしただけで、Aの債権の時効は更新される×
807-03-2
債権者が債務者に対して訴訟により弁済を求めても、その訴えが却下された場合は、時効更新の効力は生じない。
901-02-3
金銭債権の債権者Aが訴えを取り下げた場合、Aの金銭債権は、Aがその取下げをした日から10年間権利を行使しないとき、消滅する。×

3 正しい

債務者による権利の承認は、時効の更新事由に該当します(民法152条1項)。つまり、承認の時点から新たに時効の進行が始まります。
この承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないことを要しません(同条2項)。つまり、制限行為能力者であっても、権利の承認をすることができます。

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時効の更新:権利の承認(債務者の承認)(民法[06]5(3)②)
年-問-肢内容正誤
1R02s-05-3権利の承認があったときは、その時から新たに時効の進行が始まるが、権利の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないことを要しない。
230-04-4債務者が時効の完成の事実を知らずに債務の承認をした場合、その後、債務者はその完成した消滅時効を援用することはできない。
321-03-4消滅時効完成後に債務者が債権を承認した場合、時効完成を知らなかったとしても、時効の援用は許されない。
417-04-4消滅時効完成後に債務者が債権を承認した場合、時効完成を知らなかったとしても、時効の援用は許されない。
512-02-2物上保証人が、債権者に対し、金銭債務の存在を時効期間の経過前に承認した場合、当該債務の消滅時効の更新の効力が生じる。×
612-02-3主債務者が、債権者に対し、金銭債務の存在を時効期間の経過前に承認した場合、物上保証人は、当該債務の消滅時効の更新の効力を否定することができない。
707-03-4債務の承認をした場合、債務者が被保佐人であって、保佐人の同意を得ていなくても、時効更新の効力を生じる。

4 正しい

夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しません(民法159条)。つまり、時効の完成が猶予されるわけです。

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時効の完成猶予(民法[06]5(2))
年-問-肢内容正誤
催告
1H21-03-3債権者が、債務者に対する賃料債権につき内容証明郵便により支払を請求したときは、その請求により消滅時効は更新される。
×
2H01-02-2訴えの提起前6月以内に、債権者が債務者に債務の履行の催告をしても、時効が更新されるのは、訴えを提起したときである。
×
協議を行う旨の合意
1H29-04-1権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、その合意があった時から1年を経過した時までは、時効は完成しない。
夫婦間の権利
1R02s-05-4夫婦の一方が他方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効が完成しない。

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【宅建過去問】(令和02年12月問05)時効” に対して4件のコメントがあります。

  1. ケヤキ より:

    初めて質問させていただきます。よろしくお願いします。
    本問枝3について、152条に「未成年の承認は取り消すことができる(大判昭13、2-4)」との判例があるようですが、これと本条二項との関係はどう理解すれば良いか困っています。よろしくご教授下さいますようお願いいたします。

    1. 家坂 圭一 より:

      ケヤキ様

      質問ありがとうございます。

      本問枝3について、152条に「未成年の承認は取り消すことができる(大判昭13、2-4)」との判例があるようですが、これと本条二項との関係はどう理解すれば良いか困っています。

      「権利の承認と行為能力」については、この肢が平成07年問03肢4以来の出題です。しかも、平成07年の出題も被保佐人に関するものです。したがって、ケヤキさんのお悩みは、「宅建では不要」という可能性が濃厚です。深入りしないようにしましょう。
      とはいえ、困った状態のままでは、なかなか勉強も進まないでしょう。ということで、ご質問にお答えします。

      説明の仕方は各種あるのですが、昭和13年判決の理解を視野に入れると、以下の説明が最も簡潔です。

      • 制限行為能力者も、権利の承認をすることができる(民法152条2項)。
      • 制限行為能力者のうち、未成年者成年被後見人は、権利を管理する能力を有していないので、いったん承認しても、その承認を取り消すことができる。
        (昭和13年判決は「未成年者」に関するものですが、成年被後見人についても、同様に考えるべきでしょう。)
      • 逆に、被保佐人と被補助人は、一度承認したら取り消すことができない。

      これくらいの整理で、宅建対策としては十分以上です。
      より深く調べたいようであれば、本試験の後に取っておきましょう。

      1. ケヤキ より:

        ご解答ありがとうございます。ご示唆頂いたように本件は深い入りせず、これくらいにしておくようにします。ありがとうございました。

        1. 家坂 圭一 より:

          はい、それで十分です。
          本試験の範囲外は気にせず、どんどん先に進みましょう。

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