【宅建過去問】(令和03年10月問03)契約上の地位の相続(個数問題)

個人として事業を営むAが死亡した場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはいくつあるか。

  • ア AがBとの間でB所有建物の清掃に関する準委任契約を締結していた場合、Aの相続人は、Bとの間で特段の合意をしなくても、当該準委任契約に基づく清掃業務を行う義務を負う。
  • イ AがA所有の建物について賃借人Cとの間で賃貸借契約を締結している期間中にAが死亡した場合、Aの相続人は、Cに賃貸借契約を継続するか否かを相当の期間を定めて催告し、期間内に返答がなければ賃貸借契約をAの死亡を理由に解除することができる。
  • ウ AがA所有の土地について買主Dとの間で売買契約を締結し、当該土地の引渡しと残代金決済の前にAが死亡した場合、当該売買契約は原始的に履行が不能となって無効となる。
  • エ AがE所有の建物について貸主Eとの間で使用貸借契約を締結していた場合、Aの相続人は、Eとの間で特段の合意をしなくても、当該使用貸借契約の借主の地位を相続して当該建物を使用することができる。
  1. 一つ
  2. 二つ
  3. 三つ
  4. 四つ

正解:4

はじめに

本問では、契約当事者であるAが死亡したときに、相続人がその地位を相続するかどうか、が問われています。
例えば、売買契約(肢ウ)について、「相続人が売主の地位を相続するかどうか。」を考えたことのない人も多いでしょう。この問題をきっかけに、売主の地位、買主の地位、と一つずつ「相続するかどうか。」を覚え始める人もいるかも知れません。しかし、そんな努力は不要です。ここは、原則・例外パターンで解決しましょう。

■相続の原則

相続というのは、そもそも、相続人が被相続人の持っていた一切の権利義務を承継することをいいます(民法896条本文)。つまり、契約上の地位も「相続人が相続する」のが大原則です。

■相続の例外

例外的なケース、つまり、「被相続人が死亡した時点で契約が終了し、相続人が契約上の地位を相続しない。」というルールにしたいのであれば、民法に特別の規定を用意する必要があります。そして、その特別の規定については、それぞれの契約について勉強しているはずです。

■まとめ

「契約上の地位が相続されない。」という例外的なケースをしっかり覚えましょう。それ以外については、原則通り。つまり、契約当事者が死亡しても、相続人がその地位を引き継ぐと考えればOKです。

ア 誤り

■設定の確認

■準委任契約とは

当事者の一方(委任者)が法律行為をすることを相手方(受任者)に委託し、相手方がこれを承諾することにより成立するのが委任契約です(民法643条)。「法律行為でない事務」を委託する契約を準委任契約といいます。準委任契約についても、委任契約のルールが準用されるので(同法656条)、全く同じに考えればOKです。

■特別の規定→あり

委任契約は、以下の事由によって終了します(民法653条)。

■結論

準受任者であるAが死亡した時点で、準委任契約は終了します。準受任者Aの地位は、相続されません。したがって、Aの相続人は、準委任契約に基づく清掃業務を行う義務を負わないことになります。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
委任契約:終了(民法[29]3(2))
年-問-肢内容正誤
1R03-03-アAがBとの間でB所有建物の清掃に関する準委任契約を締結していた場合、Aの相続人は、Bとの間で特段の合意をしなくても、当該準委任契約に基づく清掃業務を行う義務を負う。×
2R02-05-4AとBとの間で締結された委任契約において、委任者Aが受任者Bに対して報酬を支払うこととされていた。Bが死亡した場合、Bの相続人は、急迫の事情の有無にかかわらず、受任者の地位を承継して委任事務を処理しなければならない。
×
318-09-2委任者が破産手続開始決定を受けた場合、委任契約は終了する。
418-09-3委任契約が委任者の死亡により終了した場合、受任者は、委任者の相続人から終了についての承諾を得るときまで、委任事務を処理する義務を負う。×
518-09-4委任契約の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、相手方に対抗することができず、そのときまで当事者は委任契約上の義務を負う。
613-06-1委任契約において、委任者又は受任者が死亡した場合、委任契約は終了する。
709-09-4有償の準委任契約は、受託者の死亡によって終了し、受託者の相続人はその地位を相続しない。
807-09-3委任者が死亡したとき、委託契約は終了するが、急迫の事情がある場合においては、受任者は、その管理業務を行う必要がある。

イ 誤り

■設定の確認

■特別の規定→なし

賃貸人の死亡と相続について、特別な規定は存在しません。ということは、原則通りに処理すればいいわけです。

■結論

賃貸人Aが死亡しても、賃貸借契約は終了しません。賃貸人の地位は、Aの相続人に相続されます。Aの死亡を理由に、Aの相続人が賃貸借契約を解除することはできません。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
賃貸借:相続の可否(民法[27]2(4))
年-問-肢内容正誤
1R03-03-イAがA所有の建物について賃借人Bとの間で賃貸借契約を締結している期間中にAが死亡した場合、Aの相続人は、Bに賃貸借契約を継続するか否かを相当の期間を定めて催告し、期間内に返答がなければ賃貸借契約をAの死亡を理由に解除することができる。×
227-03-1借主が死亡した場合、賃貸借契約は終了しない。
321-12-4借主が死亡しても賃借権は相続される。

ウ 誤り

■設定の確認

■特別の規定→なし

売主の死亡と相続について、特別な規定は存在しません。ということは、原則通りに処理すればいいわけです。

■結論

売主Aが死亡しても、売買契約は無効にはなりません。売主の地位は、Aの相続人に相続されます。Aの相続人は、買主Dに対して、その土地を引き渡す義務を負い、残代金を受領する権利を有します。

■原始的不能

本肢で「原始的に履行が不能」という言葉が使われています。
原始的不能というのは、債務の履行が契約の成立時に不能であることをいいます。例えば、建物の売買契約締結時にすでに落雷によって建物が焼失していた、というようなケースが原始的不能です。
本肢では、売買契約成立時点で、このような事情はありません。したがって、原始的不能ではないことになります。
また、現在の民法では、原始的不能も履行不能の一種として、後発的不能と同様に扱います(民法412条の2第2項)。つまり、契約が有効であることを前提に、その解除や損害賠償請求を認めるわけです。もしも、契約が原始的不能であっても、本肢がいうように「無効」になるわけではありません。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
履行不能(民法[15]2(2))
年-問-肢内容正誤
1R03-03-ウAがA所有の土地について買主Bとの間で売買契約を締結し、当該土地の引渡しと残代金決済の前にAが死亡した場合、当該売買契約は原始的に履行が不能となって無効となる。×
2R02s-04-4契約に基づく債務の履行が契約の成立時に不能であったとしても、その不能が債務者の責めに帰することができない事由によるものでない限り、債権者は、履行不能によって生じた損害について、債務不履行による損害の賠償を請求することができる。
324-08-3AB間でB所有の甲不動産の売買契約を締結した後、Bが甲不動産をCに二重譲渡してCが登記を具備した場合、AはBに対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる。
419-10-1令和X年9月1日にA所有の甲建物につきAB間で売買契約が成立した。甲建物が同年8月31日時点でAB両者の責に帰すことができない火災により滅失していた場合、甲建物の売買契約は有効に成立するが、Aは甲建物を引き渡す債務を負わないものの、Bは、代金の支払いを拒むことができない。×
519-10-2令和X年9月1日にA所有の甲建物につきAB間で売買契約が成立した。甲建物が同年9月15日時点でAの責に帰すべき火災により滅失した場合、有効に成立していた売買契約は、Aの債務不履行によって無効となる。
×

エ 誤り

■設定の確認

■特別の規定→あり

使用貸借契約は、借主の死亡によって終了します(民法597条3項)。その地位は、相続されません。
肢イの賃貸借契約も含めてまとめると、以下の表の通りです。

■結論

借主であるAが死亡した時点で、使用貸借契約は終了します。借主の地位は、相続されません。したがって、Aの相続人は、その建物を使用することができないことになります。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
使用貸借:相続の可否(民法[27]2(4))
年-問-肢内容正誤
[共通の設定]
AB間で、Aを貸主、Bを借主として、A所有の甲建物について使用貸借契約を締結した。
1R03-03-エBが死亡した場合、Bの相続人は、Aとの間で特段の合意をしなくても、当該使用貸借契約の借主の地位を相続して甲建物を使用することができる。×
227-03-1借主が死亡した場合、賃貸借では契約は終了しないが、使用貸借では契約が終了する。
321-12-4Bが死亡すると使用貸借契約は終了するので使用借権はBの相続人に相続されない。
417-10-1Bが死亡した場合、使用貸借契約は当然に終了する。
513-06-2使用貸借契約において、貸主又は借主が死亡した場合、使用貸借契約は効力を失う。
×
609-08-3契約で定めた期間の満了前にBが死亡した場合には、Bの相続人は、残りの期間についても、当該建物を無償で借り受ける権利を主張することはできない。

まとめ

ア・イ・ウ・エの四つとも誤っている記述です。正解は、肢4。


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【宅建過去問】(令和03年10月問03)契約上の地位の相続(個数問題)” に対して6件のコメントがあります。

  1. 菊池 昭彦 より:

    見間違えました。申し訳ないです。

    1. 家坂 圭一 より:

      承知しました。

  2. 吉村 武 より:

    正解は2になってますか?

    1. 家坂 圭一 より:

      正解は肢4(誤っているものは四つ)です。
      肢2(誤っているものは二つ)ではありません。

  3. 菊池 昭彦 より:

    正解は2になってますか?

    1. 家坂 圭一 より:

      正解は肢4(誤っているものは四つ)です。
      肢2(誤っているものは二つ)ではありません。

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