【宅建過去問】(令和03年12月問09)売買契約と賃貸借契約

AがBに対してA所有の甲建物を①売却した場合と②賃貸した場合についての次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

  1. ①と②の契約が解除された場合、①ではBは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要があるのに対し、②では将来に向かって解除の効力が生じるのでAは解除までの期間の賃料をBに返還する必要はない。
  2. ①ではBはAの承諾を得ずにCに甲建物を賃貸することができ、②ではBはAの承諾を得なければ甲建物をCに転貸することはできない。
  3. 甲建物をDが不法占拠している場合、①ではBは甲建物の所有権移転登記を備えていなければ所有権をDに対抗できず、②ではBは甲建物につき賃借権の登記を備えていれば賃借権をDに対抗することができる。
  4. ①と②の契約締結後、甲建物の引渡し前に、甲建物がEの放火で全焼した場合、①ではBはAに対する売買代金の支払を拒むことができ、②ではBとAとの間の賃貸借契約は終了する。

正解:3

売買契約(一回的契約)と賃貸借契約(継続的契約)

①売買契約と②賃貸借契約を比較する問題です。両者には、一回的契約継続的契約という違いがあります。この視点を持っておくと、各選択肢が理解しやすくなるでしょう。
話を分かりやすくするために、②賃貸借契約→①売買契約の順で説明します。

■②賃貸借契約

賃貸借契約は、継続的契約の代表例です。
賃貸借契約に基づいて、賃貸人Aが賃借人Bに甲建物を引き渡します。しかし、それで、両者の関係は終わりません。今後も、Bは、Aに対して、賃料を支払う義務を負います。甲建物にメンテナンスの必要が生じれば、それはAが行うわけです。また、最終的に契約関係が終わったときには、BがAに目的物を返還することになります。
このようにA・Bの関係が続くことから、継続的契約と呼ぶわけです。

■①売買契約

これに対して、売買契約は、一回的契約と呼ばれます。
売主Aから買主Bに目的物を引渡し、BがAに代金全額を支払えば、基本的に両者の関係は終わりです。何らかのトラブル(契約不適合の発覚など)がなければ、今後両者が取引することはありません。

1 正しい

■①売買契約の場合

契約を解除した場合、その効果が契約成立当初にさかのぼり、契約は、初めから存在しなかったことになります(これは売買契約に限らず、解除の一般論です)。

契約が最初から存在しなかった状態(原状)に戻すために、A・Bは、原状回復義務を負います(民法545条1項)。
まず、AはBに受け取った代金を返還し、BはAに引き渡された甲建物を返還する義務があります。しかし、代金と甲建物を互いに返還しただけでは、原状に回復されたことになりません。
Bには、甲建物の引渡しから返還までの間、甲建物を使えるという利益がありました。他の建物を借りたり、ホテル住まいする必要がなかったわけです。また、Bが他人に甲建物を賃貸し、賃料を受け取ったようなケースもあるでしょう。ABの関係を原状に回復するためには、BがAに、甲建物を使用収益した利益を償還する必要があります(同条3項)。

※逆に、Aは、Bに対して、受け取った代金だけでなく、利息を加えて返還する必要があります(民法545条2項)。

■参照項目&類似過去問
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解除の効果:原状回復義務(使用収益料)(民法[23]4(1)①)
年-問-肢内容正誤
1R03s-09-1AがBに対してA所有の甲建物を①売却又は②賃貸した。①と②の契約が解除された場合、①ではBは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要があるのに対し、②では将来に向かって解除の効力が生じるのでAは解除までの期間の賃料をBに返還する必要はない。
221-08-2売主Aは、買主Bとの間で甲土地の売買契約を締結し、代金の3分の2の支払と引換えに所有権移転登記手続と引渡しを行った。その後、Bが残代金を支払わないので、Aは適法に甲土地の売買契約を解除した。Bは、甲土地を現状有姿の状態でAに返還し、かつ、移転登記を抹消すれば、引渡しを受けていた間に甲土地を貸駐車場として収益を上げていたときでも、Aに対してその利益を償還すべき義務はない。
×
310-08-2Aが、Bに建物を3,000万円で売却した。Bが建物の引渡しを受けて入居したが、2ヵ月経過後契約が解除された場合、Bは、Aに建物の返還とともに、2ヵ月分の使用料相当額を支払う必要がある。
■②賃貸借契約の場合

賃貸借契約を解除した場合、解除の効力は、将来に向かってのみ効力を生じます(民法620条)。一般的な解除(①参照。)と違って、契約当初にさかのぼることはないのです。

契約成立から解除までの間、AはBに甲建物を使用させ、BはAに賃料を支払っていました。そして、両者は、精算済みです。賃貸借契約を解除したからといって、AがBに受領した賃料を返還する必要はありません。

■参照項目&類似過去問
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賃貸借の解除(民法[26]なし)
年-問-肢内容正誤
1R04-06-1Aを貸主、Bを借主として、A所有の甲土地につき、資材置場とする目的で期間を2年として、AB間で、①賃貸借契約又は②使用貸借契約を締結した。Aは、甲土地をBに引き渡す前であれば、①では口頭での契約の場合に限り自由に解除できるのに対し、②では書面で契約を締結している場合も自由に解除できる。×
2R03s-09-1AがBに対してA所有の甲建物を①売却又は②賃貸した。①と②の契約が解除された場合、①ではBは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要があるのに対し、②では将来に向かって解除の効力が生じるのでAは解除までの期間の賃料をBに返還する必要はない。
3H22-12-2賃貸借契約において、借主が貸主との間の信頼関係を破壊し、契約の継続を著しく困難にした場合であっても、貸主が契約解除するためには、催告が必要である。×

2 正しい

■①売買契約の場合


AB間の売買契約により、甲建物の所有権は、Bに移転しています。後は、甲建物を自分で使おうが、Cに貸そうが、何なら取り壊してしまっても、全てはBの自由です。前の所有者に過ぎないAにお伺いを立てる必要はありません。

■②賃貸借契約の場合

賃貸借契約の場合、賃貸人Aは、賃借人Bについて、「この人なら甲建物をきれいに使って、最終的にも原状回復した上で返してくれるだろう。」と信頼して契約をしています。それなのに、「実際には見知らぬCが使っている。」というのでは、不安で仕方ありません。

そこで、賃貸借契約については、賃貸人の承諾を得なければ、賃借物を転貸することができないというルールがあります(無断譲渡・転貸の禁止。民法612条1項)。

※無断で転貸した場合、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができます(民法612条2項)。この条文に関しては、無断転貸があった場合でも、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人が賃貸借を解除することはできない、とする判例(最判昭28.09.25)が頻出です。

■参照項目&類似過去問
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無断譲渡・転貸の禁止(民法[26]5(2))
年-問-肢内容正誤
1R04-06-2Aを貸主、Bを借主として、A所有の甲土地につき、資材置場とする目的で期間を2年として、AB間で、①賃貸借契約を締結した場合と、②使用貸借契約を締結した場合について考える。Bは、①ではAの承諾がなければ甲土地を適法に転貸することはできないが、②ではAの承諾がなくても甲土地を適法に転貸することができる。
2R04-08-2AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、①地上権である場合と②賃借権である場合について考える。CがBに無断でAから当該権原を譲り受け、甲土地を使用しているときは、①でも②でも、BはCに対して、甲土地の明渡しを請求することができる。
3R03s-09-2AがBに対してA所有の甲建物を①売却又は②賃貸した。①ではBはAの承諾を得ずにCに甲建物を賃貸することができ、②ではBはAの承諾を得なければ甲建物をCに転貸することはできない。
[共通の設定]
A所有の甲建物につき、Bが賃貸借契約を締結している。
4R02s-12-2BがAに無断でCに当該建物を転貸した場合であっても、Aに対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、Aは賃貸借契約を解除することができない。
5H27-09-2賃貸人が転貸借について承諾を与えた場合には、賃貸人は、断転貸を理由としては賃貸借契約を解除することはできないが、賃借人と賃貸借契約を合意解除することは可能である。
6H27-09-3土地の賃借人が無断転貸した場合、賃貸人は、賃貸借契約を民法第612条第2項により解除できる場合とできない場合があり、土地の賃借人が賃料を支払わない場合にも、賃貸人において法定解除権を行使できる場合とできない場合がある。
7H25-11-1BがAに断で甲建物をCに転貸した場合には、転貸の事情のいかんにかかわらず、AはAB間の賃貸借契約を解除することができる。×
8H21-12-1BがAに無断で甲建物を転貸しても、Aに対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは、Aは賃貸借契約を解除できない。
9H18-10-1AがBの承諾なく当該建物をCに転貸しても、この転貸がBに対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、BはAの無断転貸を理由に賃貸借契約を解除することはできない。
10H06-12-1AC間の転貸借がBの承諾を得ていない場合でも、その転貸借がBに対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、Bの解除権は発生しない。

3 誤り

「対抗できず」とか「対抗することができる」という表現から分かるように、対抗問題・対抗関係が本肢のテーマです。
この問題については、①売買でも②賃貸借でも考え方は共通です。
AとBとの間には、①売買契約又は②賃貸借契約があります。これに対し、Aと不法占拠者Dとの間には、何の関係もありません。ただ勝手に占拠しているだけです。

このような不法占拠者Dは、Bに「登記がないことを主張する正当な利益を有する者」ということができず、そのため対抗問題でいう「第三者」に該当しません(最判昭25.12.19)。したがって、Bは、甲土地の①所有権移転登記②賃借権の登記を備えなくても、Dに対して①所有権や②賃借権を対抗することができます。
本肢は、「①ではBは甲建物の所有権移転登記を備えていなければ所有権をDに対抗できず」とする点が誤りです。
②について、選択肢には、「Bは甲建物につき賃借権の登記を備えていれば賃借権をDに対抗することができる」とあります。これは正しい記述ですが、対抗要件(賃借権の登記又は建物の引渡し)がなくても、Bは、Dに賃借権を対抗可能です。

■参照項目&類似過去問
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対抗問題:不法占拠者(民法[07]3(3))
年-問-肢内容正誤
1R03s-09-3AがBに対してA所有の甲建物を①売却又は②賃貸した。甲建物をCが不法占拠している場合、①ではBは甲建物の所有権移転登記を備えていなければ所有権をCに対抗できず、②ではBは甲建物につき賃借権の登記を備えていれば賃借権をCに対抗することができる。
×
2R01-01-1[Aは、Aが所有している甲土地をBに売却した。]甲土地を何らの権原なく不法占有しているCがいる場合、BがCに対して甲土地の所有権を主張して明渡請求をするには、甲土地の所有権移転登記を備えなければならない。
×
319-03-3正当な権原なく土地を占有する者に対しては、登記を備えていなくても、土地の明渡しを請求できる。
416-03-1何ら権原のない不法占有者に対しては、登記を備えていなくても、土地の明渡しを請求できる。
510-01-3土地の不法占拠者に対しては、登記がなければ所有権を主張できない。×

4 正しい

■①売買契約の場合

甲建物は、第三者Eの放火で全焼しました。これにより、売主Aの買主Bに対する甲建物の引渡債務が履行不能になったわけです。履行不能について、AにもBにも帰責事由がありません。つまり、売主・買主双方に帰責事由がない場合の危険負担という問題です。

この場合、Bは、Aに対する売買代金の支払いを拒むことができます(民法536条1項)。

※Bは、売買契約を解除することもできます(民法542条1項1号)。

■参照項目&類似過去問
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危険負担(民法[23]5)
年-問-肢内容正誤
1R03s-09-4AがBに対してA所有の甲建物を①売却又は②賃貸した。①と②の契約締結後、甲建物の引渡し前に、甲建物がEの放火で全焼した場合、①ではBはAに対する売買代金の支払を拒むことができ、②ではBとAとの間の賃貸借契約は経了する。
2R02-05-1AとBとの間で締結された委任契約において、委任者Aが受任者Bに対して報酬を支払うこととされていた。Aの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、Bは報酬全額をAに対して請求することができるが、自己の債務を免れたことによって得た利益をAに償還しなければならない。
3R01-08-3Aを注文者、Bを請負人とする請負契約の目的が建物の増築である場合、Aの失火により当該建物が焼失し増築できなくなったときは、Bは本件契約に基づく未履行部分の仕事完成債務を免れる。
429-07-2請負契約が注文者の責めに帰すべき事由によって中途で終了した場合、請負人は、残債務を免れるとともに、注文者に請負代金全額を請求できるが、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還しなければならない。
[共通の設定]
本年9月1日にA所有の甲建物につきAB間で売買契約が成立した。
519-10-1甲建物が同年8月31日時点でAB両者の責に帰すことができない火災により滅失していた場合、甲建物の売買契約は有効に成立するが、Aは甲建物を引き渡す債務を負わないものの、Bは代金の支払いを拒むことができない。×
619-10-3甲建物が同年9月15日時点でBの責に帰すべき火災により滅失した場合、Aは甲建物を引き渡す債務を負わず、Bは代金の支払いを拒むことができる。×
719-10-4甲建物が同年9月15日時点で自然災害により滅失しても、AB間に「自然災害による建物滅失の危険は、建物引渡しまでは売主が負担する」との取決めがある場合、Aは甲建物を引き渡す債務を負わず、Bは代金の支払いを拒むことができる。
808-11-1代金の支払い及び建物の引渡し前に、その建物が地震によって全壊したときは、Bは、Aに対して代金の支払いを拒むことはできない。×
908-11-2代金の支払い及び建物の引渡し前に、その建物の一部が地震によって損壊したときは、Aは、代金の額から損壊部分に見合う金額を減額した額であれば、Bに対して請求することができる。×
1008-11-3Aが自己の費用で建物の内装改修工事を行って引き渡すと約束していた場合で、当該工事着手前に建物がBの責めに帰すべき火災で全焼したときは、Aは、内装改修工事費相当額をBに対して償還しなければならない。
1101-09-1甲建物の所有権移転登記後、引渡し前に、甲建物が天災によって滅失した場合、Bは、Aに対し代金の支払いを拒むことができない。×
1201-09-2甲建物の所有権移転登記後、引渡し前に、甲建物が放火によって半焼した場合、Bは、Aに対し代金の減額を請求することができない。×
■②賃貸借契約の場合

賃借物の全部が滅失その他の事由により使用収益することができなくなった場合、賃貸借は当然に終了します(民法616条の2)。

■参照項目&類似過去問
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賃借物の全部滅失(民法[26]7(4))
年-問-肢内容正誤
1R03s-09-4AがBに対してA所有の甲建物を賃貸した場合、甲建物の引渡し前に、甲建物がCの放火で全焼した場合、BとAとの間の賃貸借契約は経了する。
202-12-1建物の賃貸借において、期間満了前に当該建物が第三者の放火により全部滅失したときは、当該賃貸借は終了する。

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【宅建過去問】(令和03年12月問09)売買契約と賃貸借契約” に対して2件のコメントがあります。

  1. G より:

    初めまして
    早速ではありますが、3番が正解なのは承知ですが
    2番について
    背信行為と認めるに足りない特段の事情
    これについて引っかかっております。

    2番の選択肢
    ・・・②ではBはAの承諾を得なければ甲建物をCに転貸することはできない。
    この選択肢は誤ってないのでしょうか
    転貸することは出来ると言うことになります。
    御意見を伺いたいと存じます。

    1. 家坂 圭一 より:

      G様

      はじめまして!ご質問ありがとうございます。
      Gさんは、肢2論点である「転貸できるかどうか」という問題と、
      関連知識として説明した「禁止を破って転貸された場合に賃貸借契約を解除できるか」という問題を混同しているように思います。
      以下、順に説明しましょう。

      転貸できるかどうか

      2番の選択肢
      ・・・②ではBはAの承諾を得なければ甲建物をCに転貸することはできない。
      この選択肢は誤ってないのでしょうか

      この選択肢は、誤っています。
      賃借人Bは、賃貸人Aの承諾を得ない限り、甲建物をCに転貸することはできません。

      転貸することは出来ると言うことになります。

      ここが違っています。
      Aの承諾がなければ、転貸することはできません。

      無断転貸を解除できるかどうか

      ※(関連知識)として説明したのは、
      無断転貸があった場合に、賃貸人が賃貸借を解除できるか
      に関する問題です。
      2.の論点は、例えば、以下のように出題されます(令和02年(12月)問12肢2)。

      BがAに無断でCに当該建物を転貸した場合であっても、Aに対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、Aは賃貸借契約を解除することができない。

      これを含めて過去6回出題された超重要判例です。
      しっかり押さえておきましょう。

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