【宅建過去問】(令和03年12月問10)抵当権と賃借権

Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に第一順位の抵当権(以下この問において「本件抵当権」という。)を設定し、その登記を行った。AC間にCを賃借人とする甲建物の一時使用目的ではない賃貸借契約がある場合に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、正しいものはどれか。

  1. 本件抵当権設定登記後にAC間の賃貸借契約が締結され、AのBに対する借入金の返済が債務不履行となった場合、Bは抵当権に基づき、AがCに対して有している賃料債権を差し押さえることができる。
  2. Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、AC間の賃貸借契約の期間を定めていない場合には、Cの賃借権は甲建物の競売による買受人に対抗することができない。
  3. 本件抵当権設定登記後にAC間で賃貸借契約を締結し、その後抵当権に基づく競売手続による買受けがなされた場合、買受けから賃貸借契約の期間満了までの期間が1年であったときは、Cは甲建物の競売における買受人に対し、期間満了までは甲建物を引き渡す必要はない。
  4. Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、Cは、甲建物の競売による買受人に対し、買受人の買受けの時から1年を経過した時点で甲建物を買受人に引き渡さなければならない。

正解:1

設定の確認

「Aが、Bに対して、A所有の甲建物に抵当権を設定・登記」と「AC間にCを賃借人とする甲建物の賃貸借契約」という2つのアクションがあります。
このどちらが先かによって、結論が大きく異なることが多いのですが、それに関する記述はありません。選択肢ごとに違ってくるものと予想し、しっかり読み取る必要があります。
抵当権の問題ということは、それが実行され、競売により甲建物を買い受ける人(買受人・競落人)も出てくることでしょう。この人に、Dと名付けておきます。

1 正しい

■抵当権の効力が及ぶ範囲:果実

物(元物)から生じる経済的利益のことを果実といいます。例えば、土地を耕作することで作物が採れたり(天然果実)、土地を貸すことで賃料を得たり(法定果実)というのが実例です(民法88条)。果実は、原則として、抵当権の対象にはなりません。土地をどう利用し、そこから生じた果実をどう処分するか、は抵当権設定者が決めるべきことで、抵当権者が関与できることではないからです。
ただし、貸金債権について債務者に債務不履行があった場合は、話が別です。この場合、抵当権の効力は、果実にも及ぶことになります(同法371条)。
■賃料に対する物上代位

果実(賃料)から貸金債権を回収する手続には、物上代位の方法を使います。
つまり、Bは、AのCに対する賃料債権を差押え、Cに対し、賃料をAではなく、Bに支払うよう要求するわけです。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
賃料に対する物上代位(民法[12]3(4)③)
年-問-肢内容正誤
1R03s-10-1Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。本件抵当権設定登記後にAC間の賃貸借契約が締結され、AのBに対する借入金の返済が債務不履行となった場合、Bは抵当権に基づき、AがCに対して有している賃料債権を差し押さえることができる。
225-05-1賃料債権に対して物上代位をしようとする場合には、被担保債権の弁済期が到来している必要はない。×
324-07-1抵当権設定登記後に、賃料債権につき一般債権者が差押えした場合、抵当権者は物上代位できない。×
424-07-2抵当権実行中でも、抵当権が消滅するまでは、賃料債権に物上代位が可能。
524-07-4Aの抵当権設定登記があるB所有の建物について、CがBと賃貸借契約を締結した上でDに転貸していた場合、Aは、CのDに対する転貸賃料債権に当然に物上代位することはできない。
620-04-1抵当権実行を申し立てた抵当権者は、賃料への物上代位と賃貸借契約の解除が可能。×
717-05-2抵当権者は、賃料債権に物上代位することができる。
815-05-1(抵当建物を抵当権設定者が賃貸しているケース)抵当権設定登記後に、賃料債権が第三者に譲渡され対抗要件を備えた場合、賃借人が当該第三者に弁済する前であっても、抵当権設定者は、物上代位権を行使して当該賃料債権を差し押さえることはできない。×
915-05-2(抵当建物を抵当権設定者が賃貸しているケース)抵当権設定登記後に、賃料債権につき一般債権者が差押えした場合、差押命令が賃借人に送達された後は、抵当権者は物上代位できない。×
1011-04-1抵当権者は、抵当権に基づく差押えの前であっても、賃料債権の差押えが可能。
1101-07-2抵当権の効力は、被担保債権に不履行があった場合、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。

2 誤り

建物の引渡しは、建物賃借権に関する対抗要件です(借地借家法31条)。
つまり、本肢は、①Cが建物賃借権に関する対抗要件を備えた後に、②Bが抵当権を設定登記した、という順序です。「抵当権登記の前に賃借人が対抗要件を備えたケース」ということになります。

この場合、Cの賃借権が先に対抗要件を備えたのですから、Bの抵当権よりも、優先することになります。つまり、Cの賃借権の勝ちであり、Bの抵当権に対抗することが可能です。
抵当権の実行により、甲建物を競落したDは、抵当権者Bの立場を引き継ぎます。つまり、Cの賃借権は、Dの所有権に対抗することができるわけです。

本肢は、「Cの賃借権は甲建物の競売による買受人に対抗することができない」となっていますが、話が全く逆です。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
賃借人の保護(民法[12]8)
年-問-肢内容正誤
抵当権登記の前に賃借人が対抗要件を備えていたケース
[共通の設定]
Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。
1R03s-10-2Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、AC間の賃貸借契約の期間を定めていない場合には、Cの賃借権は甲建物の競売による買受人に対抗することができない。
×
2R03s-10-4Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、Cは、甲建物の競売による買受人に対し、買受人の買受けの時から1年を経過した時点で甲建物を買受人に引き渡さなければならない。
×
抵当権登記の後に賃借人が出現したケース
1R04-04-2Aに対抗することができない賃貸借により乙土地を競売手続の開始前から使用するCは、乙土地の競売における買受人Dの買受けの時から6か月を経過するまでは、乙土地をDに引き渡すことを要しない。×
2R03s-10-3Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。本件抵当権設定登記後にAC間で賃貸借契約を締結し、その後抵当権に基づく競売手続による買受けがなされた場合、買受けから賃貸借契約の期間満了までの期間が1年であったときは、Cは甲建物の競売における買受人に対し、期間満了までは甲建物を引き渡す必要はない。×
3H22-05-3(AはBから2,000万円を借り入れて土地とその上の建物を購入し、Bを抵当権者として当該土地及び建物に2,000万円を被担保債権とする抵当権を設定し、登記した。)Bの抵当権設定登記後にAがDに対して当該建物を賃貸し、当該建物をDが使用している状態で抵当権が実行され当該建物が競売された場合、Dは競落人に対して直ちに当該建物を明け渡す必要はない。
4H20-04-2(Aは、Bから借り入れた2,000万円の担保として抵当権が設定されている甲建物を所有しており、抵当権設定の後に、甲建物を賃借人Cに対して賃貸した。Cは甲建物に住んでいるが、賃借権の登記はされていない。)抵当権が実行されて、Dが甲建物の新たな所有者となった場合であっても、Cは民法602条に規定されている短期賃貸借期間の限度で、Dに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。×
5H18-05-4第一抵当権の設定後、第二抵当権の設定前に、期間2年の土地賃貸借契約を締結した借主は、第一抵当権者の同意の有無によらず、第一抵当権者に対しても賃借権を対抗できる。×
6H17-06-4抵当権設定後に、期間2年の建物賃貸借契約を締結し、建物を引き渡した場合、賃貸借を抵当権者に対抗できる。×

3 誤り

①Bが抵当権設定登記をした後に、②AC間の賃貸借契約が締結された、という順序です。つまり、「抵当権登記の後に賃借人が出現したケース」ということになります。

この場合、Cの賃借権が対抗要件(賃借権の登記又は建物の引渡し)を備えていたとしても、それよりBの抵当権が優先することになります。つまり、Cの賃借権の負けであり、Bの抵当権に対抗することができません。
抵当権の実行により、甲建物を競落したDは、抵当権者Bの立場を引き継ぎます。つまり、Cの賃借権は、Dの所有権に対抗することができないわけです。Dは、Cに対して、甲建物の引渡しを要求することができます。

しかし、Cに対して、「今すぐに出ていけ!」というのもかわいそうです。そこで、買受人Dの買受けから6か月間は、引渡しが猶予されています(民法395条1項)。
本肢は、「賃貸借契約の期間満了までの期間が1年であったときは、Cは…期間満了までは甲建物を引き渡す必要はない」として1年間の猶予を与えている点が誤りです。

■参照項目&類似過去問
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賃借人の保護(民法[12]8)
年-問-肢内容正誤
抵当権登記の前に賃借人が対抗要件を備えていたケース
[共通の設定]
Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。
1R03s-10-2Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、AC間の賃貸借契約の期間を定めていない場合には、Cの賃借権は甲建物の競売による買受人に対抗することができない。
×
2R03s-10-4Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、Cは、甲建物の競売による買受人に対し、買受人の買受けの時から1年を経過した時点で甲建物を買受人に引き渡さなければならない。
×
抵当権登記の後に賃借人が出現したケース
1R04-04-2Aに対抗することができない賃貸借により乙土地を競売手続の開始前から使用するCは、乙土地の競売における買受人Dの買受けの時から6か月を経過するまでは、乙土地をDに引き渡すことを要しない。×
2R03s-10-3Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。本件抵当権設定登記後にAC間で賃貸借契約を締結し、その後抵当権に基づく競売手続による買受けがなされた場合、買受けから賃貸借契約の期間満了までの期間が1年であったときは、Cは甲建物の競売における買受人に対し、期間満了までは甲建物を引き渡す必要はない。×
3H22-05-3(AはBから2,000万円を借り入れて土地とその上の建物を購入し、Bを抵当権者として当該土地及び建物に2,000万円を被担保債権とする抵当権を設定し、登記した。)Bの抵当権設定登記後にAがDに対して当該建物を賃貸し、当該建物をDが使用している状態で抵当権が実行され当該建物が競売された場合、Dは競落人に対して直ちに当該建物を明け渡す必要はない。
4H20-04-2(Aは、Bから借り入れた2,000万円の担保として抵当権が設定されている甲建物を所有しており、抵当権設定の後に、甲建物を賃借人Cに対して賃貸した。Cは甲建物に住んでいるが、賃借権の登記はされていない。)抵当権が実行されて、Dが甲建物の新たな所有者となった場合であっても、Cは民法602条に規定されている短期賃貸借期間の限度で、Dに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。×
5H18-05-4第一抵当権の設定後、第二抵当権の設定前に、期間2年の土地賃貸借契約を締結した借主は、第一抵当権者の同意の有無によらず、第一抵当権者に対しても賃借権を対抗できる。×
6H17-06-4抵当権設定後に、期間2年の建物賃貸借契約を締結し、建物を引き渡した場合、賃貸借を抵当権者に対抗できる。×

4 誤り

登場人物の関係は、肢2と全く同じです。つまり、「抵当権登記の前に賃借人が対抗要件を備えたケース」であり、Cの賃借権は、Dの所有権に対抗することができます。
したがって、Cは、甲建物をDに引き渡す必要がありません。
本肢は、「Cは、…甲建物を買受人に引き渡さなければならない」とする点で、根本的に間違っています。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
賃借人の保護(民法[12]8)
年-問-肢内容正誤
抵当権登記の前に賃借人が対抗要件を備えていたケース
[共通の設定]
Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。
1R03s-10-2Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、AC間の賃貸借契約の期間を定めていない場合には、Cの賃借権は甲建物の競売による買受人に対抗することができない。
×
2R03s-10-4Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、Cは、甲建物の競売による買受人に対し、買受人の買受けの時から1年を経過した時点で甲建物を買受人に引き渡さなければならない。
×
抵当権登記の後に賃借人が出現したケース
1R04-04-2Aに対抗することができない賃貸借により乙土地を競売手続の開始前から使用するCは、乙土地の競売における買受人Dの買受けの時から6か月を経過するまでは、乙土地をDに引き渡すことを要しない。×
2R03s-10-3Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に抵当権を設定し、その登記を行った。本件抵当権設定登記後にAC間で賃貸借契約を締結し、その後抵当権に基づく競売手続による買受けがなされた場合、買受けから賃貸借契約の期間満了までの期間が1年であったときは、Cは甲建物の競売における買受人に対し、期間満了までは甲建物を引き渡す必要はない。×
3H22-05-3(AはBから2,000万円を借り入れて土地とその上の建物を購入し、Bを抵当権者として当該土地及び建物に2,000万円を被担保債権とする抵当権を設定し、登記した。)Bの抵当権設定登記後にAがDに対して当該建物を賃貸し、当該建物をDが使用している状態で抵当権が実行され当該建物が競売された場合、Dは競落人に対して直ちに当該建物を明け渡す必要はない。
4H20-04-2(Aは、Bから借り入れた2,000万円の担保として抵当権が設定されている甲建物を所有しており、抵当権設定の後に、甲建物を賃借人Cに対して賃貸した。Cは甲建物に住んでいるが、賃借権の登記はされていない。)抵当権が実行されて、Dが甲建物の新たな所有者となった場合であっても、Cは民法602条に規定されている短期賃貸借期間の限度で、Dに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。×
5H18-05-4第一抵当権の設定後、第二抵当権の設定前に、期間2年の土地賃貸借契約を締結した借主は、第一抵当権者の同意の有無によらず、第一抵当権者に対しても賃借権を対抗できる。×
6H17-06-4抵当権設定後に、期間2年の建物賃貸借契約を締結し、建物を引き渡した場合、賃貸借を抵当権者に対抗できる。×

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