【宅建過去問】(令和04年問08)地上権と賃借権
AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、①地上権である場合と②賃借権である場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。なお、AもBも対抗要件を備えているものとする。
- ①でも②でも、特約がなくても、BはAに対して、甲土地の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
- CがBに無断でAから当該権原を譲り受け、甲土地を使用しているときは、①でも②でも、BはCに対して、甲土地の明渡しを請求することができる。
- ①では、Aは当該権原を目的とする抵当権を設定することができるが、②では、Aは当該権原を目的とする抵当権を設定することはできない。
- Dが甲土地を不法占拠してAの土地利用を妨害している場合、①では、Aは当該権原に基づく妨害排除請求権を行使してDの妨害の排除を求めることができるが、②では、AはDの妨害の排除を求めることはできない。
Contents
正解:3
はじめに
設定の確認
AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、①地上権である場合と②賃借権である場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。なお、AもBも対抗要件を備えているものとする。
「建物所有目的でなく」とあるので、本問の①地上権や②賃借権は、借地借家法上の「借地権」ではありません(同法2条1号)。したがって、「対抗要件」も、民法上の対抗要件、つまり、①地上権や②賃借権の登記を意味します(民法177条、605条)。
基本的な考え方
①地上権は物権、②賃借権は債権、という視点を持っていると話が分かりやすくなります。
①地上権は、甲土地という土地(物)を使用できる権利です。所有者Bという人に対して何かを要求する権利ではありません。
これに対して、②賃借権は、甲土地の賃貸人Bという人に対して、甲土地の使用を請求できる権利です。甲土地(物)自体に対する権利ではありません。
■参照項目&類似過去問(全選択肢を合わせて)
内容を見る[共通の設定]
AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、①では地上権であり、②では賃借権である。なお、AもBも対抗要件を備えているものとする。
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R04-08-1 | ①でも②でも、特約がなくても、BはAに対して、甲土地の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 | × |
2 | R04-08-2 | CがBに無断でAから当該権原を譲り受け、甲土地を使用しているときは、①でも②でも、BはCに対して、甲土地の明渡しを請求することができる。 | × |
3 | R04-08-3 | ①では、Aは当該権原を目的とする抵当権を設定することができるが、②では、Aは当該権原を目的とする抵当権を設定することはできない。 | ◯ |
4 | R04-08-4 | Dが甲土地を不法占拠してAの土地利用を妨害している場合、①では、Aは当該権原に基づく妨害排除請求権を行使してDの妨害の排除を求めることができるが、②では、AはDの妨害の排除を求めることはできない。 | × |
1 誤り
①地上権の場合、甲土地の所有者Bは、「地上権者Aが甲土地を利用することを認める」という消極的な義務しか負っていません。そのため、Aが、Bに対して、甲土地の修繕を求めることは不可能です。Aは、自分自身で修繕する必要があります。
一方、②賃借権の場合、賃貸人Bは、「賃借人Aに甲土地を使用させる」という積極的な義務を負っています。そのため、Aに対し、甲土地の使用及び収益に必要な修繕をしなければなりません(民法606条1項本文)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
①賃貸人による修繕 | |||
1 | R05-09-3 | Bの責めに帰すべき事由によって甲建物の修繕が必要となった場合は、Aは甲建物を修繕する義務を負わない。 | ◯ |
2 | R04-08-1 | AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、地上権である場合でも賃借権である場合でも、特約がなくても、BはAに対して、甲土地の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 | × |
3 | H25-08-3 | 建物の賃貸人が必要な修繕義務を履行しない場合、賃借人は目的物の使用収益に関係なく賃料全額の支払を拒絶することができる。 | × |
4 | H25-08-4 | 建物の賃貸人が賃貸物の保存に必要な修繕をする場合、賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても、これを拒むことはできない。 | ◯ |
5 | H17-15-2 | 賃貸人と賃借人との間で別段の合意をしない限り、動産の賃貸借契約の賃貸人は、賃貸物の使用収益に必要な修繕を行う義務を負うが、建物の賃貸借契約の賃貸人は、そのような修繕を行う義務を負わない。 | × |
6 | H01-06-1 | Aは、自己所有の建物をBに賃貸した。建物が老朽化してきたため、Aが建物の保存のために必要な修繕をする場合、Bは、Aの修繕行為を拒むことはできない。 | ◯ |
②賃借人による修繕 | |||
1 | R05-09-1 | 甲建物の修繕が必要であることを、Aが知ったにもかかわらず、Aが相当の期間内に必要な修繕をしないときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | ◯ |
2 | R05-09-2 | 甲建物の修繕が必要である場合において、BがAに修繕が必要である旨を通知したにもかかわらず、Aが必要な修繕を直ちにしないときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | × |
3 | R05-09-4 | 甲建物の修繕が必要である場合において、急迫の事情があるときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | ◯ |
4 | R02s-12-1 | 賃貸借の目的物である建物の修繕が必要である場合において、賃借人Bが賃貸人Aに修繕が必要である旨を通知したにもかかわらずAが相当の期間内に必要な修繕をしないときは、Bは自ら修繕をすることができる。 | ◯ |
2 誤り
①地上権は、甲土地という土地(物)を使用できる権利(物権)です。地上権者Aは、所有者Bの承諾を得なくても、地上権をCに譲り渡すことが可能です。地上権を譲渡されたからといって、BがCに甲土地の明渡しを請求することはできません。
②賃貸借契約の場合、賃貸人Bは、賃借人Aについて、「この人なら甲建物をきれいに使って、最終的にも原状回復した上で返してくれるだろう。」と信頼して契約をしています。それなのに、「実際には見知らぬCが使っている。」というのでは、不安で仕方ありません。そこで、賃貸借契約については、賃貸人の承諾を得なければ、賃借物を転貸することができないというルールがあります(無断譲渡・転貸の禁止。民法612条1項)。無断で転貸した場合、Bは、Aとの賃貸借契約を解除することができます(同条2項)。そうすると、Cには甲土地を使用する根拠がなくなりますから、Bは、Cに甲土地の明渡しを請求することができます。
☆「無断譲渡・転貸の禁止」というテーマは、問06肢2でも出題されています。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R04-06-2 | Aを貸主、Bを借主として、A所有の甲土地につき、資材置場とする目的で期間を2年として、AB間で、①賃貸借契約を締結した場合と、②使用貸借契約を締結した場合について考える。Bは、①ではAの承諾がなければ甲土地を適法に転貸することはできないが、②ではAの承諾がなくても甲土地を適法に転貸することができる。 | ◯ |
2 | R04-08-2 | AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、①地上権である場合と②賃借権である場合について考える。CがBに無断でAから当該権原を譲り受け、甲土地を使用しているときは、①でも②でも、BはCに対して、甲土地の明渡しを請求することができる。 | ◯ |
3 | R03s-09-2 | AがBに対してA所有の甲建物を①売却又は②賃貸した。①ではBはAの承諾を得ずにCに甲建物を賃貸することができ、②ではBはAの承諾を得なければ甲建物をCに転貸することはできない。 | ◯ |
[共通の設定] A所有の甲建物につき、Bが賃貸借契約を締結している。 | |||
4 | R02s-12-2 | BがAに無断でCに当該建物を転貸した場合であっても、Aに対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、Aは賃貸借契約を解除することができない。 | ◯ |
5 | H27-09-2 | 賃貸人が転貸借について承諾を与えた場合には、賃貸人は、断転貸を理由としては賃貸借契約を解除することはできないが、賃借人と賃貸借契約を合意解除することは可能である。 | ◯ |
6 | H27-09-3 | 土地の賃借人が無断転貸した場合、賃貸人は、賃貸借契約を民法第612条第2項により解除できる場合とできない場合があり、土地の賃借人が賃料を支払わない場合にも、賃貸人において法定解除権を行使できる場合とできない場合がある。 | ◯ |
7 | H25-11-1 | BがAに断で甲建物をCに転貸した場合には、転貸の事情のいかんにかかわらず、AはAB間の賃貸借契約を解除することができる。 | × |
8 | H21-12-1 | BがAに無断で甲建物を転貸しても、Aに対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは、Aは賃貸借契約を解除できない。 | ◯ |
9 | H18-10-1 | AがBの承諾なく当該建物をCに転貸しても、この転貸がBに対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、BはAの無断転貸を理由に賃貸借契約を解除することはできない。 | ◯ |
10 | H06-12-1 | AC間の転貸借がBの承諾を得ていない場合でも、その転貸借がBに対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、Bの解除権は発生しない。 | ◯ |
3 正しい
抵当権は、通常、不動産(土地又は建物)を対象にして設定されます(民法369条1項)。それ以外にも、地上権や永小作権を抵当権の目的とすることが可能です(同条2項)。
つまり、①地上権を目的として抵当権を設定することはできますが、②賃借権を担保に抵当権を設定することはできません。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R04-08-3 | AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、①では地上権であり、②では賃借権である。①では、Aは当該権原を目的とする抵当権を設定することができるが、②では、Aは当該権原を目的とする抵当権を設定することはできない。 | ◯ |
2 | H01-07-1 | 抵当権は、不動産だけでなく、地上権及び永小作権にも設定することができる。 | ◯ |
4 誤り
①地上権は物権です。所有権が代表例ですが、物権の円満な状態が侵害された場合、所有権者には、その侵害を排除する権利があり、これを物権的請求権といいます。民法が物権的請求権を明文で認めているのは、占有権のみです(民法197条~202条)。
最も弱い物権である占有権ですら、このような請求権が認められるならば、所有権や地上権など、占有権より強い物権についても、物権的請求権が認められるのが自然です。したがって、地上権者Aには、不法占拠者Dに対して、地上権に基づく妨害排除請求権が認められます。
②賃借権についても、賃借人が対抗要件を備えていれば、不動産の占有を第三者に妨害された場合にその妨害の停止を請求することが認められています(民法605条の4第1号)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | R04-08-4 | Aが所有する甲土地を平置きの駐車場用地として利用するBに賃貸し、Bは、その賃借権を登記している。Cが甲土地を不法占拠してBの土地利用を妨害している場合、BはCの妨害の排除を求めることはできない。 | × |
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肢4の賃借権について質問です。
対抗要件があれば請求出来るということは、この不法占領者は、対抗問題のある第三者に当たるのでしょうか。
令和03年12月問09の肢3に、建物の不法占領問題があり、不法占領者は「対抗問題でいう第三者に当たらない」と解説があります。
対抗要件と妨害排除命令とで、問われていることが違うからなのか、土地と建物が違うからなのか、よくわかりませんでした。
法605条も読んでみましたが、対抗要件要件を備えた場合と書いてあり、不法占領=対抗要件ではあるのかと思いますが、第三者に当たるか当たらないかの違いがわかりません。
よろしくお願いします。
(1)対抗関係での勝ち負けの問題と(2)妨害の停止や返還を請求する場合の要件の問題を分けて考えましょう。
(1)対抗関係での勝ち負け
令和03年12月問09肢3は、こちらのケースです。
この問題でのDは、甲建物の不法占拠者に過ぎず、対抗問題でいう「第三者」に当たりません。
したがって、BとDとの関係では、対抗要件の有無を問うことなく、Bの勝ちということになります。
賃借人Bは、対抗要件があろうがなかろうが、Dに対して、賃借権を主張することができます。
(2)妨害の停止や返還を請求する場合の要件
令和04年問08肢4は、こちらの問題です。
①地上権は、物権の一種です。したがって、地上権者Aは、物権的請求権を行使して、Dの妨害の排除を求めることができます。
これに対して、②賃借権は、債権の一種です。単純に物権と同じに扱うことはできません。
そこで、民法は、賃借権が対抗要件を備えている場合は、物権同様に扱うことにしました。
つまり、賃借権者Aは、賃借権の対抗要件を備えていれば、Dに対して妨害の停止を請求することができるとしたわけです。