【宅建過去問】(令和06年問06)混同による物権の消滅

Aの所有する甲土地にBを地上権者とする地上権(以下この問において「本件地上権」という。)が設定され、その旨の登記がされた後に、甲土地にCを抵当権者とする抵当権が設定され、その旨の登記がされた場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはいくつあるか。

  • ア BがAとの売買契約に基づき、甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する。
  • イ Aが死亡してBがAを単独相続し、甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する。
  • ウ BがAとの代物弁済契約に基づき、甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する。
  • エ BがAとの贈与契約に基づき、甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する。
  1. 一つ
  2. 二つ
  3. 三つ
  4. なし

正解:4

設定の確認

話を分かりやすくするため、いくつか設定を追加して図を描いておきます。

  1. Aは、甲土地を所有していました。
  2. Bは、甲土地上に建物を所有するため、Aから地上権の設定を受け、その旨を登記しました(登記①)。
  3. Aは、Cからお金を借り入れました。Cは、その担保として、甲土地に抵当権の設定し、登記しました(登記②)。

この先の展開

このまま選択肢の検討に入ると、何が何だか分からなくなる可能性大。まずは、選択肢を無視して、今後A、B、Cの関係がどうなるのか、展開を考えておきましょう。

抵当権の実行

AがCから借りたお金を約束どおりに返済すれば、何の問題もありません。返済を終えた時点でCの抵当権は消滅するからです。
問題は、Aが、借金を返せなかったときです。この場合は、抵当権の実行という手続が始まります。具体的には、競売です。競売手続の結果、Xが甲土地を競落しました。この場合、Xが支払った競落代金により、Cは、Aに貸した資金を回収します。一方、Xは、甲土地の所有権を手に入れることができました。

新所有者Xと地上権者Bとの関係

Bは、Cによる抵当権の登記(登記②)よりも前に、自分の地上権を登記しています(登記①)。したがって、BとCとの対抗問題では、Bの勝ち、Cの負けです。Bは、自分の地上権をCに対抗することができます。
競落人Xは、抵当権者Cの地位を引継ぎます。したがって、BとXとの対抗問題では、Bの勝ち、Xの負けです。Bは、自分の地上権をXに対抗することができます。逆に、Xは、Bが地上権に基づいて甲土地を利用することを認めなければなりません。


以上をまとめると、抵当権の実行後は、Xの所有する甲土地上にBが地上権を持っていて、この地上権を根拠に建物を所有する状況になるわけです。

混同による制限物権の消滅

選択肢の検討

どの選択肢も後半部分は全く同じ。(Bが)「甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する」の繰返しです。
しかし、これを認めると、抵当権が実行された際に、Bは、絶望的な状況に陥ります。Cが抵当権を実行し、Xが甲土地を手に入れたときに、Bは、甲土地の利用を正当化することができなくなるからです。

【原則】混同による制限物権の消滅

民法のルールを確認しましょう。
同じ物について、所有権と制限物権(=所有権・占有権以外の物権)が同じ人に帰属したときには、その制限物権が消滅します(民法179条1項本文)。これを混同による制限物権の消滅といいます。
所有権を持っていれば、その物を使用・収益・処分することができます。そのため、所有権に加えて、他の物権も持っているという必要はないのです。
例えば、以下のケースを考えてみましょう。

  1. Aは、甲土地を所有していました。
  2. Bは、甲土地上に建物を所有するため、Aから地上権の設定を受け、その旨を登記しました(登記①)。

ここで、例えば、「BがAとの売買契約に基づき、甲土地の所有権を取得した」(肢ア)とすれば、所有権者A=地上権者Bとなったため、混同により地上権が消滅します。

【例外】制限物権が消滅しないケース

例外は、その物が第三者の権利の目的(=対象)であるときです(民法179条1項ただし書き)。
例えば、本問では、その物(=甲土地)が、第三者の権利(=Cの抵当権)の目的になっています。このような場合には、地上権は、消滅しません。つまり、Bは、甲土地の所有者であり、かつ、甲土地の地上権者でもあるわけです。
抵当権の実行によりXが甲土地の所有権を手に入れると、Bは、甲土地の所有権を失います。しかし、甲土地の地上権は消滅しません。そして、Bは、この地上権をXに対抗することができます。つまり、「この先の展開」で考えたのと同じ権利を確保できるわけです。

まとめ

地上権が消滅するかしないか、は、甲土地が「第三者の権利の目的であるかどうか」で決まります。Bが所有権を手に入れた経緯は関係がありません。そして、「甲土地がCの抵当権の目的であること」は、そもそも本問の設定になっています。
したがって、ア、イ、ウ、エ、全てのケースで、地上権は、消滅しません。正しいものは一つもないので、正解は、肢4です。


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【宅建過去問】(令和06年問06)混同による物権の消滅” に対して2件のコメントがあります。

  1. 還暦の男 より:

    これは全く分からなかった。特に地上権に関しては苦手であまり理解もしていなかった。
    ただ、諦めるのは勿体ないので自分なりにいろんな角度から問題を検証した。
    まず気づいたのは、理由はどうあれ結果はみな同じ、地上権の消滅。
    次に考えたのは、地上権がついている土地の所有権を得たのなら、当然地上権が消滅するのでは
    ないかということ。
    この二つから結論を導き出すと、4つすべて正しいとなるが、意に反して選択肢に4つとも正しいは無い。ここで発想の転換をして、同じ結論でなおかつ答えが同じになるのは選択肢4の「なし」だけ。なので、実は地上権は消滅しないのが正解ではないかと考え、4を選んだ。
    結果的に正解を選んだことになる。もし選択肢に4つとも正しいがあれば確実に間違えていた。
    神に感謝。

    1. 家坂 圭一 より:

      素晴らしい推察ですね。

      解説講義の準備をしているのですが、基本からしっかり説明すると15分コースになりそうです。
      それでは、最後まで見てもらえなそう。

      何とか工夫して分かりやすい解説をします。
      ご期待ください。

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