【宅建過去問】(平成30年問08)賃貸借(判決文の読取り問題)

【注意】

令和2年施行の民法改正により、賃借人の原状回復義務や通常損耗補修特約について明文が設けられました(同法621条)。これにより、本問のベースとなった判例は、存在意義を失っています。しかし、「判決文の読取り」問題の対策として利用できるため、そのまま掲載を続けます。


解説動画を視聴する方法受講料
1eラーニング講座[Step.3]過去問演習編を受講する。980円/回
2YouTubeメンバーシップに登録する。1,790円/月~
次の1から4までの記述のうち、民法の規定及び下記判決文によれば、誤っているものはどれか。
(判決文)
賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、(中略)その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。

  1. 賃借物件を賃借人がどのように使用しても、賃借物件に発生する損耗による減価の回収は、賃貸人が全て賃料に含ませてその支払を受けることにより行っている。
  2. 通常損耗とは、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する。
  3. 賃借人が負担する通常損耗の範囲が賃貸借契約書に明記されておらず口頭での説明等もない場合に賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる。
  4. 賃貸借契約に賃借人が原状回復義務を負う旨が定められていても、それをもって、賃借人が賃料とは別に通常損耗の補修費を支払う義務があるとはいえない。

正解:1

判決文の確認

賃貸借契約における通常損耗補修特約に関する判例からの出題です(最判平17.12.16)。
判決文は、3つの文章から成り立っています。それぞれを要約すると、以下の通りです。

■参照項目&類似過去問(全選択肢合わせて)
内容を見る
賃貸借契約:原状回復義務(民法[26]7(3))
年-問-肢内容正誤
1R02-04-1賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、通常の使用及び収益によって生じた損耗も含めてその損傷を原状に復する義務を負う。×
2R02-04-2賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、賃借人の帰責事由の有無にかかわらず、その損傷を原状に復する義務を負う。×
3H30-08-1賃借物件を賃借人がどのように使用しても、賃借物件に発生する損耗による減価の回収は、賃貸人が全て賃料に含ませてその支払を受けることにより行っている。
×
4H30-08-2通常損耗とは、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する。
5H30-08-3賃借人が負担する通常損耗の範囲が賃貸借契約書に明記されておらず口頭での説明等もない場合に賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる。
6H30-08-4賃貸借契約に賃借人が原状回復義務を負う旨が定められていても、それをもって、賃借人が賃料とは別に通常損耗の補修費を支払う義務があるとはいえない。
7H29-04-4賃借人の原状回復義務の対象となる損傷からは、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化が除かれる。
8H20-10-1賃貸借が終了した場合、貸主が借主に対し、社会通念上通常の使用をした場合に生じる通常損耗について原状回復義務を負わせることは、補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、その旨の特約が明確に合意されたときでもすることができない。×

1 誤り

第2文に「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗」に関する費用が賃料の中に含まれるとしています。逆からいえば、賃借人が社会通念に従わない使用をした場合は例外です。本肢は、「賃借人がどのように使用しても」の部分が誤っています。

2 正しい

第2文に「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗」とあります。

3 正しい

第3文に「通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる」、「賃借人に同義務が認められるためには、…通常損耗補修特約…が明確に合意されていることが必要」とあります。

4 正しい

第1文に「賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務がある」とあり、賃借人の原状回復義務は、当然生じるものとされています。しかし、だからといって、無制限の原状回復義務を課すことはできません。賃料とは別に通常損耗の補修費を支払わせるためには、通常損耗補修特約が明確に合意されている必要があります(第3文)。


>>平成30年の問題一覧へ

【無料公開講座】スリー・ステップ学習法

宅建学習のプロセスを3段階に分け、着実なステップアップを目指す『スリー・ステップ学習法』。この講座の特長を実際に理解・体験していただくための「無料公開講座」です。
  • [Step.1]基本習得編で宅建合格に必要な基礎知識を学ぶ。
  • [Step.2]一問一答編で「一問一答式」の本試験過去問で基礎知識を確認し、○×を見分ける解法テクニックを身に付ける。
  • [Step.3]過去演習編で「四択問題」の解決法を学ぶ。

この3段階で、着実に合格レベルに進むことができます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です