【宅建過去問】(平成07年問06)抵当権

AがBに対する債務の担保のためにA所有建物に抵当権を設定し、登記をした場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

  1. Aが通常の利用方法を逸脱して、建物の毀損行為を行う場合、Aの債務の弁済期が到来していないときでも、Bは、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。
  2. 抵当権の登記に債務の利息に関する定めがあり、他に後順位抵当権者その他の利害関係者がいない場合でも、Bは、Aに対し、満期のきた最後の2年分を超える利息については抵当権を行うことはできない。
  3. 第三者の不法行為により建物が焼失したのでAがその損害賠償金を受領した場合、Bは、Aの受領した損害賠償金に対して物上代位をすることができる。
  4. 抵当権の消滅時効の期間は20年であるから、AのBに対する債務の弁済期から10年が経過し、その債務が消滅しても、AはBに対し抵当権の消滅を主張することができない。

正解:1

1 正しい

抵当権は、非占有型の担保物権である。そのため、抵当権者は、抵当権設定者の目的物利用について、原則として干渉することができない。しかし、抵当権も、目的物の交換価値から優先弁済を受けることを内容とする物権である。したがって、目的物の交換価値が侵害されるような場合には、物権的請求権を行使し、侵害を排除することができる。

以上より、本肢のように、抵当権設定者Aが、目的物(建物)の毀損行為を行うような場合には、抵当権者Bは、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使することができる。Aの債務が弁済期が到来している場合でも、それ以前でも、結論は異ならない。

■参照項目&類似過去問
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抵当権侵害に対する妨害排除(民法[12]3(5))

[共通の設定]
Aは、Bに対する貸付金債権の担保のために、Bの所有する甲土地又は甲建物に抵当権を設定し、登記をした。
年-問-肢内容正誤
1H25-05-3対象不動産について第三者が不法に占有している場合、抵当権は、抵当権設定者から抵当権者に対して占有を移転させるものではないので、事情にかかわらず抵当権者が当該占有者に対して妨害排除請求をすることはできない。×
2H22-07-4抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し当該不動産を適切に維持又は保存することを求める請求権を保全するため、その所有者の妨害排除請求権を代位行使して、当該不動産の不法占有者に対しその不動産を直接自己に明け渡すよう請求できる場合がある。
3H14-06-1Bが甲土地上に乙建物を築造した場合、Aは、Bに対し、乙建物の築造行為は、甲土地に対するAの抵当権を侵害する行為であるとして、乙建物の収去を求めることができる。×
4H07-06-1Bが通常の利用方法を逸脱して、甲建物の毀損行為を行う場合、Bの債務の弁済期が到来していないときでも、Aは、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。

2 誤り

抵当権者が、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる(民法375条1項本文)。
ただし、これは、後順位抵当権者など利害関係者を保護するためのルールである。したがって、利害関係者が存在しない本肢のケースでは、抵当権者Bは、最後の2年分を超えて抵当権を行使することができる。

■参照項目&類似過去問
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抵当権(被担保債権の範囲)(民法[12]4(3))
年-問-肢内容正誤
129-10-1
抵当権では、設定行為に別段の定めがない限り、被担保債権の利息は担保されない。×
215-06-4
普通抵当権でも、根抵当権でも、遅延損害金は最後の2年分の利息の範囲内。×
313-07-3
債務不履行による遅延損害金については、一定の場合を除き、利息その他の定期金と通算し、最大限、最後の2年分しか、本件登記にかかる抵当権の優先弁済権を主張することができない。
407-06-2
抵当権の登記に債務の利息に関する定めがあり、他に後順位抵当権者その他の利害関係者がいない場合でも、抵当権者は、抵当権設定者に対し、満期のきた最後の2年分を超える利息については抵当権を行うことはできない。×
502-10-3
抵当権者は、抵当権の実行により、元本と最後の2年分の利息について、他の債権者に優先して弁済を受けることができる。

3 誤り

抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる(民法372条・304条1項)。これを物上代位という。
抵当権の目的である建物が火災によって焼失したが、それにより抵当権設定者が火災保険金請求権を取得した場合に、保険金請求権に対する物上代位を認めるのが判例である(大判明40.03.12)。

しかし、物上代位をするためには、払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない(民法372条、304条1項)。すでに抵当権設定者であるAが損害賠償金を受領した本肢の場合では、抵当権者Bは、物上代位をすることができない。

■参照項目&類似過去問
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火災保険金に対する物上代位(民法[12]3(4)②)
年-問-肢内容正誤
128-04-2
[Aは、A所有の甲土地にBから借り入れた3,000万円の担保として抵当権を設定]甲土地上の建物が火災によって焼失してしまったが、当該建物に火災保険が付されていた場合、Bは、甲土地の抵当権に基づき、この火災保険契約に基づく損害保険金を請求することができる。
×
224-07-3火災保険に基づく損害保険金請求権は、物上代位の対象となる。
322-05-2火災保険に基づく損害保険金請求権は、物上代位の対象となる。
421-05-1火災保険に基づく損害保険金請求権は、抵当権・先取特権による物上代位の対象となる。
517-05-3火災保険に基づく損害保険金請求権は、物上代位の対象となる。
607-06-3第三者の不法行為により建物が焼失したので抵当権設定者がその損害賠償金を受領した場合、抵当権者は、損害賠償金に対して物上代位をすることができる。×

4 誤り

債務者・抵当権設定者との関係では、抵当権が被担保債権と独立して消滅時効にかかることはない(民法396条)。見方を変えれば、抵当権が時効により消滅するのは、被担保債権が時効消滅した場合に限られることになる。これを抵当権の消滅における付従性という。
本肢では、Bが債権者かつ抵当権者、Aが債務者かつ抵当権設定者、という関係であるから、このルールが適用される。つまり、被担保債権が時効で消滅すれば、その時点で抵当権も消滅する。そのため、Aは、Bに対して、抵当権の消滅を主張することができる。

※一般論としては、「抵当権の消滅時効の期間は20年」である(同法167条)。しかし、これが適用されるのは、「債務者・抵当権設定者『以外』」との関係に限られる。本肢のようなケースには、適用されないルールである。

■参照項目&類似過去問
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抵当権(消滅時効)(民法[12]11)
年-問-肢内容正誤
117-04-2被担保債権と無関係に、抵当権は設定から10年で時効消滅する。×
207-06-4抵当権の消滅時効期間は20年で、被担保債権が消滅しても抵当権は消滅しない。×

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【宅建過去問】(平成07年問06)抵当権” に対して4件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    抵当権の消滅時効が20年というところはあっているようです。

    1. 家坂 圭一 より:

      匿名様

      「『債務者・抵当権設定者』との関係では、『抵当権の消滅時効の期間は20年』というルールは、適用されない。」
      というつもりで解説を書いたのですが、分かりにくい表現でしたね。
      先ほど、この点について修正し、「債務者・抵当権設定者」のルールを本文に書き、それ以外の追加情報は注(※)にまとめる、という書き方に変更しました。

      ご指摘のお陰で、より充実した解説になったように思います。
      この度は、ありがとうございました。

  2. にしおか より:

    選択肢4ですが、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者に対しては、抵当権が独自に消滅時効(20年)で消滅するのでしょうか?

    1. 家坂 圭一 より:

      解説にも書きましたが、

      債務者・抵当権設定者との関係では、抵当権が被担保債権と独立して消滅時効にかかることはない(民法396条)。

      というのが民法の規定です。
      後順位抵当権者」も「抵当権者」の一種です。したがって、被担保債権と独立して消滅時効にかかることはありません。

      この規定は「第三取得者」には適用されないというのが判例の考え方です。
      したがって、第三取得者は、抵当権の消滅時効を援用することができます。

      一方、「第三取得者」は、被担保債権の消滅時効を援用することもできます。
      被担保債権を時効消滅させれば、付従性により抵当権も消滅します。

      時効の援用権者については、以下のところを確認してください。
      ■民法[06]時効
      4.時効の効力
      (1).時効の援用
      ④時効の援用権者(消滅時効)

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