【宅建過去問】(令和05年問04)相殺(組合せ問題)

AがBに対して貸金債権である甲債権を、BがAに対して貸金債権である乙債権をそれぞれ有している場合において、民法の規定及び判例によれば、次のアからエまでの記述のうち、Aが一方的な意思表示により甲債権と乙債権とを対当額にて相殺できないものを全て掲げたものは、次の1から4のうちどれか。なお、いずれの債権も相殺を禁止し又は制限する旨の意思表示はされていないものとする。

  • ア 弁済期の定めのない甲債権と、弁済期到来前に、AがBに対して期限の利益を放棄する旨の意思表示をした乙債権
  • イ 弁済期が到来している甲債権と、弁済期の定めのない乙債権
  • ウ 弁済期の定めのない甲債権と、弁済期が到来している乙債権
  • エ 弁済期が到来していない甲債権と、弁済期が到来している乙債権
  1. ア、イ、ウ
  2. イ、ウ
  3. ウ、エ

正解:4

設定の確認

AがBに対して貸金債権である甲債権を、BがAに対して貸金債権である乙債権をそれぞれ有している
Aが一方的な意思表示により甲債権と乙債権とを対当額にて相殺

民法の用語に従えば、相殺を主張するAが有する甲債権が自働債権、相殺される側のBが有する乙債権が受働債権と呼ぶことになります。
この自働債権、受働債権という言葉にこだわって、混乱している受験生が多数います。記述式で解答するわけではないのですから、この言葉をあえて使わなくても大丈夫です。それよりは、きちんと図に描いて、相殺を主張する人の債権と相殺される人の債権とを区別できるようにしておきましょう。

相殺の要件

イメージを分かりやすくするため、Aが「相殺する」と意思表示したのは、10月15日だったことにします。

【本来】双方の債務が弁済期にある場合

民法は、相殺ができるのは、「双方の債務が弁済期にあるとき」としています(同法505条1項本文)。
例えば、甲債権の弁済期が10月15日、乙債権の弁済期も10月15日であれば、Aが10月15日に「相殺します」と意思表示するだけで、甲債権と乙債権は相殺されることになります。

Bの債務のみが弁済期にある場合

「双方の債務が弁済期にあるとき」以外には、相殺ができないわけではありません。
Bの債務(言い換えればAの有する甲債権)の弁済期さえ到来していれば、Aの意思表示により、甲債権と乙債権を相殺することが可能です。
甲債権の弁済期が10月15日、乙債権の弁済期が10月20日だったとしましょう。
Bは、10月15日時点で、借入金を返済する義務を負っています。これを金銭で返済しようが、相殺で両債権を消滅させようが、Bにとっては同じことです。
一方、Aは、10月20日まで、借入金を返済する義務がありません。しかし、これを繰り上げて10月15日に弁済するのは、Aの勝手です。「10月20日まで弁済しなくていい。」というAの期限の利益を、A自身が放棄することは自由なのです。
したがって、このケースでも、Aが10月15日に「相殺します」と意思表示するだけで、甲債権と乙債権は相殺されることになります。

Aの債務のみが弁済期にある場合

Aの一方的な意思で相殺することができないのは、このパターンです。
甲債権の弁済期が10月20日、乙債権の弁済期が10月15日だったとしましょう。
Bは、10月20日まで、借入金を返済する義務がありません。期限の利益を持っているわけです。このBの期限の利益を、Aの一方的な意思で失わせることはできません。
したがって、このケースでは、Aが10月15日に「相殺します」と意思表示しても、甲債権と乙債権を相殺することは不可能です。

弁済期の定めのない債権

肢ア・イ・ウに「弁済期の定めのない債権」が出てきます。
弁済期の定めがない場合、債務者は、履行の請求を受けた時点で履行遅滞になります(民法412条3項)。これを相殺の観点からいえば、いつでも相殺が可能ということになります。
※借入金を実際に返済するという話であれば、債権者は「相当の期間を定めて返還の催告」をしなければなりません(民法591条1項)。しかし、相殺の場合、現実に金銭を返すわけではないので、「相当の期間」待つ必要はないわけです。そのため、いつでも相殺が可能です。

■類似過去問(全選択肢合わせて)
内容を見る
弁済期未到来の債権を受働債権とする相殺(民法[21]3(1))
[共通の設定]
AがBに対して貸金債権である甲債権を、BがAに対して貸金債権である乙債権をそれぞれ有している。
年-問-肢内容正誤
1R05-04-ア弁済期の定めのない甲債権と、弁済期到来前に、AがBに対して期限の利益を放棄する旨の意思表示をした乙債権とを、Aが一方的な意思表示により相殺することができる。
2R05-04-イ弁済期が到来している甲債権と、弁済期の定めのない乙債権とを、Aが一方的な意思表示により相殺することができる。
3R05-04-ウ弁済期の定めのない甲債権と、弁済期が到来している乙債権とを、Aが一方的な意思表示により相殺することができる。
4R05-04-エ弁済期が到来していない甲債権と、弁済期が到来している乙債権とを、Aが一方的な意思表示により相殺することができる。×
5H30-09-1[Aは、平成30年10月1日、A所有の甲土地につき、Bとの間で、代金1,000万円、支払期日を同年12月1日とする売買契約を締結した。]BがAに対して同年12月31日を支払期日とする貸金債権を有している場合には、Bは同年12月1日に売買代金債務と当該貸金債権を対当額で相殺することができる。
×
6H16-08-1賃貸人が支払不能に陥った場合、賃借人は、自らの敷金返還請求権を自働債権として、賃料債権と相殺することができる。×
7H07-08-2Aの債権について弁済期の定めがなく、Aから履行の請求がないときは、Bは、Bの債権の弁済期が到来しても、相殺をすることができない。×

ア 相殺できる

甲債権には弁済期の定めがありません。したがって、Aは、いつでも相殺を主張することが可能です(この時点で「相殺できる」ことは確定しました)。
乙債権について、Aは、「期限の利益を放棄する旨の意思表示」をしています。しかし、あえてこのような意思表示をしなくても、期限の利益を放棄し、10月15日に債務を弁済することができます。
以上より、Aが10月15日に「相殺します」と意思表示するだけで、甲債権と乙債権は相殺されることになります。

イ 相殺できる

甲債権の弁済期は到来しています(図は弁済期が10月10日という例です)。したがって、Aは、いつでも相殺を主張することが可能です(この時点で「相殺できる」ことは確定しました)。
乙債権については、弁済期の定めがありません。そのため、Aは、いつでも弁済することができます。
以上より、Aが10月15日に「相殺します」と意思表示するだけで、甲債権と乙債権は相殺されることになります。

ウ 相殺できる

甲債権には弁済期の定めがありません。したがって、Aは、いつでも相殺を主張することが可能です(この時点で「相殺できる」ことは確定しました)。
乙債権の弁済期は、すでに到来しています(図は弁済期が10月10日という例です)。
以上より、Aが10月15日に「相殺します」と意思表示するだけで、甲債権と乙債権は相殺されることになります。

エ 相殺できないもの

甲債権の弁済期は到来していません。この弁済期が10月20日だったとしましょう。10月15日時点で、Aによる相殺を認めると、Bは、本来10月20日まで返済する必要がなかった借金を、強制的に10月15日に繰上げ返済させられることになります。Bの期限の利益を一方的に放棄させるような相殺は、認められません。
したがって、Aが10月15日に「相殺します」と意思表示しても、甲債権と乙債権は相殺されません。

まとめ

Aの一方的な意思表示によって相殺できないものは、エだけです。正解は、肢4。


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