【宅建過去問】令和2年10月問42肢1の検討
【結果発表を受けて追記】(2020/12/02)
令和2年12月2日、合格発表と同時に「公式の正解」も発表されました。
本問については「1又は4」が正解ということで、公式の結論が出たわけです。
「複数解となる問題がありましたことをお詫び申し上げますとともに、今後とも再発防止に努めてまいります。」という珍しいメッセージが付いていました。
■不動産適正取引推進機構さんのWebサイト
宅建本試験の問42について、「正解肢が2つあるのではないか。」という疑問が出ています。
当社では、当初、「正解(誤っている選択肢)は、肢4」と発表していました。
しかし、解説講義の準備をしていると、「肢1の解説が喋れない!」とドハマリ。じっくりと考えたところ、「肢1も誤りで複数正解」と考えるに至りました。
解説文の執筆や解説講義のほうが優先するので、まずは、考えかたの筋道のみをまとめておきます。
みなさんにも議論していただき、最終的な結論を出したいと思っています(他人任せの姿勢)。
0.はじめに
問42について、冒頭の設定文と肢1・4のみ抜き出します(全文は、こちら)。
宅地建物取引業者Aが、自ら売主として締結する売買契約に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法(以下この問において「法」という。)及び民法の規定によれば、誤っているものはどれか。
1.Aが宅地建物取引業者ではないBとの間で締結する宅地の売買契約において、当該宅地の種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任を負う期間をBがその不適合を知った時から2年とする特約を定めた場合、この特約は有効である。
4.Aが宅地建物取引業者ではないEとの間で締結する建物の売買契約において、Aは当該建物の種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任を一切負わないとする特約を定めた場合、この特約は無効となり、Aが当該責任を負う期間は当該建物の引渡日から2年となる。
肢4が過去にも頻出のヒッカケで、もちろん露骨な誤りです。
それから考えると、肢1は「正しい」という設計だったと思われます。
しかし、この選択肢は「誤り」としか思えないのです。
民法、そして宅建業法の改正について、その取扱いを誤っているのではないでしょうか?
1.改正前の民法・宅建業法
(1)民法
瑕疵担保責任(当時)の行使について、改正前の民法は、除斥期間(権利の存続期間)を定めていました。
また、消滅時効の規定は、瑕疵担保責任にも適用されると考えられていました。
除斥期間 | 買主が事実を知った時から1年間 | 旧民法570条・566条3項 |
消滅時効期間 | 引渡しから10年間 | 旧民法167条1項 |
(2)宅建業法
改正前の宅建業法40条は、民法と異なる特約について、「同法第566条第3項に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き」と定めていました。
これを考え合わせると、瑕疵担保責任の行使期間については、以下のようなルールだったことになります。
当事者の特約で変更することができるのは、あくまで「除斥期間」についてです。
除斥期間 | 引渡しから2年以上 | 旧宅建業法40条 |
消滅時効期間 | 引渡しから10年間 | 旧法167条1項 |
2改正後の民法・宅建業法
(1)民法
民法の改正により、契約不適合担保責任に関し、「除斥期間」という考えかたは廃止されました。「事実を知った時から1年間」という期間は、「不適合について買主が売主に通知すべき期間」に変更されたのです(「通知期間」と呼ぶことにします)。
この期間に「通知」さえしておけば、後は消滅時効期間が来るまでの間に権利を行使すればいいわけです。これにより、買主が売主の担保責任を追及できる期間は拡張されたことになります。
また、消滅時効期間についても改正があり、主観的消滅時効期間(5年間)と客観的消滅時効期間(10年間)のうち、いずれか早い方が来た時に権利が消滅することになりました。
通知期間 | 買主が事実を知った時から1年間 | 新法566条本文 |
主観的消滅時効期間 | 不適合を知った時から5年間 | 新法166条1項1号 |
客観的消滅時効期間 | 引渡しから10年間 | 新法166条1項2号 |
当社の教材では、以下の図でまとめています。
【講義編】民法[24]売買契約3(5)より
(2)宅建業法
民法の改正に付き合って、宅建業法も改正されています。
通知期間について「引渡しの日から2年以上となる特約」は、有効性を認められたのです。
表にまとめると、以下の通りです。ここでも、特約で変更することができるのは、「通知期間」に限られます。
通知期間 | 引渡しから2年以上 | 新宅建業法40条1項 |
主観的消滅時効期間 | 不適合を知った時から5年間 | 新法166条1項1号 |
客観的消滅時効期間 | 引渡しから10年間 | 新法166条1項2号 |
3.今回の出題(令和2年問42肢1)
(宅地建物取引業者)Aが宅地建物取引業者ではないBとの間で締結する宅地の売買契約において、当該宅地の種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任を負う期間をBがその不適合を知った時から2年とする特約を定めた場合、この特約は有効である。
下線部部分は、「主観的消滅時効期間」を「不適合を知った時から2年間」に限定しています。
これは、「同条(新民法566条)に規定するものより買主に不利な特約」ですから、無効です(新宅建業法40条2項)。
また、時効の利益をあらかじめ放棄させるものであり、民法146条(改正なし)にも反します。
以上の理由により、本肢は「誤り」。
本問は、肢1と肢4がいずれも「誤り」で「いずれも正解」と考えています。
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