【宅建過去問】(令和03年10月問08)土地工作物責任

Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした場合(以下この問において「本件事故」という。)における次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

  1. Aが甲建物をCから賃借している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Bに対して不法行為責任を負わない。
  2. Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Bに対して不法行為責任を負う。
  3. 本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないときでも、本件事故の時から20年間行使しないときには時効により消滅する。
  4. 本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときには時効により消滅する。

正解:1

設定の確認

「甲建物の保存に瑕疵があったため、…甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした」という記述から、土地工作物の設置又は保存に瑕疵があり、他人に損害を与えた場合の話、つまり、土地工作物責任に関する問題であることが分かります。

だとすると、「Aが1人で居住する甲建物」という表現が曖昧です。Aが甲建物の所有者なのか、占有者(賃借人など)なのか、によって結論が違うからです。「選択肢によって、所有者だったり、占有者だったり、両方出てくるんだろうな…」と予想しつつ、選択肢を検討していきます。

1 誤り

「Aが甲建物をCから賃借している場合」というのですから、本肢のAは甲建物の占有者であり、その所有者はCであることが分かります。

土地工作物の占有者は、この不法行為について、第一次的な責任を負います。ただし、占有者は、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときには責任を免れることができます(民法717条1項)。
しかし、本肢のAは、「損害の発生の防止に必要な注意をしなかった」というのですから、免責を受けることができません。Aは、Bに対して不法行為責任を負います。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
土地工作物責任(民法[30]3)

[共通の設定]
Aは、所有する家屋をBに賃貸し、Bが占有使用しているときに、瑕疵により当該家屋の塀が崩れ、脇に駐車中のC所有の車を破損させた。
年-問-肢内容正誤
占有者
1R03-08-1Bは、甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Cに対して不法行為責任を負わない。×
2H17-11-3Bは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。
3H13-10-3Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。
4H13-10-4塀の崩壊につき、塀の施工業者にも一部責任がある場合には、Bは、その施工業者に対して求償権を行使することができる。
5H08-06-4Bは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の占有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。×
所有者
1R03-08-2Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Cに対して不法行為責任を負う。
2H17-11-1Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。×
3H13-10-3Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。
4H08-06-3Aは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の所有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。

2 正しい

「Aが甲建物を所有している」というのですから、本肢のAは甲建物の所有者であることが分かります。

工作物の所有者の責任は、無過失責任です(肢1の表参照。民法717条1項ただし書き)。占有者と違って、所有者は、「損害の発生の防止に必要な注意をした」としても免責を受けることはできません。
※Aは、甲建物の占有者という立場でもあります。しかし、所有者である以上、占有者としての責任を検討する必要はありません。占有者として免責を受けたとしても、所有者として無過失責任を負うことになるからです。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
土地工作物責任(民法[30]3)

[共通の設定]
Aは、所有する家屋をBに賃貸し、Bが占有使用しているときに、瑕疵により当該家屋の塀が崩れ、脇に駐車中のC所有の車を破損させた。
年-問-肢内容正誤
占有者
1R03-08-1Bは、甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Cに対して不法行為責任を負わない。×
2H17-11-3Bは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。
3H13-10-3Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。
4H13-10-4塀の崩壊につき、塀の施工業者にも一部責任がある場合には、Bは、その施工業者に対して求償権を行使することができる。
5H08-06-4Bは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の占有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。×
所有者
1R03-08-2Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Cに対して不法行為責任を負う。
2H17-11-1Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Cに対する損害賠償責任を免れることができる。×
3H13-10-3Cの相続人は、Bに対しては損害賠償請求ができるが、Aに対しては、損害賠償請求ができない。
4H08-06-3Aは、損害の発生を防止するため必要な注意をしていたときでも、瑕疵ある土地の工作物の所有者として、Cに対して不法行為責任を負うことがある。

3 正しい

不法行為による損害賠償の請求権が消滅するのは、以下の期間が経過した時です(民法724条、724条の2)。
本肢のように「B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないとき」であっても、2の消滅時効は進行します。損害賠償請求権は、事故発生時から20年間行使しなければ、時効により消滅します。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[30]5(2))
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[06]3(2))
年-問-肢内容正誤
1R03-08-3Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないときでも、本件事故の時から20年間行使しないときには時効により消滅する。
2R03-08-4Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときには時効により消滅する。
3R02s-01-4
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。
4H28-09-1
信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権(人の生命又は身体の侵害によるものではない。)は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。
5H28-09-2
信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。×
6H26-06-3Aは、Bに建物の建築を注文し、完成して引渡しを受けた建物をCに対して売却した。本件建物の主要な構造部分に欠陥があった。CがBに対して本件建物の瑕疵に関して不法行為責任に基づく損害賠償を請求する場合、当該請求ができる期間は、Cが瑕疵の存在に気付いてから1年以内である。×
7H26-08-1不法行為による損害賠償請求権の期間の制限を定める民法第724条における、被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。
8H26-08-2不法行為による損害賠償債務の不履行に基づく遅延損害金債権は、当該債権が発生した時から10年間行使しないことにより、時効によって消滅する。×
9H26-08-3不法占拠により日々発生する損害については、加害行為が終わった時から一括して消滅時効が進行し、日々発生する損害を知った時から別個に消滅時効が進行することはない。×
10H26-08-4不法行為の加害者が海外に在住している間は、民法第724条後段の20年の時効期間は進行しない。×
11H19-05-4不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。×
12H17-11-4交通事故の被害者が、車の破損による損害賠償請求権を、損害及び加害者を知った時から3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。
13H12-08-3不法行為の被害者が、不法行為による損害と加害者を知った時から1年間、損害賠償請求権を行使しなければ、当該請求権は消滅時効により消滅する。×

4 正しい

(肢3の表参照。)
本問では、「通行人Bがケガをした」というのですから、「人の生命又は身体を害する不法行為」があったわけです。
この場合、損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しなければ、時効により消滅します(民法724条、724条の2)。

■参照項目&類似過去問
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不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[30]5(2))
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法[06]3(2))
年-問-肢内容正誤
1R03-08-3Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないときでも、本件事故の時から20年間行使しないときには時効により消滅する。
2R03-08-4Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときには時効により消滅する。
3R02s-01-4
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。
4H28-09-1
信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権(人の生命又は身体の侵害によるものではない。)は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。
5H28-09-2
信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。×
6H26-06-3Aは、Bに建物の建築を注文し、完成して引渡しを受けた建物をCに対して売却した。本件建物の主要な構造部分に欠陥があった。CがBに対して本件建物の瑕疵に関して不法行為責任に基づく損害賠償を請求する場合、当該請求ができる期間は、Cが瑕疵の存在に気付いてから1年以内である。×
7H26-08-1不法行為による損害賠償請求権の期間の制限を定める民法第724条における、被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。
8H26-08-2不法行為による損害賠償債務の不履行に基づく遅延損害金債権は、当該債権が発生した時から10年間行使しないことにより、時効によって消滅する。×
9H26-08-3不法占拠により日々発生する損害については、加害行為が終わった時から一括して消滅時効が進行し、日々発生する損害を知った時から別個に消滅時効が進行することはない。×
10H26-08-4不法行為の加害者が海外に在住している間は、民法第724条後段の20年の時効期間は進行しない。×
11H19-05-4不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。×
12H17-11-4交通事故の被害者が、車の破損による損害賠償請求権を、損害及び加害者を知った時から3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。
13H12-08-3不法行為の被害者が、不法行為による損害と加害者を知った時から1年間、損害賠償請求権を行使しなければ、当該請求権は消滅時効により消滅する。×

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