【宅建過去問】(平成21年問08)解除
売主Aは、買主Bとの間で甲土地の売買契約を締結し、代金の3分の2の支払と引換えに所有権移転登記手続と引渡しを行った。その後、Bが残代金を支払わないので、Aは適法に甲土地の売買契約を解除した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- Aの解除前に、BがCに甲土地を売却し、BからCに対する所有権移転登記がなされているときは、BのAに対する代金債務につき不履行があることをCが知っていた場合においても、Aは解除に基づく甲土地の所有権をCに対して主張できない。
- Bは、甲土地を現状有姿の状態でAに返還し、かつ、移転登記を抹消すれば、引渡しを受けていた間に甲土地を貸駐車場として収益を上げていたときでも、Aに対してその利益を償還すべき義務はない。
- Bは、自らの債務不履行で解除されたので、Bの原状回復義務を先に履行しなければならず、Aの受領済み代金返還義務との同時履行の抗弁権を主張することはできない。
- Aは、Bが契約解除後遅滞なく原状回復義務を履行すれば、契約締結後原状回復義務履行時までの間に甲土地の価格が下落して損害を被った場合でも、Bに対して損害賠償を請求することはできない。
正解:1
はじめに
本問では、買主が代金の3分の2を支払うのと引換えに、売主が所有権移転登記と土地の引渡しを行っています(上図)。しかし、その後、Bが残額を支払いません。これは、債務不履行に該当します。そのため、Aは、売買契約を解除しました(民法541条)。
契約の解除があった場合、当事者は原状回復義務を負います。つまり、売主が受け取った代金、買主が受けた移転登記、買主に引き渡された土地をお互いに返還しなければならないわけです(下図)。そして、両者の原状回復義務は、同時履行の関係に立ちます(同法546条、533条)。
1 正しい
解除に伴う原状回復の際に、第三者(C)の権利を害することはできません(民法545条1項ただし書き)。
本肢のCは、AB間の契約について解除原因(Bの債務不履行)があることを知っています。つまり、Cは、解除原因について悪意です。しかし、善意悪意を問わず、第三者の権利を害することは許されないのです。ただし、第三者は、対抗要件を備えておく必要があります(最判昭33.06.14)。
本肢では、すでにCが所有権を登記しています。したがって、Aは、解除に当たって、Cの権利を害することができません。具体的にいうと、Aは、解除に基づく甲土地の所有権をCに対して主張することができないわけです。
■参照項目&類似過去問
内容を見る解除:解除前の第三者(民法[23]4(3)②)
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 21-08-1 | 解除前の第三者が登記を備えている場合、その第三者が悪意であっても、売主は所有権を主張できない。 | ◯ |
2 | 16-09-1 | 建物の買主がその債権者と抵当権設定契約を締結し登記をした後で、売主が売買契約を解除しても、売主は抵当権の消滅を主張できない。 | ◯ |
3 | 16-09-2 | 建物の買主がその建物を賃貸し引渡しを終えた後で、売主が売買契約を解除した場合、売主は賃借権の消滅を主張できる。 | × |
4 | 16-09-3 | 建物の買主がその債権者と抵当権設定契約を締結したが、登記をする前に、売主が売買契約を解除した場合、抵当権設定契約は無効となる。 | × |
5 | 14-08-4 | 買主が土地を転売した後、売買契約を解除しても、未登記の第三者の土地を取得する権利を害することはできない。 | × |
6 | 13-05-2 | 買主が土地を転売した後、売買契約を解除した場合、登記を受けた第三者は、所有権を売主に対抗できる。 | ◯ |
7 | 08-05-3 | 解除前の第三者が登記を備えていても、その第三者が解除原因につき悪意であった場合には、売主に対し所有権を対抗できない。 | × |
8 | 03-04-2 | 解除前の第三者が登記を備えていても、売主は第三者に対し所有権を対抗できる。 | × |
9 | 01-03-3 | 売主が買主の債務不履行を理由に売買契約を解除した場合、売主は、その解除を、解除前に転売を受け、解除原因について悪意ではあるが、所有権の移転登記を備えている第三者に対抗することができる。 | × |
2 誤り
原状回復の際、目的物を使用収益して得た利益が存在する場合、買主は、それを売主に償還すべき義務を負います(最判昭51.02.13)。
本問でいえば、Bは、甲土地を貸駐車場とすることによって上げた収益を、Aに償還する必要があります。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R03s-09-1 | AがBに対してA所有の甲建物を①売却又は②賃貸した。①と②の契約が解除された場合、①ではBは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要があるのに対し、②では将来に向かって解除の効力が生じるのでAは解除までの期間の賃料をBに返還する必要はない。 | ◯ |
2 | 21-08-2 | 売主Aは、買主Bとの間で甲土地の売買契約を締結し、代金の3分の2の支払と引換えに所有権移転登記手続と引渡しを行った。その後、Bが残代金を支払わないので、Aは適法に甲土地の売買契約を解除した。Bは、甲土地を現状有姿の状態でAに返還し、かつ、移転登記を抹消すれば、引渡しを受けていた間に甲土地を貸駐車場として収益を上げていたときでも、Aに対してその利益を償還すべき義務はない。 | × |
3 | 10-08-2 | Aが、Bに建物を3,000万円で売却した。Bが建物の引渡しを受けて入居したが、2ヵ月経過後契約が解除された場合、Bは、Aに建物の返還とともに、2ヵ月分の使用料相当額を支払う必要がある。 | ◯ |
3 誤り
売買契約が債務不履行を理由に解除された場合、売主の代金返還義務と買主の目的物返還債務という両者の原状回復義務は同時履行の関係に立ちます(民法546条、533条)。
したがって、Bは、自らの原状回復義務とAの代金返還義務との同時履行を主張することができます。
■参照項目&類似過去問
内容を見る解除の効果:同時履行の抗弁権(民法[23]4(1)②)
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 27-08-イ | マンションの売買契約がマンション引渡し後に債務不履行を理由に解除された場合、契約は遡及的に消滅するため、売主の代金返還債務と、買主の目的物返還債務は、同時履行の関係に立たない 。 | × |
2 | 21-08-3 | 債務不履行による解除の場合、債務不履行をした側の原状回復義務が先履行となり、同時履行の抗弁権を主張できない。 | × |
3 | 11-08-2 | 解除の際、一方当事者が原状回復義務の履行を提供しないとき、相手方は原状回復義務の履行を拒むことができる。 | ◯ |
4 誤り
解除権を行使したからといって、損害賠償請求ができなくなるわけではありません(民法545条4項)。
本問でいえば、AはBに対して損害賠償を請求することができます。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 21-08-4 | 解除後、原状回復義務履行時までに目的物の価格が下落し損害を受けた場合、損害賠償請求はできない。 | × |
2 | 17-09-2 | 解除に加え、損害賠償請求はできない。 | × |
3 | 14-08-2 | 解除に加え、損害賠償請求ができる。 | ◯ |
4 | 08-09-4 | 解除に加え、損害賠償請求ができる。 | ◯ |
5 | 05-07-1 | 解除に加え、損害賠償請求ができる。 | ◯ |
家坂先生、こんにちは。選択肢1の設定を変更して、登記がBに残ったままであった場合、AとCのどちらが勝つのでしょうか。
民法545条1項但書を文字通り適用されるのであればCが勝つのでしょうが、そうではない、登記が必要というのが判例ですよね。
そうだとすれば、登記がBに残ったままであっても、Aは解除に基づく甲土地の所有権をCに対して主張できるのでしょうか。
「■類似過去問」に掲載している平成14年問08肢4で出題されたパターンです。
https://e-takken.tv/14-08/
こちらの解説をご覧いただけますでしょうか。
よろしくお願いします。
家坂先生、ご回答ありがとうございます。
平成14年問08も勉強したつもりでしたが、もう一度、Aに登記がある場合、Bに登記がある場合、Cに登記がある場合の3つに場合分けして、図を書いて考えてみます。
試験も近いですし、考えるよりも判例を覚えた方がいいのかも知れませんね。