【宅建過去問】(令和03年10月問02)連帯債務

債務者A、B、Cの3名が、内部的な負担部分の割合は等しいものとして合意した上で、債権者Dに対して300万円の連帯債務を負った場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

  1. DがAに対して裁判上の請求を行ったとしても、特段の合意がなければ、BとCがDに対して負う債務の消滅時効の完成には影響しない。
  2. BがDに対して300万円の債権を有している場合、Bが相殺を援用しない間に300万円の支払の請求を受けたCは、BのDに対する債権で相殺する旨の意思表示をすることができる。
  3. DがCに対して債務を免除した場合でも、特段の合意がなければ、DはAに対してもBに対しても、弁済期が到来した300万円全額の支払を請求することができる。
  4. AとDとの間に更改があったときは、300万円の債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。

正解:2

設定の確認

連帯債務者の一人に生じた事由

令和2年施行の改正民法で大きく変わったところです。分かりやすい方向に整理されたのですが、改正前の民法を知っている人は、残像に迷うことがあるかも知れません。最初にアウトラインを確認しておきましょう。

絶対効・相対効

原則は、相対効です。つまり、連帯債務者の一人に何らかの事情が生じたとしても、他の連帯債務者には影響しません。
例外的に、絶対効、つまり、連帯債務者の一人に生じた事情が他の連帯債務者に影響を与える場合があります。

絶対効と相対効の2種類しかないのに、一つ一つの事由について「これは絶対効。あれは相対効…」と覚えようとする人がいます。しかし、それはムダ!わずかに存在する例外=絶対効だけ覚えれば、「これ以外は相対効」と処理できるからです。

絶対効が生じる場合

以下の4パターンしかありません。しかも④については、肢1・3のように「特段の合意がなければ」で済まされるケースが多いと思います。①②③をしっかり覚えれば、それで対処可能です。

  • ①弁済(代物弁済・供託・相殺) 債務が消滅するケース
  • ②更改 債務の要素を変更する契約をすること
  • ③混同 債権者=債務者となること
  • ④当事者の合意がある場合 当事者間で絶対効と定めることも可能。

1 正しい

裁判上の請求」などの「履行の請求」は、絶対効のリストに載っていません。ということは、相対効しか生じないことになります(民法441条本文)。
したがって、連帯債務者の一人であるAに対して裁判上の請求をしても、他の連帯債務者(BとC)にはその効力が及びません。
Aに裁判上の請求をしたことにより、Aの債務の消滅時効は完成が猶予されます(同法147条1項1号)。しかし、BやCの債務の消滅時効には影響がなく、時効はそのまま完成に向かって進行します。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
連帯債務者の一人に生じた事由(履行の請求)(民法[17]4(4)③)

[共通の設定]
AからBとCとが負担部分2分の1として連帯して1,000万円を借り入れた。
年-問-肢内容正誤
1R03-02-1AがBに対して裁判上の請求を行ったとしても、特段の合意がなければ、CがAに対して負う債務の消滅時効の完成には影響しない。
2H29-08-1AがBに対して履行の請求をした場合、Cがそのことを知っていれば、Cについても、その効力が生じる。
×
3H20-06-2Aが、Bに対して履行を請求した効果はCに及ばす、Cに対して履行を請求した効果はBに及ばない。
4H08-04-2Aが、Bに対し代金の支払いを請求した場合、その効力はCには及ばない。
5H03-06-3AがBに対して貸金の返済を請求して、Aの貸金債権の消滅時効の完成が猶予されたときでも、Cの債務については、猶予されない。
6H02-07-4BとCが連帯債務を負う場合、AのBに対する履行の請求は、Cに対しては効力を生じない。
7H01-10-1AがBに対して代金支払いの請求をすると、Aの代金債権の消滅時効は、Cについても完成が猶予される。
×
時効の完成猶予・更新:裁判上の請求(民法[06]5(2)③・(3)①)
年-問-肢内容正誤
1R03-02-1債務者A、B、Cの3名が、内部的な負担部分の割合は等しいものとして合意した上で、債権者Dに対して300万円の連帯債務を負った。DがAに対して裁判上の請求を行ったとしても、特段の合意がなければ、BとCがDに対して負う債務の消滅時効の完成には影響しない。
2R02s-05-2訴えの提起後に当該訴えが取り下げられた場合には、特段の事情がない限り、時効の更新の効力は生じない。×
3R01-09-1訴えの提起後に当該訴えが取り下げられた場合には、特段の事情がない限り、時効の更新の効力は生じない。
4R01-09-2訴えの提起後に当該訴えの却下の判決が確定した場合には、時効の更新の効力は生じない。
5R01-09-3訴えの提起後に請求棄却の判決が確定した場合には、時効の更新の効力は生じない。
6R01-09-4訴えの提起後に裁判上の和解が成立した場合には、時効の更新の効力は生じない。×
709-04-4AがBの不動産に抵当権を有している場合に、Cがこの不動産に対して強制執行の手続を行ったときは、Aがその手続に債権の届出をしただけで、Aの債権の時効は更新される×
807-03-2
債権者が債務者に対して訴訟により弁済を求めても、その訴えが却下された場合は、時効更新の効力は生じない。
901-02-3
金銭債権の債権者Aが訴えを取り下げた場合、Aの金銭債権は、Aがその取下げをした日から10年間権利を行使しないとき、消滅する。×

2 誤り

連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合、その連帯債務者が相殺を援用すれば、すべての連帯債務者の債務が消滅することになります(民法439条1項)。弁済したのと同じことなのですから、絶対効を生じるのも当然のことです。
では、その連帯債務者が相殺を援用しない場合はどうなるか、というのが本肢のテーマです。

BはDに対して300万円の債権を有しています。しかし、Bは、相殺を援用しません。この場合、Cは、Bの負担部分の範囲で履行を拒絶することができます(同条2項)。本問では、Bの負担部分は、100万円です。したがって、Cは、Dから「300万円支払え。」と請求を受けたとしても、Bの負担部分については履行を拒絶することができます。つまり、200万円を支払えばよいということです。
本肢は、「Cは、BのDに対する債権で相殺する旨の意思表示をすることができる。」としています。しかし、Cにそのような権限はありません。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
連帯債務者の一人に生じた事由(相殺)(民法[17]4(3))

[共通の設定]
AからBとCとが負担部分2分の1として連帯して1,000万円を借り入れた。
年-問-肢内容正誤
1R03-02-2BがAに対して1,000万円の債権を有している場合、Bが相殺を援用しない間に1,000万円の支払の請求を受けたCは、BのAに対する債権で相殺する旨の意思表示をすることができる。×
2H29-08-2Bが、Aに対する債務と、Aに対して有する200万円の債権を対当額で相殺する旨の意思表示をAにした場合、CのAに対する連帯債務も200万円が消滅する。
3H13-04-4Aから請求を受けたBは、Cが、Aに対して有する債権をもって相殺しない以上、Cの負担部分についても、Bが債務の履行を拒むことはできない。
×

3 正しい

債務の免除」は、絶対効のリストに載っていません。ということは、相対効しか生じないことになります(民法441条)。
したがって、連帯債務者の一人であるCに対して債務を免除しても、他の連帯債務者(AとB)にはその効力が及びません。
Cの債務を免除したことにより、CのDに対する債務は消滅します。しかし、AとBの債務には、全く変化がありません。Dは、AやBに対して、300万円全額の支払を請求することができます。

※A又はBがDに弁済した場合、Cに対して求償権を行使することができます(民法445条)。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
連帯債務者の一人に生じた事由(免除)(民法[17]4(4)①)

[共通の設定]
AからBとCとが負担部分2分の1として連帯して1,000万円を借り入れた。

年-問-肢内容正誤
1R03-02-3AがCに対して債務を免除した場合でも、特段の合意がなければ、AはBに対して、弁済期が到来した1,000万円全額の支払を請求することができる。
2H20-06-1Aが、Bに対して債務を免除した場合にはCが、Cに対して債務を免除した場合にはBが、それぞれ500万円分の債務を免れる。
×
3H16-06-2AがBに対して債務の全額を免除しても、CはAに対してなお1,000万円の債務を負担している。
4H08-04-3Aが、Bに対して代金債務の全額の免除をした場合でも、Cに対して代金全額の支払いを請求することができる。

4 正しい

更改とは、債務の要素を変更する契約をすることをいいます(民法513条)。
例えば、AがDとの間で、「300万円の金銭を支払う代わりに、Aの所有する甲土地をDに引き渡す。」という契約をしたとしましょう。これは、契約内容の重要な変更であり、「更改」にあたります。
この場合、BやCがこの債務(甲土地を引き渡す)を履行するのは不可能です。連帯債務の関係を解消するしかありません。つまり、Aだけでなく、BやCも、「Dに300万円の金銭を支払う」という債務を負わないことになります。債権者であるDサイドから表現すると、「300万円の債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅」します(民法438条)。これが絶対効という意味です。

※AがDに甲土地を引渡したときは、BとCに対してその負担部分に応じた額を求償することができます(民法442条1項)。

■参照項目&類似過去問
内容を見る
連帯債務者の一人に生じた事由(更改)(民法[17]4(2)②)

[共通の設定]
AからBとCとが負担部分2分の1として連帯して1,000万円を借り入れた。
年-問-肢内容正誤
1R03-02-4BとAとの間に更改があったときは、1,000万円の債権は、Cのために消滅する。

>>令和03年(10月)の問題一覧へ

【無料公開講座】スリー・ステップ学習法

宅建学習のプロセスを3段階に分け、着実なステップアップを目指す『スリー・ステップ学習法』。この講座の特長を実際に理解・体験していただくための「無料公開講座」です。
  • [Step.1]基本習得編で宅建合格に必要な基礎知識を学ぶ。
  • [Step.2]一問一答編で「一問一答式」の本試験過去問で基礎知識を確認し、○×を見分ける解法テクニックを身に付ける。
  • [Step.3]過去演習編で「四択問題」の解決法を学ぶ。

この3段階で、着実に合格レベルに進むことができます。

【宅建過去問】(令和03年10月問02)連帯債務” に対して3件のコメントがあります。

  1. KT より:

    問4
    例えばマイナスの方向に更改した場合、消滅するという結論は誤りに思えます。
    作成ミス、誤った選択肢ではないでしょうか?

    1. KT より:

      問4 →選択肢4
      訂正します。

      1. 家坂 圭一 より:

        KT様

        ご質問ありがとうございます。

        KTさんのいう「マイナスの方向に更改」という意味がよく分かりません。

        解説にも書きましたが、そもそも「更改」とは、「債務の要素を変更する契約をすること」という意味です。

        つまり、AとDとは、互いに合意した上で、債務の要素を変更しています。
        一方にとってマイナスであれば、「更改」という「契約」をしないはずです。
        逆にいえば、AとDとが「契約」している以上、その後になって、どちらかにとってプラスだ、マイナスだ、ということは、許されません。

        もちろん、詐欺・強迫があったり、公序良俗に反するような内容であったり、という例外的なケースであれば、その点について考慮する必要があります。
        しかし、肢4では、そのような異常な状況について、何ら触れられていません。原則通りに考えれば十分です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です