【宅建過去問】(平成19年問03)物権の移転と対抗問題
Aが所有者として登記されている甲土地の売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- Aと売買契約を締結したBが、平穏かつ公然と甲土地の占有を始め、善意無過失であれば、甲土地がAの土地ではなく第三者の土地であったとしても、Bは即時に所有権を取得することができる。
- Aと売買契約を締結したCが、登記を信頼して売買契約を行った場合、甲土地がAの土地ではなく第三者Dの土地であったとしても、Dの過失の有無にかかわらず、Cは所有権を取得することができる。
- Aと売買契約を締結して所有権を取得したEは、所有権の移転登記を備えていない場合であっても、正当な権原なく甲土地を占有しているFに対し、所有権を主張して甲土地の明渡しを請求することができる。
- Aを所有者とする甲土地につき、AがGとの間で10月1日に、Hとの間で10月10日に、それぞれ売買契約を締結した場合、G、H共に登記を備えていないときには、先に売買契約を締結したGがHに対して所有権を主張することができる。
正解:3
1 誤り
本肢の主旨は、「土地を即時取得できる」というところにある。しかし、即時取得の対象となるのは動産に限られる(民法192条)。不動産を即時取得することはできない。
※即時取得とは、「第三者の所有する動産であっても、それが売主の物であると信じて購入した買主は、一定の要件のもと所有権を取得する」という制度である(民法192条)。例えば、P所有のDVDソフトを借りて占有していたAが、それをBに転売したとしよう。この場合、Bが平穏・公然と動産の占有を始め、かつ、Aが無権利者であることに善意無過失であったとすれば、Bは、DVDソフトの所有権を即時に取得することになる。
※「平穏かつ公然と甲土地の占有を始め、善意無過失」であるから、10年後に時効取得することがあり得る(同法162条)。しかし、これは10年後の話しであって、「即時に所有権を取得」するわけではない。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 26-03-1 | 売買契約に基づいて土地の引渡しを受け、平穏・公然と占有を始めた買主は、売主が無権利者であることにつき善意無過失であれば、即時に不動産の所有権を取得する。 | × |
2 | 24-02-2 | 法人について即時取得の成否が問題となる場合、当該法人の代表機関が代理人によって取引を行ったのであれば、即時取得の要件である善意・無過失の有無は、当該代理人を基準にして判断される。 | ◯ |
3 | 19-03-1 | Aと売買契約を締結したBが、平穏かつ公然と甲土地の占有を始め、善意無過失であれば、甲土地がAの土地ではなく第三者の土地であったとしても、Bは即時に所有権を取得することができる。 | × |
2 誤り
登記を信頼して本来の所有者でないAと売買契約を締結したとしても、無権利者と契約したに過ぎず、土地の権利を取得することはできないのが原則である(左図)。この原則を、「登記には公信力がない」と表現する。
ただし、真の所有者Dに、登記を他人A名義にしていたことに関する過失がある場合であれば、話は別である(右図)。
このようなケースにつき、判例は、通謀虚偽表示に関する民法94条2項を類推適用して、登記を信頼したCを保護する(最判昭45.09.22)。
しかし、本肢のいうように、「Dの過失の有無にかかわらず」、Cが所有権を取得することができるわけではない。
登記を信頼して本来の所有者でないAと売買契約を締結したとしても、無権利者と契約したに過ぎず、土地の権利を取得することはできないのが原則である。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 20-02-1 | 土地の真の所有者は、無権利者からの譲受人で登記を有する者に対し、所有権を主張できる。 | ◯ |
2 | 19-03-2 | 登記を信頼した土地の譲受人は、真の所有者の過失の有無を問わず、所有権を取得できる。 | × |
3 | 15-03-4 | 二重譲渡の一方が通謀虚偽表示であり、仮装譲受人が登記を得たとしても、もう一方の譲受人は、所有権を主張できる。 | ◯ |
4 | 13-05-1 | 無権利者からの譲受人からさらに転得した者は、無権利の点につき善意であれば、所有権を真の所有者に対抗できる。 | × |
5 | 08-05-2 | 公序良俗違反の契約により、BがAから土地所有権を取得し登記をした。Bと売買契約を締結し、移転登記を受けたCは、Aに対し所有権を対抗できる。 | × |
6 | 03-04-4 | 土地の譲受人は、無権利者から土地を賃借し土地上の建物を登記した者に対し、土地の明渡しと建物収去を請求できる。 | ◯ |
3 正しい
Aから売買契約によって土地の所有権を取得したEは、登記を備えなければ、自己の所有権を第三者に対抗することができない(民法177条)。
しかし、ここでいう「第三者」とは、「登記がないことを主張する正当な利益を有する者」を意味する(最判昭25.12.19)。Fのように正当な権原なく土地を占有している不法占拠者は、そもそも「第三者」に該当しない。
したがって、EはFに対して、登記がなくとも、所有権を主張し、明渡しを請求することができる。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | R03s-09-3 | AがBに対してA所有の甲建物を①売却又は②賃貸した。甲建物をCが不法占拠している場合、①ではBは甲建物の所有権移転登記を備えていなければ所有権をCに対抗できず、②ではBは甲建物につき賃借権の登記を備えていれば賃借権をCに対抗することができる。 | × |
2 | R01-01-1 | [Aは、Aが所有している甲土地をBに売却した。]甲土地を何らの権原なく不法占有しているCがいる場合、BがCに対して甲土地の所有権を主張して明渡請求をするには、甲土地の所有権移転登記を備えなければならない。 | × |
3 | 19-03-3 | 正当な権原なく土地を占有する者に対しては、登記を備えていなくても、土地の明渡しを請求できる。 | ◯ |
4 | 16-03-1 | 何ら権原のない不法占有者に対しては、登記を備えていなくても、土地の明渡しを請求できる。 | ◯ |
5 | 10-01-3 | 土地の不法占拠者に対しては、登記がなければ所有権を主張できない。 | × |
4 誤り
Aから売買契約によって土地の所有権を取得したGとHは、どちらも登記を備えていない。したがって、お互いに自己の所有権を他方に対抗することができない(民法177条)。つまり、この時点では、GH間の優劣は決まらない。
結局、先に登記を備えた方が、他方に対して所有権を対抗できることになる。契約日の早い遅いで所有権の帰属を決定するわけではない。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | R04-01-2 | 所有者AからBが不動産を買い受け、その登記が未了の間に、背信的悪意者ではないCが当該不動産をAから二重に買い受けた場合、先に買い受けたBは登記が未了であっても当該不動産の所有権取得をもってCに対抗することができる。 | × |
2 | H29-11-1 | A所有の甲土地につき、令和XX年10月1日にBとの間で賃貸借契約が締結された。Aが甲土地につき、本件契約とは別に、同年9月1日にCとの間で建物所有を目的として賃貸借契約を締結していた場合、本件契約が資材置場として更地で利用することを目的とするものであるときは、本件契約よりもCとの契約が優先する。 | × |
3 | H28-03-1 | AがA所有の甲土地をBに売却する前にCにも売却していた場合、Cは所有権移転登記を備えていなくても、Bに対して甲土地の所有権を主張することができる。 | × |
4 | H24-06-3 | Aが甲土地をBとCとに対して二重に譲渡してBが所有権移転登記を備えた場合に、AC間の売買契約の方がAB間の売買契約よりも先になされたことをCが立証できれば、Cは、登記がなくても、Bに対して自らが所有者であることを主張することができる。 | × |
5 | H22-04-1 | CもAから甲土地を購入しており、その売買契約書の日付とAB間の売買契約書の日付が同じである場合、登記がなくても、契約締結の時刻が早い方が所有権を主張することができる。 | × |
6 | H19-03-4 | Aを所有者とする甲土地につき、AがBとの間で令和XX年10月1日に、Cとの間で同年10月10日に、それぞれ売買契約を締結した場合、B、C共に登記を備えていないときには、先に売買契約を締結したBがCに対して所有権を主張することができる。 | × |