【宅建過去問】(令和04年問10)取得時効
AはBに対し、自己所有の甲土地を売却し、代金と引換えにBに甲土地を引き渡したが、その後にCに対しても甲土地を売却し、代金と引換えにCに甲土地の所有権登記を移転した。この場合におけるBによる甲土地の所有権の時効取得に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- Bが甲土地をDに賃貸し、引き渡したときは、Bは甲土地の占有を失うので、甲土地の所有権を時効取得することはできない。
- Bが、時効の完成前に甲土地の占有をEに奪われたとしても、Eに対して占有回収の訴えを提起して占有を回復した場合には、Eに占有を奪われていた期間も時効期間に算入される。
- Bが、甲土地の引渡しを受けた時点で所有の意思を有していたとしても、AC間の売買及びCに対する登記の移転を知ったときは、その時点で所有の意思が認められなくなるので、Bは甲土地を時効により取得することはできない。
- Bが甲土地の所有権を時効取得した場合、Bは登記を備えなければ、その所有権を時効完成時において所有者であったCに対抗することはできない。
Contents
正解:2
はじめに
設定の確認
AはBに対し、自己所有の甲土地を売却し、代金と引換えにBに甲土地を引き渡したが、その後にCに対しても甲土地を売却し、代金と引換えにCに甲土地の所有権登記を移転した。
図で描くと対抗関係の問題のように見えます。しかし、メインのテーマは、Bによる所有権の時効取得です。
取得時効の要件
所有権を時効取得するための要件は、表の通りです(民法162条1項、2項)。
本問のBは、甲土地の所有者Aと売買契約を締結し、買主として引渡しを受けているので、「1 所有の意思」に問題はありません。「2 平穏かつ公然」については何も触れられていないので、問題ないと考えていいでしょう。また、AからBが甲土地を購入した時点では、Cとの売買契約は存在しないのですから、「3 占有開始時に善意無過失」だったことが分かります。つまり、Bは、10年間占有を継続すれば、甲土地を時効取得することができます。
1 誤り
B自身が甲土地を直接に占有しなくても、占有代理人を通じて占有することも可能です。これを間接占有とか代理占有といいます(民法181条)。
他人に賃貸し、賃借人に占有させることは、間接占有の典型です。Bからの賃借人Dが占有している以上、Bの占有は継続しています。本肢は、「Bは甲土地の占有を失う」が誤りです。Dによる間接占有の期間も含んで10年が経過すれば、Bは、甲土地を時効取得することができます。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R04-10‐1 | Aが所有する甲土地を占有するBが、甲土地をCに賃貸し、引き渡したときは、Bは甲土地の占有を失うので、甲土地の所有権を時効取得することはできない。 | × |
2 | H14‐03‐1 | Aが、Bに対して建物をCのために占有することを指示し、Cがそれを承諾しただけでは、AがCに建物を引き渡したことにはならない。 | × |
3 | H10‐02‐2 | Bは、平穏かつ公然とA所有の甲土地を占有している。Bが2年間自己占有し、引き続き18年間Cに賃貸していた場合には、Bに所有の意思があっても、Bは、時効によって甲土地の所有権を取得することができない。 | × |
4 | H04‐04‐1 | Bの所有地をAが善意無過失で占有を開始し、所有の意思をもって、平穏かつ公然に7年間占有を続けた後、Cに3年間賃貸した場合、Aは、その土地の所有権を時効取得することはできない。 | × |
2 正しい
占有者が他人に占有を奪われた場合、取得時効が中断するのが原則です(民法164条)。
しかし、Bが占有回収の訴えを提起し、これに勝訴して占有を回復すれば、話は別です(同法203条ただし書き)。この場合、Eに占有を奪われていた期間はなかったことになり、この期間もBの占有期間としてカウントされます。Bは、Eに占有を奪われていた期間も含めて10年間占有を継続すれば、甲土地を時効取得することができます。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
占有の訴え | |||
1 | R04-10-2 | AはBに対し、自己所有の甲土地を売却し、代金と引換えにBに甲土地を引き渡したが、その後にCに対しても甲土地を売却し、代金と引換えにCに甲土地の所有権登記を移転した。Bが、時効の完成前に甲土地の占有をDに奪われたとしても、Dに対して占有回収の訴えを提起して占有を回復した場合には、Dに占有を奪われていた期間も時効期間に算入される。 | ◯ |
1 | H27-05-3 | 甲土地の占有を代理している者は、甲土地の占有が第三者に妨害された場合には、第三者に対して占有保持の訴えを提起することができる。 | ◯ |
占有回収の訴え | |||
1 | H27-05-4 | 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者及びその特定承継人に対して当然に提起することができる。 | × |
2 | H14-03-4 | 売主A・買主B間の建物売買契約(所有権移転登記は行っていない。)が解除され、建物の所有者Aが、B居住の建物をCに売却して所有権移転登記をした。Cが暴力によって、Bから建物の占有を奪った場合、BはCに占有回収の訴えを提起できるが、CはBに対抗できる所有権があるので占有回収の訴えについては敗訴することはない。 | × |
3 誤り
所有の意思を有するかどうかは、占有取得の原因となった事実によって客観的に判断します。Bは、甲土地の所有者Aから売買により占有を取得したのですから、Bの占有は、所有の意思をもった占有(自主占有)です。
Bが、「AC間の売買及びCに対する登記の移転を知った」としても、それは、「甲土地が他人の物であることに悪意になった」に過ぎません。これが影響を与えるとすれば、Bが占有しなければならない期間が20年間(長期取得時効)になるか、10年間(短期取得時効)になるか、という点です。しかも、長期取得時効と短期取得時効のどちらになるかは、「占有開始時に善意無過失だったか」によって決まるのです。占有の途中で悪意になったとしても、時効期間が変わることすらありません。Bは、10年間占有を継続すれば、甲土地を時効取得することができます。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R04-10-3 | AはBに対し、自己所有の甲土地を売却し、代金と引換えにBに甲土地を引き渡したが、その後にCに対しても甲土地を売却し、代金と引換えにCに甲土地の所有権登記を移転した。Bが、甲土地の引渡しを受けた時点で所有の意思を有していたとしても、AC間の売買及びCに対する登記の移転を知ったときは、その時点で所有の意思が認められなくなるので、Bは甲土地を時効により取得することはできない。 | × |
2 | H27-04-1 | A所有の甲土地を占有しているBが父から甲土地についての賃借権を相続により承継して賃料を払い続けている場合であっても、相続から20年間甲土地を占有したときは、Bは、時効によって甲土地の所有権を取得することができる。 | × |
3 | H26-03-4 | 20年間、平穏に、かつ、公然と他人が所有する土地を占有した者は、占有取得の原因たる事実のいかんにかかわらず、当該土地の所有権を取得する。 | × |
4 | H16-05-3 | Aから土地を借りていたBが死亡し、借地であることを知らない相続人Cがその土地を相続により取得したと考えて利用していたとしても、CはBの借地人の地位を相続するだけなので、土地の所有権を時効で取得することはない。 | × |
5 | H16-05-4 | A所有の土地の占有者がAからB、BからCと移った。Cが期間を定めずBから土地を借りて利用していた場合、Cの占有が20年を超えれば、Cは20年の取得時効を主張することができる。 | × |
6 | H04-04-4 | AがBの所有地を20年間平穏かつ公然に占有を続けた場合においても、その占有が賃借権に基づくもので所有の意思がないときは、Bが賃料を請求せず、Aが支払っていないとしても、Aは、その土地の所有権を時効取得することができない。 | ◯ |
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | R04-10-3 | AはBに対し、自己所有の甲土地を売却し、代金と引換えにBに甲土地を引き渡したが、その後にCに対しても甲土地を売却し、代金と引換えにCに甲土地の所有権登記を移転した。Bが、甲土地の引渡しを受けた時点で所有の意思を有していたとしても、AC間の売買及びCに対する登記の移転を知ったときは、その時点で所有の意思が認められなくなるので、Bは甲土地を時効により取得することはできない。 | × |
2 | R02-10-2 | Aが甲土地を所有している。Bが、所有者と称するCから、Cが権利者であることについて善意過失で甲土地を買い受け、所有の意思をもって平穏かつ公然に3年間占有した後、甲土地がAの所有であることに気付いた場合、そのままさらに7年間甲土地の占有を継続したとしても、Bは、甲土地の所有権を時効取得することはできない。 | × |
3 | R02-10-3 | Aが甲土地を所有している。Bが、所有者と称するCから、Cが権利者であることについて善意過失で甲土地を買い受け、所有の意思をもって平穏かつ公然に3年間占有した後、甲土地がAの所有であることを知っているDに売却し、Dが所有の意思をもって平穏かつ公然に甲土地を7年間占有した場合、Dは甲土地の所有権を時効取得することができる。 | ◯ |
4 | H04-04-2 | Aが善意無過失で占有を開始し、所有の意思をもって、平穏かつ公然に7年間占有を続けた後、その土地がB所有のものであることを知った場合、Aは、その後3年間占有を続ければ、その土地の所有権を時効取得することができる。 | ◯ |
4 誤り
時系列に整理しましょう。①AからCへの譲渡と②Cへの所有権移転登記の後で、③Bの取得時効が完成しています。つまり、時効により権利を取得したBから見て、Cは、時効完成前の第三者です。
この場合、甲土地の所有権は、AからC、CからBと順次移転しています。BとCの間には対抗問題が発生していません。
時効取得者Bは、Cに対して、所有権移転登記を備えなくても、この不動産の所有権を対抗することができます(最判昭41.11.22)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
時効完成後の第三者 | |||
1 | R05-06-イ | A所有の甲土地についてBの取得時効が完成した後に、AがCに対して甲土地を売却しCが所有権移転登記を備え、Bが、Cの登記の日から所有の意思をもって平穏にかつ公然と時効取得に必要な期間占有を継続した場合、所有権移転登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をCに対抗することができる。 | ◯ |
2 | R05-06-ウ | A所有の甲土地についてBの取得時効完成後、Bへの所有権移転登記がなされないままCがAを債務者として甲土地にAから抵当権の設定を受けて抵当権設定登記をした場合において、Bがその後引き続き所有の意思をもって平穏にかつ公然と時効取得に必要な期間占有を継続した場合、特段の事情がない限り、再度の時効取得により、Bは甲土地の所有権を取得し、Cの抵当権は消滅する。 | ◯ |
3 | H19-06-4 | 取得時効の完成により甲不動産の所有権を適法に取得した者は、その旨を登記しなければ、時効完成後に甲不動産を旧所有者から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。 | ◯ |
4 | H13-05-4 | AからB、BからCに、甲地が順次売却され、AからBに対する所有権移転登記がなされた。BからCへの売却前に、取得時効の完成により甲地の所有権を取得したDがいる場合、Dがそれを理由にして所有権登記をBから取得する前に、Dの取得時効につき善意のCがBから甲地を購入し、かつ、所有権移転登記を受けたときは、Cは甲地の所有権をEに対抗できる。 | ◯ |
5 | H09-06-4 | Bが、A所有の土地を占有し取得時効期間を経過した場合で、時効の完成後に、Aがその土地をCに譲渡して登記を移転したとき、Bは、登記なしにCに対して時効による甲土地の取得を主張できる。 | × |
6 | H07-02-4 | Aの所有する土地についてBの取得時効が完成した後、AがCに売却し、登記をC名義に移転した場合、Bは、Cに対して登記がなければ土地の所有権を主張できない。 | ◯ |
時効完成前の第三者 | |||
1 | R05-06-ア | AがCに対して甲土地を売却し、Cが所有権移転登記を備えた後にBの取得時効が完成した場合には、Bは登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をCに対抗することができる。 | ◯ |
2 | R04-10-4 | AはBに対し、自己所有の甲土地を売却し、代金と引換えにBに甲土地を引き渡したが、その後にCに対しても甲土地を売却し、代金と引換えにCに甲土地の所有権登記を移転した。Bが甲土地の所有権を時効取得した場合、Bは登記を備えなければ、その所有権を時効完成時において所有者であったCに対抗することはできない。 | × |
3 | R03s-06-3 | 第三者のなした登記後に時効が完成して不動産の所有権を取得した者は、当該第三者に対して、登記を備えなくても、時効取得をもって対抗することができる。 | ◯ |
4 | R01-01-4 | Aは、Aが所有している甲土地をCに売却した。Cが甲土地の所有権移転登記を備えた後に甲土地につき取得時効が完成したBは、甲土地の所有権移転登記を備えていなくても、Cに対して甲土地の所有権を主張することができる。 | ◯ |
5 | H27-04-3 | Aから甲土地を買い受けたCが所有権の移転登記を備えた後に、Bについて甲土地所有権の取得時効が完成した場合、Bは、Cに対し、登記がなくても甲土地の所有者であることを主張することができる。 | ◯ |
6 | H24-06-1 | A所有の甲土地に甲土地につき、時効により所有権を取得したBは、時効完成前にAから甲土地を購入して所有権移転登記を備えたCに対して、時効による所有権の取得を主張することができない。 | × |
7 | H22-04-3 | Bが時効により甲土地の所有権を取得した旨主張している場合、取得時効の進行中にAC間で売買契約及び所有権移転登記がなされ、その後に時効が完成しているときには、Bは登記がなくてもCに対して所有権を主張することができる。 | ◯ |
8 | H10-02-3 | CがBの取得時効完成前にAから甲土地を買い受けた場合には、Cの登記がBの取得時効完成の前であると後であるとを問わず、Bは、登記がなくても、時効による甲土地の所有権の取得をCに対抗することができる。 | ◯ |
9 | H04-04-3 | Aの所有地についてBが善意無過失で占有を開始し、所有の意思をもって、平穏かつ公然に7年間占有を続けた後、AがCにその土地を売却し、所有権移転登記を完了してもBは、その後3年間占有を続ければ、その土地の所有権を時効取得し、Cに対抗することができる。 | ◯ |
時効期間の起算点 | |||
1 | H22-03-3 | 時効期間は、時効の基礎たる事実が開始された時を起算点としなければならず、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。 | ◯ |
【参考】時効完成後の第三者
話の順序を変えて、①この不動産についてBの時効が完成した後に、②AからCへの売却が行われたケースについて考えてみましょう。時効により権利を取得したBから見て、Cは、時効完成後の第三者ということになります。
この場合、①AからBへの取得時効による所有権移転と②AからCへの売買契約による所有権移転との間には、対抗関係が生じています。BがCに対して所有権を主張するためには、Cよりも先に所有権移転登記を備える必要があります(最判昭33.08.28)。
解説ありがとうございます。
肢4、Cは登記を備えただけでは甲土地のBによる占有状態を承継しただけと解釈したのですが、合っているでしょうか。
Cが時効完成前にBに対抗するには、時効完成を妨げなければならないということでしょうか?
もざ様
ご質問ありがとうございます。
残念ですが、違います。
「登記」をしたからといって、「占有」を承継することはできません。
また、肢4の「Bが甲土地の所有権を時効取得した」から、Bは、時効完成まで占有を続けたことが分かります。このことから見ても、Cは、甲土地を占有していません。
「登記」を備えただけでは、対抗関係における「対抗要件」を手に入れただけです。
そして、この選択肢では、そもそも「対抗関係」が生じていないのですから、「対抗要件」の有無は問われません。
対抗問題や対抗関係については、[Step.1]の講義で、以下の箇所を確認してください。
(eラーニング講座でも、YouTubeメンバーシップでも、内容は同じです。)
■民法[07]物権変動と対抗問題
1.物権変動?対抗問題?登記
(1).対抗問題になるケース
(2).対抗問題にならないケース
その通りです。
Cが自己の所有権をBに対して主張するためには、Bの時効完成を阻止する必要があります。
具体的には、Bの時効を更新する必要があります。
(いったん完成猶予を得たうえで、更新という方法も考えられます。)
時効の完成や完成猶予については、[Step.1]の講義で、以下の箇所を確認してください。
■民法[06]時効
5.時効の完成猶予・更新
家坂様
大変勉強になりました。ありがとうございます!
もざ様
ご返信ありがとうございます。
参照項目の確認、よろしくお願いします。
基本知識を大切にして、勉強を進めていきましょう!
「占有を他人に奪われてそいつに占有回収の訴えを提起して占有を回復」なんてひと悶着があったら「平穏に占有した」なんてとても言えないと思ったのですが…
ひろし様
ご質問ありがとうございます。
判例によれば、「平穏の占有」(民法162条2項)とは、「占有者がその占有を取得し、または、保持するについて、暴行強迫などの違法強暴の行為を用いていない占有」をいいます(最判昭41.04.15)。
Bは、Aとの売買契約に基づき、甲土地の引渡しを受けたことで甲土地の占有を取得したのですから、その占有は「平穏」なものといえます。
Eが、Bから甲土地の占有を奪う際に、暴行強迫などの行為を用いたかも知れません。しかし、それは、「Eの占有が平穏なものではない。」ことを意味するだけです。Bの占有が「平穏」でなくなったわけではありません。
さらにいえば、Bは、Eから占有を取り返すために「占有回収の訴え」という平和的な手段を使っているのです。この点から見ても、Bの占有は、一貫して「平穏」なものといえるでしょう。