【宅建過去問】(平成25年問08)事務管理・賃貸借
次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 倒壊しそうなA所有の建物や工作物について、Aが倒壊防止の措置をとらないため、Aの隣に住むBがAのために最小限度の緊急措置をとったとしても、Aの承諾がなければ、Bはその費用をAに請求することはできない。
- 建物所有を目的とする借地人は、特段の事情がない限り、建物建築時に土地に石垣や擁壁の設置、盛土や杭打ち等の変形加工をするには、必ず賃貸人の承諾を得なければならない。
- 建物の賃貸人が必要な修繕義務を履行しない場合、賃借人は目的物の使用収益に関係なく賃料全額の支払を拒絶することができる。
- 建物の賃貸人が賃貸物の保存に必要な修繕をする場合、賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても、これを拒むことはできない。
正解:4
1 誤り
本肢のBの行為のように、義務もなく、また、他人Aの依頼も承諾もないのに、Aの事務を処理することを事務管理といいます(民法697条1項)。事務管理にあたり、管理者(B)が、本人(A)のために、有益な費用を支出したときは、その償還を請求することができます(同法702条1項)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る[共通の設定(Q1~5)]
Aは、隣人Bの留守中に台風が接近して、屋根の一部が壊れていたB宅に甚大な被害が生じる差し迫ったおそれがあったため、Bからの依頼なくB宅の屋根を修理した。
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | H30-05-1 | Aは、Bに対して、特段の事情がない限り、B宅の屋根を修理したことについて報酬を請求することができない。 | ◯ |
2 | H30-05-2 | Aは、Bからの請求があったときには、いつでも、本件事務処理の状況をBに報告しなければならない。 | ◯ |
3 | H30-05-3 | Aは、B宅の屋根を善良な管理者の注意をもって修理しなければならない。 | × |
4 | H30-05-4 | AによるB宅の屋根の修理が、Bの意思に反することなく行われた場合、AはBに対し、Aが支出した有益な費用全額の償還を請求することができる。 | ◯ |
5 | H25-08-1 | 倒壊しそうなB所有の建物や工作物について、Bが倒壊防止の措置をとらないため、Bの隣に住むAがBのために最小限度の緊急措置をとったとしても、Bの承諾がなければ、Aはその費用をAに請求することはできない。 | × |
6 | H23-08-4 | BはAに200万円の借金があり、その返済に困っているのを見かねたCが、Bから頼まれたわけではないが、Bに代わってAに対して借金の返済を行った。Bの意思に反する弁済ではないとして、CがAに支払った200万円につき、CがBに対して支払いを求める場合、CのBに対する債権は、契約に基づいて発生する。 | × |
2 誤り
「建物所有を目的とする賃借」を許されているのですから、その目的に合致する範囲で、「土地に石垣や擁壁の設置、盛土や杭打ち等の変形加工をする」ことは、賃借人の当然の権利といえます。したがって、それらの行為をするにあたり、賃貸人の承諾を得る必要はありません。
3 誤り
そもそも賃料は、目的物を使用収益することの対価です。したがって、賃貸人が修繕義務を履行しないことにより、目的物の使用収益が一切不可能な場合、賃借人は、賃料全額の支払いを拒絶することができます(大判大10.09.26)。
一方、不便ではあっても目的物の使用収益が可能な場合、判例の言葉でいえば、「居住の用に耐えない程、あるいは、居住に著しい支障を生ずる程に至っていない場合」は、話が別です。この場合、賃借人は、賃貸人の修繕義務の不履行を理由に、賃料全部の支払を拒むことはできません(民法606条1項。最判昭38.11.28)。
本肢は、「目的物の使用収益に関係なく賃料全額の支払を拒絶することができる」とする点が誤っています。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
①賃貸人による修繕 | |||
1 | R05-09-3 | Bの責めに帰すべき事由によって甲建物の修繕が必要となった場合は、Aは甲建物を修繕する義務を負わない。 | ◯ |
2 | R04-08-1 | AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、地上権である場合でも賃借権である場合でも、特約がなくても、BはAに対して、甲土地の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 | × |
3 | H25-08-3 | 建物の賃貸人が必要な修繕義務を履行しない場合、賃借人は目的物の使用収益に関係なく賃料全額の支払を拒絶することができる。 | × |
4 | H25-08-4 | 建物の賃貸人が賃貸物の保存に必要な修繕をする場合、賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても、これを拒むことはできない。 | ◯ |
5 | H17-15-2 | 賃貸人と賃借人との間で別段の合意をしない限り、動産の賃貸借契約の賃貸人は、賃貸物の使用収益に必要な修繕を行う義務を負うが、建物の賃貸借契約の賃貸人は、そのような修繕を行う義務を負わない。 | × |
6 | H01-06-1 | Aは、自己所有の建物をBに賃貸した。建物が老朽化してきたため、Aが建物の保存のために必要な修繕をする場合、Bは、Aの修繕行為を拒むことはできない。 | ◯ |
②賃借人による修繕 | |||
1 | R05-09-1 | 甲建物の修繕が必要であることを、Aが知ったにもかかわらず、Aが相当の期間内に必要な修繕をしないときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | ◯ |
2 | R05-09-2 | 甲建物の修繕が必要である場合において、BがAに修繕が必要である旨を通知したにもかかわらず、Aが必要な修繕を直ちにしないときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | × |
3 | R05-09-4 | 甲建物の修繕が必要である場合において、急迫の事情があるときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | ◯ |
4 | R02s-12-1 | 賃貸借の目的物である建物の修繕が必要である場合において、賃借人Bが賃貸人Aに修繕が必要である旨を通知したにもかかわらずAが相当の期間内に必要な修繕をしないときは、Bは自ら修繕をすることができる。 | ◯ |
4 正しい
賃貸人は、賃貸物の使用収益に必要な修繕を行う義務を負います(民法606条1項)。賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができません(同条2項)。
このことは、賃借人の使用収益に支障が生じる場合であっても同様です。賃貸人の意思に反する保存行為により、賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、契約を解除することで対処するしかありません(同法607条)。
■参照項目&類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
①賃貸人による修繕 | |||
1 | R05-09-3 | Bの責めに帰すべき事由によって甲建物の修繕が必要となった場合は、Aは甲建物を修繕する義務を負わない。 | ◯ |
2 | R04-08-1 | AがB所有の甲土地を建物所有目的でなく利用するための権原が、地上権である場合でも賃借権である場合でも、特約がなくても、BはAに対して、甲土地の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 | × |
3 | H25-08-3 | 建物の賃貸人が必要な修繕義務を履行しない場合、賃借人は目的物の使用収益に関係なく賃料全額の支払を拒絶することができる。 | × |
4 | H25-08-4 | 建物の賃貸人が賃貸物の保存に必要な修繕をする場合、賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても、これを拒むことはできない。 | ◯ |
5 | H17-15-2 | 賃貸人と賃借人との間で別段の合意をしない限り、動産の賃貸借契約の賃貸人は、賃貸物の使用収益に必要な修繕を行う義務を負うが、建物の賃貸借契約の賃貸人は、そのような修繕を行う義務を負わない。 | × |
6 | H01-06-1 | Aは、自己所有の建物をBに賃貸した。建物が老朽化してきたため、Aが建物の保存のために必要な修繕をする場合、Bは、Aの修繕行為を拒むことはできない。 | ◯ |
②賃借人による修繕 | |||
1 | R05-09-1 | 甲建物の修繕が必要であることを、Aが知ったにもかかわらず、Aが相当の期間内に必要な修繕をしないときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | ◯ |
2 | R05-09-2 | 甲建物の修繕が必要である場合において、BがAに修繕が必要である旨を通知したにもかかわらず、Aが必要な修繕を直ちにしないときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | × |
3 | R05-09-4 | 甲建物の修繕が必要である場合において、急迫の事情があるときは、Bは甲建物の修繕をすることができる。 | ◯ |
4 | R02s-12-1 | 賃貸借の目的物である建物の修繕が必要である場合において、賃借人Bが賃貸人Aに修繕が必要である旨を通知したにもかかわらずAが相当の期間内に必要な修繕をしないときは、Bは自ら修繕をすることができる。 | ◯ |
家坂先生。選択肢 1.
の解説について質問させていただきます。
今回の解説において、「他人Aの依頼も承諾もないのに管理者(B)が、本人(A)のために、有益な費用を支出したときは、その償還を請求することができます(同法702条1項)」
と動画中および解説文中でもありますが、平成30年の問5 選択肢 4.
の解説では、「事務管理が本人の意思に反していない場合、管理者は、本人のために支出した有益な費用の全額について償還を請求することができます(民法702条1項)」
とあります。
これも、「有益費の請求が可能」と捉えて間違い無いのだとすれば、今回の場合本人の意思に反しているか、そうでないかは依頼も承諾もない(承諾がないというのは意思に反している寄りな気がします)かは本人が何とも言ってないのでわかりませんよね。
なおかつ、30年度の補足解説として、※管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、償還を請求することができます(同条3項)。とあります。
有益費を受けれる条件に対して受けられない場合の補足としてこのように書かれていますが、ここにある25年度版解説と異なる解説になっているように思われますがどう解釈したらいいのでしょうか。
【1】民法の知識
3つのレベルに分けて整理しましょう。
(1)事務管理の成立
「本人の依頼も承諾もない」という言葉は、「事務管理」の成立に関するものです。
本人の依頼や承諾があれば、準委任契約などが成立し、事務管理の問題ではなくなります。
(2)費用償還請求権の有無
管理者が本人のために有益な費用を支出したときは、その償還を請求することができます。
これは本人の承諾があるかどうかに関わりません。
(3)償還の範囲
管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度で償還すればOKです。
逆に言えば、本人の意思に反しない場合には、有益な費用の全額を償還する義務を負います。
【2】過去問への当てはめ
●平成25年問08肢1
(1)A(本人)の承諾がなくても、事務管理は成立します。
(2)B(管理者)は、支出した有益費用の償還を請求することができます。
(3)事務管理が本人の意思に反する場合には、償還の範囲が制限されます。しかし、請求することができないわけではありません。
●平成30年問05肢4
(1)事務管理が成立します。
(2)A(管理者)は、支出した有益費用の償還を請求することができます。
(3)「Bの意思に反することなく行われた」というのですから、費用全額の償還を請求することができます。