【宅建過去問】(平成15年問03)物権変動と対抗問題
Aは、自己所有の甲地をBに売却し引き渡したが、Bはまだ所有権移転登記を行っていない。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。
- Cが、AB間の売買の事実を知らずにAから甲地を買い受け、所有権移転登記を得た場合、CはBに対して甲地の所有権を主張することができる。
- Dが、Bを欺き著しく高く売りつける目的で、Bが所有権移転登記を行っていないことに乗じて、Aから甲地を買い受け所有権移転登記を得た場合、DはBに対して甲地の所有権を主張することができない。
- Eが、甲地に抵当権を設定して登記を得た場合であっても、その後Bが所有権移転登記を得てしまえば、以後、EはBに対して甲地に抵当権を設定したことを主張することができない。
- AとFが、通謀して甲地をAからFに仮装譲渡し、所有権移転登記を得た場合、Bは登記がなくとも、Fに対して甲地の所有権を主張することができる。
正解:3
対抗問題(民法177条)は以下のような順序で考えていく。
- 物権の帰属を争う「対抗関係」になるかどうか
- また、「対抗関係」にあるとしても、「第三者(登記がないことを主張する正当な利益を有する者)」といえるか
1 正しい
Cは二重譲渡の譲受人であり、BCの関係は典型的な対抗関係である。
本肢では、Cが所有権移転登記を得ていることから、対抗関係にある「第三者」Bに対して、甲地の所有権を対抗することができる。
■類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
単純悪意者 | |||
1 | 15-03-1 | 第一買主の存在を知らずに土地を購入し登記した者→第一買主:対抗可能。 | ◯ |
2 | 03-04-1 | 未登記の第一買主→第一買主の存在を知りつつ土地を譲り受け登記した第二買主:対抗不可。 | ◯ |
背信的悪意者 | |||
1 | 28-03-3 | Aから甲土地を購入したBは、所有権移転登記を備えていなかった。Eがこれに乗じてBに高値で売りつけて利益を得る目的でAから甲土地を購入し所有権移転登記を備えた場合、EはBに対して甲土地の所有権を主張することができない。 | ◯ |
2 | 24-06-4 | 背信的悪意者(第二買主)からの善意の転得者→第一買主:対抗可能。 | ◯ |
3 | 15-03-2 | 買主を欺き著しく高く売りつける目的で土地を購入した者→買主:登記があっても対抗不可。 | ◯ |
4 | 10-01-2 | 買主→買主が登記を受けていないことに乗じ、高値で売りつけ不当利益を得る目的で土地を購入した者:登記がなくても対抗可能。 | ◯ |
5 | 07-02-2 | 買主→買主を強迫して登記申請を妨げた者:登記がなくても対抗可能。 | ◯ |
6 | 07-02-3 | 買主→買主から登記手続を委任されたにも関わらず自らに登記移転した者:登記がなくても対抗可能。 | ◯ |
2 正しい
(1)DとBとの関係は二重譲渡の関係にあるようにもみえる。
(2)しかし、DはBを欺き著しく高く売りつける目的で、Bが所有権移転登記を行っていないことに乗じて、Aから甲地を買い受け所有権移転登記を得ており、背信的悪意者である。そのため、Dは「第三者」にあたらない。
したがって、Dが登記を得ていても、Bに対して甲地の所有権を主張することはできない。
■類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
単純悪意者 | |||
1 | 15-03-1 | 第一買主の存在を知らずに土地を購入し登記した者→第一買主:対抗可能。 | ◯ |
2 | 03-04-1 | 未登記の第一買主→第一買主の存在を知りつつ土地を譲り受け登記した第二買主:対抗不可。 | ◯ |
背信的悪意者 | |||
1 | 28-03-3 | Aから甲土地を購入したBは、所有権移転登記を備えていなかった。Eがこれに乗じてBに高値で売りつけて利益を得る目的でAから甲土地を購入し所有権移転登記を備えた場合、EはBに対して甲土地の所有権を主張することができない。 | ◯ |
2 | 24-06-4 | 背信的悪意者(第二買主)からの善意の転得者→第一買主:対抗可能。 | ◯ |
3 | 15-03-2 | 買主を欺き著しく高く売りつける目的で土地を購入した者→買主:登記があっても対抗不可。 | ◯ |
4 | 10-01-2 | 買主→買主が登記を受けていないことに乗じ、高値で売りつけ不当利益を得る目的で土地を購入した者:登記がなくても対抗可能。 | ◯ |
5 | 07-02-2 | 買主→買主を強迫して登記申請を妨げた者:登記がなくても対抗可能。 | ◯ |
6 | 07-02-3 | 買主→買主から登記手続を委任されたにも関わらず自らに登記移転した者:登記がなくても対抗可能。 | ◯ |
3 誤り
EとBとは、抵当権と所有権の優劣を争う対抗関係にある。
物権の優劣関係は、登記の先後で決めるのであるが、本肢のケースでは、Eの抵当権登記の方が先である。
したがって、Eの抵当権はBの所有権に優越するものとなる。つまりBに対して甲地に抵当権を設定したことを主張することができる。
逆にいえば、Bは、Eは抵当権の負担の付いた所有権を手に入れたに過ぎない。
■類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
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1 | 17-06-1 | BはAに対して自己所有の甲建物に平成15年4月1日に抵当権を設定し、Aは同日付でその旨の登記をした。Bは、平成15年2月1日に甲建物をCに期間4年の約定で賃貸し、同日付で引き渡していた。Cは、この賃貸借をAに対抗できる。 | ◯ |
2 | 16-03-3 | Aは、自己所有の建物をBに売却したが、Bはまだ所有権移転登記を行っていない。この建物がAとEとの持分1/2ずつの共有であり、Aが自己の持分をBに売却した場合、Bは、Eに対し、この建物の持分の取得を対抗できない。 | ◯ |
3 | 15-03-3 | Aは、自己所有の甲地をBに売却し引き渡したが、Bはまだ所有権移転登記を行っていない。Eが、甲地に抵当権を設定して登記を得た場合であっても、その後Bが所有権移転登記を得てしまえば、以後、EはBに対して甲地に抵当権を設定したことを主張することができない。 | × |
4 | 14-02-4 | Aが、Bの代理人としてCとの間で、B所有の土地の売買契約を締結しようとしている。AがBに無断でCと売買契約をしたが、Bがそれを知らないでDに売却して移転登記をした後でも、BがAの行為を追認すれば、DはCに所有権取得を対抗できなくなる。 | × |
5 | 09-06-3 | GがHに土地を譲渡した場合で、Hに登記を移転する前に、Gが死亡し、Iがその土地の特定遺贈を受け、登記の移転も受けたとき、Hは、登記なしにIに対して土地の所有権を主張できる。 | × |
6 | 08-03-3 | Aの所有する土地について、AB間で、代金全額が支払われたときに所有権がAからBに移転する旨約定して売買契約を締結した。Aが、Bとの売買契約締結前に、Dとの間で本件土地を売却する契約を締結してDから代金全額を受領していた場合、AからDへの所有権移転登記が完了していなくても、Bは、Aから所有権を取得することはできない。 | × |
4 正しい
(1)ごく形式的にみれば、Aを起点にBとFへの二重譲渡があるようにみえる。
(2)しかし、AF間の譲渡は、仮装のもの(通謀虚偽表示)であり、契約は無効である(民法94条1項)。
したがって、Fは単なる無権利者で、Bと権利を争う正当な利益を有する「第三者」にはあたらない。
Bは登記を有しなくても、Fに対して甲地の所有権を主張することができる。
■類似過去問
内容を見る年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 30-01-3 | [AがBに甲土地を売却した。]AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。 | ◯ |
2 | 27-02-1 | 善意のCがBから甲土地を買い受けた場合、Cがいまだ登記を備えていなくても、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない 。 | ◯ |
3 | 27-02-2 | 善意のCが、Bとの間で、Bが甲土地上に建てた乙建物の賃貸借契約(貸主B、借主C)を締結した場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない 。 | × |
4 | 27-02-3 | Bの債権者である善意のCが、甲土地を差し押さえた場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない 。 | ◯ |
5 | 27-02-4 | 甲土地がBから悪意のCへ、Cから善意のDへと譲渡された場合、AはAB間の売買契約の無効をDに主張することができない 。 | ◯ |
6 | 24-01-1 | Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、B名義の甲土地を差し押さえたBの債権者Cは、通謀虚偽表示における「第三者」に該当する。 | ◯ |
7 | 24-01-2 | Aが所有する甲土地につき、AとBの間には債権債務関係がないにもかかわらず、両者が通謀の上でBのために抵当権を設定し、その旨の登記がなされた場合に、Bに対する貸付債権を担保するためにBから転抵当権の設定を受けた債権者Cは、通謀虚偽表示における「第三者」に該当する。 | ◯ |
8 | 24-01-3 | Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、Bが甲土地の所有権を有しているものと信じてBに対して金銭を貸し付けたCは、通謀虚偽表示における「第三者」に該当する。 | × |
9 | 24-01-4 | AとBが通謀の上で、Aを貸主、Bを借主とする金銭消費貸借契約を仮装した場合に、当該仮装債権をAから譲り受けたCは、通謀虚偽表示における「第三者」に該当する。 | ◯ |
10 | 22-04-4 | 第三者は、善意悪意によらず、所有権を主張できない。 | × |
11 | 20-02-2 | 仮装売買の売主→虚偽表示に善意無過失だが登記を備えていない第三者|対抗できる。 | × |
12 | 15-03-4 | 土地の買主B(未登記)→Bと二重譲渡の関係に立ち登記を有する仮想譲渡の買主F|土地所有権を主張できる。 | ◯ |
13 | 12-04-2 | 善意無過失で未登記の第三者→売主|対抗できる。 | ◯ |
14 | 12-04-3 | (Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡) DがAからこの土地の譲渡を受けた場合には、所有権移転登記を受けていないときでも、Dは、Bに対して、その所有権を主張することができる。 | ◯ |
15 | 12-04-4 | (Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡) Eが、AB間の契約の事情につき善意無過失で、Bからこの土地の譲渡を受け、所有権移転登記を受けていない場合で、Aがこの土地をFに譲渡したとき、Eは、Fに対して、その所有権を主張することができる。 | × |
16 | 07-02-1 | 土地の買主B→Bと二重譲渡の関係に立ち登記を有する仮想譲渡の買主C|登記がなければ土地所有権を主張できない。 | × |
17 | 07-04-1 | 仮想譲渡の売主→悪意の抵当権設定者|抵当権設定の無効を主張できる。 | ◯ |
18 | 07-04-2 | 仮想譲渡の売主→善意有過失の転得者|所有権を主張できる。 | × |
19 | 07-04-4 | 仮想譲渡の売主→悪意の転得者|対抗可、 仮想譲渡の売主→悪意の転得者から取得した善意の転得者|対抗不可。 | ◯ |
20 | 05-03-1 | 売主→善意の第三者に対抗可。 | × |
21 | 05-03-2 | 売主の善意の債権者→善意の転得者に対抗可。 | × |
22 | 05-03-3 | 売主→善意で未登記の第三者に対抗可。 | × |
23 | 05-03-4 | 善意の転得者→売主に対抗可。 | ◯ |
24 | 03-04-3 | Aの所有地にFがAに無断でF名義の所有権移転登記をし、Aがこれを知りながら放置していたところ、FがF所有地として善意無過失のGに売り渡し、GがG名義の所有権移転登記をした場合、Aは、その所有権をGに対抗することができない。 | ◯ |
25 | 02-04-4 | 通謀虚偽表示は当事者間では無効だが、善意無過失の転得者には所有権を主張できない。 | ◯ |
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | 20-02-1 | 土地の真の所有者は、無権利者からの譲受人で登記を有する者に対し、所有権を主張できる。 | ◯ |
2 | 19-03-2 | 登記を信頼した土地の譲受人は、真の所有者の過失の有無を問わず、所有権を取得できる。 | × |
3 | 15-03-4 | 二重譲渡の一方が通謀虚偽表示であり、仮装譲受人が登記を得たとしても、もう一方の譲受人は、所有権を主張できる。 | ◯ |
4 | 13-05-1 | 無権利者からの譲受人からさらに転得した者は、無権利の点につき善意であれば、所有権を真の所有者に対抗できる。 | × |
5 | 08-05-2 | 公序良俗違反の契約により、BがAから土地所有権を取得し登記をした。Bと売買契約を締結し、移転登記を受けたCは、Aに対し所有権を対抗できる。 | × |
6 | 03-04-4 | 土地の譲受人は、無権利者から土地を賃借し土地上の建物を登記した者に対し、土地の明渡しと建物収去を請求できる。 | ◯ |
【無料公開講座】令和4年度本試験解説
この講座は、「本試験を受験した人が答え合わせをするための過去問解説」ではなく、「次回受験する本試験での得点力を向上させるための講座」です。その意味で、通常の「過去問解説」とは、根本的な発想から違っています。
まずは、『問題編PDF』で実施の問題を解きましょう(制限時間は2時間)。
解説については、「読む」「見る」という2wayで学習することができます。
「読む」は『解説編PDF』、「見る」は『解説動画』。2つを併用することで、基礎知識や解法テクニックなど合格に必要な能力が身に付きます。
肢4ですが、通謀虚偽表示だとしたら、Bの善意はどこから判断すれば良いのでしょうか。
それともこのようなケースは善意・悪意は関係無いのでしょうか。
宜しくお願い致します。
【結論】
Bは、AF間の虚偽表示に対する第三者に当たりません。したがって、善意・悪意を問われることもありません。
以下、図を使って説明します(手描きでスミマセン)。
■本肢のケース
本肢の状況を図示すると、[図1]になります。
①A→Bの売却と②A→Fの仮装譲渡が、Aを起点とした三角形になっています。
これが対抗問題の基本的な構造です。
ここで、Fは、仮装譲受人に過ぎず、Bに対して所有権を主張することができる「第三者」に当たりません。従って、Bは、(a)虚偽表示に関する善意悪意や(b)登記の有無に関わらず、Fに対して所有権を主張することができます。
■通謀虚偽表示のケース
通謀虚偽表示が問題になるのは、[図2]のようなケースです。
ここでは、①A→Fの仮装譲渡を前提に、②F→Gへの売却が行われています。
この場合に、AとGのどちらを救済すべきでしょうか。
Gが仮装譲渡の事実を知っていた(悪意)ときは、Gを保護する必要はありません。土地の所有権をAに戻すのが自然です。
しかし、Gが善意の場合には、Aではなく、Gを保護する必要性が高い。
以上のような理由で、虚偽表示の第三者については、善意・悪意が問われます。
【まとめ】
登場人物の関係を図示してみると、問題の構造がよく分かります。簡単なメモで構わないので、図示するクセを付けましょう。