【宅建過去問】(平成18年問11)不法行為(使用者責任)
事業者Aが雇用している従業員Bが行った不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Bには被害者に対する不法行為に基づく損害賠償責任は発生しない。
- Bが営業時間中にA所有の自動車を運転して取引先に行く途中に前方不注意で人身事故を発生させても、Aに無断で自動車を運転していた場合、Aに使用者としての損害賠償責任は発生しない。
- Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Aが被害者に対して売買代金債権を有していれば、被害者は不法行為に基づく損害賠償債権で売買代金債務を相殺することができる。
- Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合、A自身は不法行為を行っていない以上、Aは負担した損害額の2分の1をBに対して求償できる。
正解:3
1 誤り
事業者に使用者責任(民法715条)が成立する場合でも、被用者の不法行為責任(同法709条)が成立しないわけではない。両者は併存し、連帯債務の関係となる。
■参照項目&類似過去問
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使用者責任と加害者の不法行為責任(民法[30]2(3))
[共通の設定]
Cに雇用されているAが、勤務中にC所有の乗用車を運転し、営業活動をしている途中で、Bが運転していた乗用車と正面衝突した(事故につき、A、Bには過失がある。)。
[共通の設定]
Cに雇用されているAが、勤務中にC所有の乗用車を運転し、営業活動をしている途中で、Bが運転していた乗用車と正面衝突した(事故につき、A、Bには過失がある。)。
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | H25-09-4 | 使用者責任に基づく損害賠償を請求した場合、加害者に対する損害賠償請求はできない。 | × |
2 | H20-11-3 | AがCに雇用されており、AがCの事業の執行につきBに加害行為を行った場合には、CがBに対する損害賠償責任を負うのであって、CはAに対して求償することもできない。 | × |
3 | H18-11-1 | 使用者責任が発生する場合、被用者である加害者の不法行為に基づく損害賠償責任は発生しない。 | × |
4 | H06-07-2 | 使用者責任に基づく損害賠償を請求した場合、被用者である加害者に対する損害賠償請求はできない。 | × |
2 誤り
使用者責任は、被用者が使用者の「事業の執行について」第三者に損害を加えた場合に成立する(民法715条1項本文)。そして、「事業の執行について」といえるのは、被用者の行為の外形から判断して、
- 職務行為の範囲内に属する場合、
- 職務行為そのものではなくても、職務の範囲内に属する場合、
である。
したがって、Bの運転がAに無断であったとしても、外形的にBの職務行為の範囲内に属すると認められるならば、使用者責任が成立する (最判昭39.02.04)。
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使用者責任の成立要件(民法[30]2(2))
[共通の設定]
Cの被用者Aが、Bとの間で行った行為により、Bに損害が発生した。
[共通の設定]
Cの被用者Aが、Bとの間で行った行為により、Bに損害が発生した。
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | H23-08-1 | 青信号で横断歩道を歩いていたBが、赤信号を無視した自動車にはねられてケガをした。運転者AはCに雇用されていて、勤務時間中、仕事のために自動車を運転していた。Bが治療費として病院に支払った50万円の支払いをAに対して求める場合、債権は契約に基づいて発生する。 | × |
2 | H18-11-2 | Aが営業時間中にC所有の自動車を運転して取引先に行く途中に前方不注意で人身事故を発生させても、Cに断で自動車を運転していた場合、Cに使用者としての損害賠償責任は発生しない。 | × |
3 | H11-09-1 | Aの行為が、Aの職務行為そのものには属しない場合でも、その行為の外形から判断して、Aの職務の範囲内に属するものと認められるとき、Cは、Bに対して使用者責任を負うことがある。 | ◯ |
4 | H11-09-2 | Aが職務権限なくその行為を行っていることをBが知らなかった場合で、そのことにつきBに重大な過失があるとき、Cは、Bに対して使用者責任を負わない。 | ◯ |
5 | H06-07-1 | Bは、Aの不法行為責任が成立しなければ、Cに対して損害の賠償を求めることはできない。 | ◯ |
6 | H06-07-3 | Bは、Aの行為がCの指示によるものでないときは、Aに対して損害の賠償を求めることができるが、Cに対しては求めることができない。 | × |
3 正しい
民法が禁じているのは、不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権として相殺することである。すなわち、加害者側から相殺を主張することはできない(民法509条。左図)。これを認めると、「代金を払わないなら、その代わりに代金分殴らせろ」という主張が可能になるからである。
これに対し、被害者側から相殺を主張することは禁止されていない。言い換えれば、不法行為による債権を自働債権として相殺することは許される(最判昭42.11.30。右図)。被害者は、損害賠償を受けてはいないが、その分代金支払いの義務を免れているのであり、全く損をしていないからである。
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不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺(民法[21]4(1)、民法[30]5(4))
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | H30-09-3 | Aは、令和XX年10月1日、A所有の甲土地につき、Bとの間で、代金1,000万円、支払期日を同年12月1日とする売買契約を締結した。同年10月10日、BがAの自動車事故によって被害を受け、Aに対して不法行為に基づく損害賠償債権を取得した場合には、Bは売買代金債務と当該損害賠償債権を対当額で相殺することができる。 | ◯ |
2 | H28-09-3 | 買主に対して債権を有している売主は、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の身体の侵害による損害陪償請求権を受働債権とする相殺をもって、買主に対抗することができない。 | ◯ |
3 | H18-11-3 | Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Aが被害者に対して売買代金債権を有していれば、被害者は不法行為に基づく損害賠償債権で売買代金債務を相殺することができる。 | ◯ |
4 | H16-08-2 | Bは、A所有の建物を賃借し、毎月末日までに翌月分の賃料50万円を支払う約定をした。BがAに対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有した場合、Bは、このAに対する損害賠償請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。 | × |
5 | H07-08-3 | AがBに対して 100万円の金銭債権、BがAに対して 100万円の同種の債権を有している。Aの債権が、Bの悪意による不法行為によって発生したものであるときには、Bは、Bの債権をもって相殺をすることができない。 | ◯ |
6 | H04-09-1 | 不法行為の被害者は、損害賠償債権を目働債権として、加害者に対する金銭返還債務と相殺することができない。 | × |
4 誤り
使用者Aが使用者責任による損害賠償責任を負担した場合、Aは被用者Bに対して求償することができる(民法715条3項)。しかし、求償の範囲は、「信義則上相当と認められる限度」とされており(最判昭51.07.08)、機械的に1/2と決まるわけではない。
■参照項目&類似過去問
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使用者の被用者に対する求償(民法[30]2(4))
[共通の設定]
Cの被用者Aが、Bとの間で行った行為により、Bに損害が発生した。
[共通の設定]
Cの被用者Aが、Bとの間で行った行為により、Bに損害が発生した。
年-問-肢 | 内容 | 正誤 | |
---|---|---|---|
1 | H28-07-ウ | Cは、使用者責任に基づき、Bに対して本件事故から生じた損害を賠償した場合、Aに対して求償することができるが、その範囲が信義則上相当と認められる限度に制限される場合がある。 | ◯ |
2 | H25-09-1 | Cに雇用されているAが、勤務中にC所有の乗用車を運転し、営業活動のため顧客Bを同乗させている途中で、Dが運転していたD所有の乗用車と正面衝突した(なお、事故についてはAとDに過失がある。)。Cは、Bに対して事故によって受けたBの損害の全額を賠償した。この場合、Cは、BとDの過失割合に従って、Dに対して求償権を行使することができる。 | ◯ |
3 | H25-09-2 | Cは、Bに対して事故によって受けたBの損害の全額を賠償した。この場合、Cは、被用者であるAに対して求償権を行使することはできない。 | × |
4 | H24-09-3 | Cの使用者責任が認められてBに対して損害を賠償した場合には、CはAに対して求償することができるので、Aに資力があれば、最終的にはCはBに対して賠償した損害額の全額を常にAから回収することができる。 | × |
5 | H20-11-3 | AがCに雇用されており、AがCの事業の執行につきBに加害行為を行った場合には、CがBに対する損害賠償責任を負うのであって、CはAに対して求償することもできない。 | × |
6 | H18-11-4 | Aの不法行為がCの事業の執行につき行われたものであり、Cが使用者としての損害賠償責任を負担した場合、C自身は不法行為を行っていない以上、Cは負担した損害額の2分の1をAに対して求償できる。 | × |
7 | H14-11-3 | C、Bに対し損害賠償債務を負担したことに基づき損害を被った場合は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、Aに対し、損害の賠償又は求償の請求をすることができる。 | ◯ |
8 | H14-11-4 | Aが、自己の負担部分を超えて、Bに対し損害を賠償したときは、その超える部分につき、Cに対し、Cの負担部分の限度で求償することができる。 | ◯ |
9 | H11-09-4 | CがAの行為につきBに対して使用者責任を負う場合で、CがBに損害賠償金を支払ったときでも、Aに故意又は重大な過失があったときでなければ、Cは、Aに対して求償権を行使することができない。 | × |
10 | H06-07-4 | Aは、Bに対して損害の賠償をした場合、Cに求償することはできない。 | × |
11 | H04-09-4 | 従業員Aが宅地建物取引業者Cの業務を遂行中に第三者Bに不法行為による損害を与えた場合、Cは、その損害を賠償しなければならないが、Aに対してその求償をすることはできない。 | × |
こんにちは
平成18年問11-1の解説にある不真正連帯債務の絶対効は弁済、相殺、混同であるのに対し、平成25年問9-3の解説にある不真正連帯債務の絶対効は弁済、代物弁済、供託、相殺とあります。
何か違いがあるのでしょうか。
また、不真正連帯債務の絶対効は通常の連帯債務の絶対効と同じだと覚えていましたが、この認識は間違っていますか。
智様
ご質問ありがとうございます。
何の違いもありません。
記述にバラツキがあり、ご不便をお掛けして申し訳ありません。
こちらもおっしゃる通りです。
令和2年施行の民法改正で「不真正連帯債務」を通常の「連帯債務」と別に扱う必要がなくなっています。そこで、本問についても、「使用者と被用者は互いに連帯債務者」と整理し直しました。
もちろん、絶対効・相対効の区別も、通常の連帯債務の場合と同じです。
詳しくは、
■民法[17]連帯債務
4.連帯債務者の一人に生じた事由
をご確認ください。
ありがとうございます。
助かりました。
とんでもないです。
不明確な解説をそのままにしていて、申し訳ありませんでした。